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エッセイをはじめる

つい最近、親しい友人から「えっちゃんのエッセイを読んでみたいな」と言われたのが、noteをはじめたきっかけである。

もともと、小説家になる前に長いことブログを書いていて、それなりに評判も悪くなかったので、デビューしたあと、エッセイの仕事もできたらいいな、などとふわふわした甘い願望を持っていたりもしたのだが、もちろんそれほど調子よく人生は転がらず、いただく小説の仕事をアップアップと溺れかけながらこなしているうちに、エッセイのお仕事したいな♡どころか、ブログ更新は滞り、いつの間にか仕事の宣伝にしか使わなくなってしまった。

20代の頃から、向田邦子、寺山修司、森山大道、などのエッセイが好きでよく読んでいた。こう並べてみるとずいぶんと毛色が違うが、三人とも他にメインの仕事を持っているという共通点がある。向田さんは脚本家、寺山修司は……職業寺山修司、森山さんは写真家。
すごいのは、それだけで十分表現できる世界を持っていながら、エッセイではまたそれでしか醸し出せない世界を作り、わたしたちを引き込んでしまうことだ。
彼らの本は、今も書棚の手を伸ばしやすい場所に収まっていて、ことあるごとにぺらぺらっとめくって拾い読みしている。ただの言葉なのに、同じ日本語なのに、彼らだけにしか書けない研ぎ澄まされた調べがそこにある。それを読み、体内に流し込むと、しばし酔う。

文章を書くのが苦手だ、という人がいる。身近なところでは妹がそうだ。小学生の頃、どうしても作文が書けないというので「どれ」と見せてもらったら、文頭に「私は、」とだけ書いてあってびっくりしてしまった。そのとき何をアドバイスしたかは覚えていないが、世の中には書きたいことがない人もいるのだと知ったできごとだった。

わたしが文章を書くことが好きになったのは、まず父が無類の読書好きだったという土壌もあった上で、間違いなく、小学校一年と二年の担任だった、柴崎俊子先生のおかげである。とにかく、たくさん作文を書かせる先生だったのだ。
一年生など、書くこともたかが知れている。しかし書いて出すと、先生がピンク色のフェルトペンで、二重丸や花丸をつけてくれ、感想を書いてくれる。それが嬉しくてたまらなくて、先生を喜ばせたくて、父のおならがどんなに面白いか、などという家族の恥ずかしい話まで書きまくっては出した。
あの頃わたしは、柴崎先生からたいそう作文を褒められたという記憶があった。だから書くのが好きになったし、書くことが得意だと公言もできていた。
しかし何年か前、実家の押入れを整理していて出てきた当時の作文は、ちっとも褒められてなどいなかった。もちろんけなされていたわけではないが、先生のコメントには必ず「ここはもう少しこう書きましょう」とか「ここのお話をもう少し詳しく知りたいです」といった、ぴしっと指導する内容が入っていたのだ。
わたしはなぜ、あれを手放しに「褒められてる」と思っていたのだろう。注意を受け指導されることも、書いたものの反応として素直に嬉しかったのだろうか。7、8歳の自分に訊ねてみたい気もするが、書くことが好きになったのはその能天気のお陰かもしれないので、そのままにしておこう。

ともあれ、わたしは柴崎先生のおかげで書くことが大好きになり、一年の夏休みには絵本を作った。高学年では漫画を書く男の子と組んで原作を書き、中学では交換日記の形で複数の友人と小説ノートを回した。高校からバンド活動に入れ込んで書くことから遠ざかったが、三年生のときに現国の卒業課題に出された作文100枚は、ぶーぶー文句をいいつつも、書きはじめたらとてつもなく楽しくて、あっという間に書き上げた。
その後も友人たちと同人誌を作って5年ほど続けたり、小説創作の教室に入ったりと、書くことをやめずにいるうちに、小説家としてデビューした。

長いこと書くことが趣味だったので、小説家になってから趣味がなくなってしまった。今も「ご趣味は?」と訊かれると、「書くこと」と答えそうになる。
それでは恥ずかしいので、何かないかといつも考えている。しかし本当に、これといって見つからない。映画鑑賞といっても、周囲の映画好きと比べると恥ずかしいほど観ていないし、読書も同様。相撲観戦はここ数年やっているが、趣味というのとは違う気がする。ライブを観に行くことも好きだし贔屓のミュージシャンもいるが、ちっとも音楽に詳しくはないし、語れる口も持っていない。

やはりわたしは、書くことが好きなのだと思う。
小学生のとき「私は、」しか書けなかった妹が、最近、姪の小学校入学のためのショートエッセイに四苦八苦して、助けを求めてきた。
しかたない助言してやるか、と一仕事終えて送られてきたメールを夜中に開き「過去の問題と例文集」を読んだら、火が点いて気がついたら没頭していた。姪の可愛い笑顔を思いながらキーボードを叩くうち、止まらなくなったのである。
妹宛に送信ボタンを押して、姪も柴崎先生のような先生と出会えたらいいな、などと思いながら伸びをして窓を見たら、カーテンの隙間が白みはじめていた。

noteは、編集者もいないし校正も入らないから、書きっぱなしである。誰かからの依頼でもなく、当然仕事でもないし、仕事と家事と遊びの合間にちゃちゃーっと書いて、上げてしまうのでいいかな、と思っている。
だから、クオリティーはさほど高くはないかもしれない。それでもここまで書いてきて、小説とは違う筋肉を使う感じが楽しいので、ちょっと続けてみようと思う。

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