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マレーシアからカスハラを考える

 カスハラ。。。ニュースをはじめて読んだ時、カステラの間違いかと思いましたが、正確にはカスタマー・ハラスメントの略称だそうです。日本では近年、カスタマーによる理不尽な要求や迷惑行為が散見されるとのことで、4月にJR東日本、きょう5月24日にはJR西日本が対処方針を発表しました。昔の日本はこんなことなかったのですが、どうしてこうなってしまったのでしょうか。マレーシアから「カスハラ」を考えます。


■マレーシアでカスハラはあるのか

 暴言や「土下座しろ」などと従業員に対して要求するそうですが、そのよく対象になるのがコンビニや飲食店な気がします。
 
 店側のちょっとしたミスが理不尽な要求につながっていくようですが、そもそもどうしてそんな些細なことでそういった要求になってしまうのでしょうか。カスハラする人はそんなに多いとは思えませんが、結論からいうと、日本人のおおらかさがまったくなくなってしまった結果のような気がします。

 マレーシアではカスハラなんというのは聞いたことがありません。そもそもコンビニも飲食店も突っ見どころ満載で、カスハラする前に呆れて笑ってしまうことが多い。僕はマレーシアに20年ぐらい住んでいて、実際あったケースはざっとこんな感じでしょうか。

・レストランでメニューから注文して5分後に「すみませんが、売り切れました」。。
・別のものを注文して出てきたものが異なる。
・コンビニの牛乳や飲料すべて賞味期限切れから2週間経っていた。
・商品について聞いても「さあ、わかりません」を連発。
・バーでビールを注文しようとしても外国人ウェイターは言葉がわからなかった。
・いらない商品をしつこくすすめてくる店員。
・会計時に紙幣が足りないので「お釣りが出ません」。
・トイレの場所を尋ねて行ったら閉鎖されていた。店員は場所を尋ねたからそう答えただけで、閉鎖されているかどうかは答える必要がなかった。
・4リンギの商品で10リンギを支払おうとしたら、計算機でお釣りの計算をはじめた。
・卵を買ったら、半分ぐらい腐っていた。
・コメを買ったら、中に虫がたくさん入っていた。

などなど、数え上げたらキリがありません。

 イライラすることもありますが、そもそも時給5リンギ(約150円)の店員に叱ったところでどうしようもありません。笑い飛ばすしかないのです。

 僕の場合、これまでサラワク州クチンの5つ星ホテルで部屋が停電したりしたので、このときばかりはマネージャーを呼んで30分ぐらい滔々と説教しましたが、カスハラはしていません。「こんなこともあるのね」ぐらいで済ませていかないと次から次へといろんなことが発生するのでいちいち怒っていたら精神的に持ちません。

 そもそもマレーシアには「常識」と呼ばれるものが皆無と言っていいでしょう。多民族社会であるがゆえ、それぞれの民族によって常識が異なります。

 唯一三大民族が共通するものとしては、各々の宗教のご法度である「人を殺してはいけない」、「人のものを盗んではいけない」などといったたぐいのもの。それら以外は共通共有認識はほとんどないし、逆にその違いが大きいためにマレーシアの人々はかなり寛容なんだと思います。

 先日、うちのマンション全体が1時間ほど停電し、それが原因でエレベーターが故障。最初は4基あるエレベーター全部が動かず、一番上の18階に住む人も階段で登っていましたが、さすがにこれはマネージメントにみな文句を言っていました。

 ただ、文句だけであって理不尽な要求はありません。ソーシャルメディアにもすぐにマレーシアの人はアップしたがりますが、「こんなことがあった。あとの判断はあなたに任せるわ」といった感覚で、ウジウジブツブツ文句は言わないのが特徴。

 日本では「お客様は神様」といいますが、ここで神様はアッラーであり、主キリストであり、もろもろの宗教の神であって、人間は神になりえない。なので、客は神ではなく、完全に従業員と客は対等なんです。

 カーシェアリングのGRAB。マレーシアではどこでも利用できます。あまり知られていませんが、運転手は実は客の評価もします。

 例えば、待ち合わせ場所にいなかったり、ドタキャンしたりすると運転手は客を査定して星をつけます。あまり星が低いとGRABの車がなかなか捕まらなくなるのです。

 つまり、「うちのサービスを使わないでください」という暗黙の却下なのです。もちろん客は運転手も評価するのですが、これはサービス提供側と受ける側が対等を示していると思います。

 そんなんで、マレーシアにはカスハラなんてないのです。

■カスハラは寛容欠如が原因

 「お客様は神様」が発展して、日本では「客が偉い」という到底理解できない発想が成り立ったのでしょう。確かに客はその商品やサービスがほしくてお金を払うのでしょうが、それはそれに対する対価です。

 コンビニでストローが渡されなくて理不尽な対応をするのはそもそも筋が違う。ストローに課金は今はしているようですが、「入っていないのですが。。。」で済む話が土下座までしなくてはならないとは。。。どんなヘボい神なんでしょうか。そもそも4~5円のストロー買っただけで神になれるのか。

社会心理学研究によると、クレーマーには、高学歴・高所得で社会階層が高い人が多いこと、自尊感情が高く完全主義的な傾向が強いこと、社会的不満が高いといった特徴があるとされています。 さらに、性格特性で 言うと、寛容性が低いといった特徴も挙げられます。

厚生労働省より

だそうで、さらにカスハラをする人は40~60代の男性に多いのだとか。それとお金があまりない人にこういったことをする人が多い気もするのです。

 僕の知る限り、お金持ちの人はカスハラはしません。富裕層は文句の一つも言いたくなるときはありますが、そもそもそんな小さなことで文句は言いません。

 カスハラの対処方針を出さないといけなくなるほど、ことが深刻になっているのでしょう。JR西日本は、

カスハラと判断される言動・行動が認められた場合、商品・サービスの提供や客への対応を中止する。

としていますが、英断です。そういった客に対しては「今後、JR西日本の電車全部利用できなくなりますよ」という脅しにもなるのでは? 

 銀行にもカスハラして認められたら「全預金引き上げてください。うちにはもう預金してもらわなくて結構です」と言い切ったほうがいいでしょう。

 今後、電子決済も更に普及すると思いますが、一旦こういった行為を認定されたら、電子決済カード上でブラックリスト化され、カスハラしたコンビニすべてで商品が買えないということにもなっていくのではないか。

 商品やサービスが受けられなくなるということはそういうことで、会社側が客を選んでいいと思います。これまで商品やサービスの提供側が低姿勢になりすぎていたのも問題だと思いますが、マレーシアのように客と対等の立場に立っていく必要はあるでしょう。

 日本では外国人が増えているようですが、寛容性がなければ、差別に繋がります。カスハラは寛容性のない狭い視野の人たちですが、寛容性のない人たちは外国語なんか無視して外国人にも日本語で文句を言ったりもするのでしょう。

 さて、この寛容性はどう育てたらいいのか。根本的なカスハラの撲滅の対処法はここにあると思いますが、これはいろんな文化と接していかない限りは寛容性は向上しない気がします。日本はここをどうするのか、大きな課題を抱えているのです。

 


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