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異次元世界のマレーシア 〜騒音は音楽?〜

 マレーシアでこれまでの体験を今後まとめていきます。これはどちらかというとメモまたは備忘録として残していきますので、適度にお読みください。

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 2019年8月に東海岸のとある町に引っ越してきました。当初はあまり気にならなかったのですが、数か月経つととにかく外がうるさい。何がうるさいって車とオートバイの改造車が日々走り回り、夜はゴー、ゴーと低音の腹の底に響く音が夜明けまで轟き、とにかくうるさくて眠れないのです。

 住んでいたコンドミニアムは幹線道路に接しており、2キロほどが一直線。ここを奴らは夜になるとレースをするのです。毎晩です。友人に言わせるとどうもイスラム教でご法度の賭けをやってレースをしているらしい。

 毎晩午後11時ぐらいからゴー、ゴーとけたたましい音がコンドミニアム中に響き渡っていました。ほかの住民は気にならないのかと思いきや、やはり気になっているらしいのですが、梨のつぶてでただただ黙っているしかないそうです。

 3日ほど眠れない日が続き、さすがに精神的な疲労もでたので、録画して警察に被害届を出しました。しかし、警察は何もしてくれず、仕方がないので、このコンドミニアムからは引っ越すことにしました。あまりにストレスが溜まり、日常生活に支障を来すまでだったので。

 今住んでいるところは大通りには接しておらず、こちらも当初はあまりうるさい音が鳴り響きませんでした。しかし、ここ数か月前から昼間もこのゴー、ゴーという音にまた悩まされはじめました。マレーシアでは昨年から敷かれていた活動制限令が緩和され始めたからのようです。

 隣には5星ホテルがあるのですが、この従業員のバイクもうるさい。従業員用駐車場に隣接しているため、午後11時ぐらいの帰宅時に大きな音がこれまた周辺に鳴り響く。最低3台はあって、すぐに立ち去るならともかく、エンジンをかけながら誰かと話していたりすると、その腹の底まで響く音には心底頭に来る。さすがに「昔よく泊まっていたけど」と前置きをして苦情を申し立て、今住んでいるコンド寄りには一切停めないよう強く求めて、対応はしてくれたんですが、20メートルほど離れただけで根本的な対策にはなっていないのです。

 日本でも昔(今でも?)、暴走族がよく夜中に走り回っていましたが、こちらはあのような変なクラクションは鳴らさず、ただ単にゴーという音が響くだけなのです。雑音とはこのことを指すのでしょう。ときおり爆発音のようなパンやパチパチと突然単発的に音を放つバイクもあってこれが最も頭に来る。あれはどういう仕掛けなんだろうか。

 バイクはみなとにかく新しく、傍から見ても騒音を出すかどうかはすぐに分かります。タイヤの車輪が異常に細いのが特徴です。マフラーも改造しているのでしょうが、それは僕にはよくわからない。

 また、うるさい車のほとんどが30年ほど前の古い車。運転手は傍から見ても金はなく、中年の人もけたたましい音を出して走っている。つまり、貧乏人しかこんなことはしないのです。金持ちがベンツに乗って騒音を出しているのは見たことがありません。

 しかし、なぜここまでこの人たちはこうまでしてうるさい音を出したがるのだろうか。自分を誇示するためのステータスなのかと思いましたが、どうも違うような気がする。時折、自分の車の前をけたたましい音を出して走るので、クラクションを鳴らし続けると意外にも一目散で逃げていくのです。臆病なのでしょうか。

 8月にアフガンでタリバンが政権を奪取し、その政策の一環として映画や音楽といったエンターテイメントの禁止が発表されました。そう、これがどうもこのバイクの騒音と絡んでいるような気がする。ちなみに、直接関係ありませんが、アフガンでは男はひげを剃っても整えてもいけないお触れが出たそうです。納豆食べたら絡まって大変なことになりそうですが。

 さて、私の住んでいる町はイスラム色が濃い町として有名で、州全体も含めてマレーシアで唯一映画館がありません。もちろんバーもなく、賭け事の一種と判断されるUFOキャッシャーもゲームセンターもありません。つまり、タリバンと同じようにエンターテイメントが禁止されているのです。

 クアラルンプールだと車でよく大きな音楽を出して走っている車を見かけるのですが、この町ではそれは皆無。マレーシアのイスラム教徒の間で人気の歌手もいますが、そういった音楽もほとんど流れておらず、なにか流れているとするとコーランの朗唱程度なのです。イスラム教では別段音楽を聞いたりすることは禁じられていないのですが、その音楽からの歌詞がイスラムの教えに反することがあるため、あまり勧められていないようです。
 
 ならば、楽器だけの音楽が受け入れられそうですが、そうもいかず。伝統的な楽器は太鼓や鐘なので、眠気を誘うことになり、車の中で聞くわけにはいかないのでしょう。ロックは眠気をさましますが、リズム自体が反イスラム的なのか、ここでは聞いている人はほとんどいません。

 となると、どうもエンジンやマフラーを改造してゴー、ゴーとけたたましく鳴らす騒音は、実は彼らにとって音楽のようなものなのではないだろうか。反イスラム的な歌詞もない、ただただ雷のような爆音を撒き散らし、ときおり花火のような破裂音を太鼓代わりに打ってみる。メロディーは自分のアクセルであって、自由自在に奏でることができ、おまけに走っている間に大勢に人に披露できる。つまり、こういうことなのではないだろうかと妙に最近納得がいっています。

 あれが音楽だとすると、さすがに警察に文句を言ったところで対応もしてくれまい。

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