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マレーシアの不法滞在外国人を考える

 マレーシアには不法滞在の外国人が極めて多いです。昨年12月21日にクアラルンプールのチャイナタウン向かいの一角を大規模な手入れが行われましたが、改めて外国人問題が浮き彫りになった気がします。


■不法滞在外国人はもう昔から

 不法滞在の外国人の摘発は今にはじまったわけではありません。

 僕が20年ぐらい前にマレーシアに来たときもその頃から外国人労働者の数を減らしたいと政府は言っていた記憶があります。摘発もその都度行われていました。

 これは推測ですが、マレーシアが工業化し始めた1980年代以降に徐々に外国人労働者は増えていったのだと思います。「外国人労働者」とこの記事では書きますが、これは日本人や欧米人のような管理職や駐在員のことではなく、低所得の非熟練労働者のことを指します。

 1980年代にマハティール政権下でマレーシアでは本格的に工業化が進み、マレーシアの人たちも徐々に中所得層に入っていきました。今では1世帯で所有する車が2~3台というのも珍しくありません。ある程度の仕事に就き、給与も安いため、いわゆる3Kの仕事を好みません。

 マレーシアで見受けられる外国人労働者は特に農園や製造業に多いです。国籍別に就業できる業種は決まっているようで、例えば、インドネシア人やバングラデシュ人、ベトナム人は製造業や農園、ミャンマー人はサービス業、ネパール人は警備業といった具合なのですが、これが法的に決められているのかどうかはわかりません。

 外国人労働者を入れて働かさせる場合はもちろん業者がいて正式な手続きを得て入国してくるのですが、陸路や海路でもすぐに入国できるため、不法滞在外国人が多くなるのです。一説には正規では200万人いるものの、不法滞在では200万人さらにいるので、外国人労働者だけで400万人もこの国にいるのだそうです。

 政府はとにかく外国人労働者数を減らしたいと常々言って、その都度何かしらの措置を出すのですが、これがことごとく失敗していると言っていいでしょう。そもそもマレーシア人が働かない分野を補完する形で入れており、そこをマレーシア人が働かない限りは難しい。外国人を入れないと家一つできないのが現実なのです。

■不法滞在外国人のプログラム

 12月21日に大掛かりな摘発がクアラルンプール市内でありましたが、その際は1011人が捕まったとか。完全武装の兵士を入れて摘発したのですが、それだけ厄介な外国人が摘発された地区には多かったということです。

 中華街の向かいにあるコタラヤという古いモールの裏あたりが摘発対象になったようですが、たしかにあの辺りは昔から怪しげな雰囲気があり、地元の人はほとんどいかない。その怪しさも今に始まったことではなく、昔からなのです。同じところで摘発は2、3日前にも行われてさらに逮捕者が出たようです。クアラルンプール市内だけでなく、遠いクランタン州コタバルでも1月6日に同じような場所が摘発されています。

 つまり、当局の取り締まりがこれまで甘ぬるかったわけで、摘発すればするほど逮捕者数は出るだけ不法滞在の外国人はいるということなのです。

 逮捕されると彼らはどうなるのでしょうか。彼らは国内13か所にある収容所に収容され、罰金などが科されその後に強制送還となります。その後は一定の期間は入国できない措置が取られます。

 不法滞在の外国人が逮捕されるとその会社は業務が成り立たなくなります。雇用主も彼らが不法でわかっていることを承知で雇っているのですが、政府は昨年初めに「労働力再調整プログラム2.0」なるものを実施しました。

 これは何かというと、「不法滞在外国人を雇っている雇用主は正直に申告して、正式に再雇用をすれば許してあげる」というもの。一定の金額は支払わないといけませんが、18歳から49歳までの年齢の不法滞在外国人で、それもほぼ全職種が対象。ただ、健康診断も求められ、何か病気がわかった場合(特に感染症)は却下されてしまいます。また、やはり上記に示したように国籍にとって職種は決まっているようで、例えばネパール人がメイドの仕事には就けないようです。

 このプログラムでどうも何十万人も不法滞在外国人が判明したようで、2022年に始まったプログラムは延長されました。一定の効果は出ているようです。ただ、それでもジャングルが多いこの国で、ジャングルの中に居住区をわざわざ作ってそこに住んで居住区外で働くインドネシア人もおり、なかなか人筋縄にはいかないのです。

 不法滞在の外国人はマレーシアだけではなかなか片付かないのも実情。各国で仕事がないために来てしまうので、結局は各国の経済が良くならない限りは彼らがマレーシアに来てしまうのです。さらにマレーシアは居心地がいいためにそのまま居着いてしまうのでしょう。

■何をしなければならないのか

 マレーシア政府もそれは百も承知で、そのため色んな国に投資という形で経済協力を高めたりしています。中でも隣国のインドネシアからの不法滞在外国人は最も多く、船でもこれてしまうため、マレーシア企業はさまざまな形で投資をして雇用を図るようにしています。そういった小さなことが結局はマレーシア企業の利益を守ることにもつながるのだろうと思いますが、それよりも、もう「国」や「地域」という単位で物事をみないと解決できないのではないか。世界的な民族移動が実はここ20年起こっていて、その対応に各国がまだ最終的な解決策が見いだせていないのでしょう。

 ウクライナ戦争やガザ地区の戦争といった「遠い戦争」がありますが、それでもこれらはもはやアジアでも身近な戦争といったほうがいいでしょう。特にガザの件については、マレーシアはイスラム教つながりで昔から高い関心をもっています。それほどな人数ではないにしろ、パレスチナ人がマレーシアに流れてくるケースもあります。また、アフガンやアフリカといった地域の人たちもマレーシアに流れてくるケースが後を絶たない状況をみると、さて、こういった人たちを人道的な観点から一概に送り返していいのだろうか。本国で生きていけない人たちが流れてくるわけで、マレーシアはそこは非常に寛大ではあります。ただ、では一定な条件が揃っていなければ断ってしまうのもどうかということにもなりますが、日本も含めて移民については各国が地球全体としてどう対応するのか、抜本的な話し合いが必要なのだと思います。



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