ラッコうどん【ショートショート】
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立ち食い蕎麦屋はいい。
足早に帰路に付く人々の雑踏の中、ぽっかりと明るい小さな空間がそこにある。
格別に寒く、腹が減って、しかもくたくたな時、駅のホームの立ち食い蕎麦屋は砂漠のオアシスに見える。自分にしか見えない幻なのかと疑いたくなる程に、人々はせわしなくこのオアシスを通りすぎて行く。
ほこりっぽく冷たい冬の空気から逃げるように、安心の扉をくぐった。途端に体中がもわりとあたたかな湿気に包まれる。眼鏡がくもる。豊かなお出汁の香り。
かたまってた心がじんわりと緩むのを感じた