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マーケティングセンスを感じる人

ツイッターでも少し言及したのだが、ブラウブリッツ秋田の下澤悠太選手のnoteがとても面白かったので紹介したい。

まず1本目は、若年層を中心にサッカーのような長時間を要するコンテンツが見られなくなっているという話をフックに、どうやったら「ながら」ができないサッカーを観てもらえるのだろうか?という話。

この中で下澤選手は、サッカーは映画館で観る映画と違ってスマホの電源を切ることができないところを難点に挙げているのだが、実は私もこの点について以前サッカー好きな知人に「いまどきなかなか90分もサッカーだけのために時間使えないよね」という話したことがあった。

そのときに返ってきた答えがこうだった。

「え、俺全然観れますけどね」

いやいや、そうじゃないんだよ。言いたいことはそうじゃないんだよ。...と喉まで出かかって言うのをやめた。

ただ、サッカー好きな人にこういった話をすると、十中八九「見れないほうがおかしいのでは」「90分くらい見れるだろ、普通」といった反応をされる。なかなかこちらの言っていることが理解されないなと感じることが多い(ちなみに私は本当に90分見れないわけではない)。

2本目はこちら。

ざっくり言うと、サッカーにまったく興味がない人をどうやったらスタジアムに呼べるか、という話である。

この話の中で私が感動したのはこの部分だ。

サッカーにそこまで関心がない人に対して
「サッカーを観にきてください!」
と勧誘することは、
自分たちの利益を優先させている
テイカー的な行動なんじゃないかなと。

この発想ができるのはすごい。

多くのサッカー好きは、たとえば無料の招待券を配布するという行為を「ギバー」の行為と考えるのだ。

しかし、「サッカーを観に行く」という行為にかかるコストはチケット代だけではない。往復の交通費、時間、労力...。仮にチケットが無料だったとしても、足を運ぶ人は自分自身の「何か」を犠牲にしなければならない。

この発想も、サッカーが好きな人にはないのだ。「タダでサッカーの試合が見れるなんてラッキーでしょ、普通来るでしょ」と思っている。

確かに、極端に娯楽の選択肢が少ない地域やスマホがなかった時代であれば、招待券をばら撒けばお客さんを呼べたかもしれない。しかし今の時代はそうじゃない。ライバルは他のチームでも他のスポーツでもなく、Netflixであり、アマプラであり、YouTubeであり、Web漫画であり、ソーシャルゲームなのだ。お金をかけなくても娯楽の選択肢が無数にある。

まさに可処分時間・可処分精神の奪い合いが激化しているのである。その前提で、だいぶ厳し目に自社コンテンツを見なければ、文化として根付いていないものは到底生き残っていけない。正直ビジネス側の人間は「サッカーはオワコン」くらいに思っている程度でちょうどいいのではないかと思う。

では、サッカービジネスに関わる人間は、サッカーが好きじゃない人のほうがいいのか?というと、それもちょっと違うと思う。

基本的には好きじゃないとやれない仕事というか、やれなくはないけど、辛いばかりで面白くはないだろうなと思う。もっと条件の良い仕事は世の中にたくさんある。

つまり、サッカーをビジネスの視点でみる(=サッカー業界の将来の発展を考える)のであれば、サッカーを心から好きという気持ちを持ちつつも、その気持ちをいったん奥にしまって、まっさらな目で「突き放して」見られることが重要なのである。

よく鉄道会社は鉄道好きを採用しないとか、スポーツ業界や音楽業界ではファンは採用しないという話を聞くが、その理由の1つがこれなのではないかと私は思っている。基本的にマーケティングは、現在「顧客でない人」が対象となることが多いのだが、売り物に愛着がありすぎると、なかなかこの「顧客でない人」の気持ちが理解できないからだ。

しかし、当事者の多くは勘違いをしている。自分は売り物についてよく知っているし、研究しているから、自分の知識や経験は価値がある、と。確かに、それは「ある条件下では」価値がある。その条件というのは、まったくその対象物に興味がない人の視点に立つことができる場合である。

逆に言うと、この立場に立って物事が見られないなら、その偏った知識や経験はむしろ売り物を設計する上では害悪にしかならない。だったらまだ、何の知識もないほうがいい(だから多くの企業は自社製品のファンを採用しないのだと思う)。

今回私が下澤選手のnoteを読んで「素晴らしいマーケティングセンスの持ち主だ」と思ったのは、売り物について深い知識と愛着を持っているにもかかわらず、まったくその売り物に興味がない人の立場に完全に立てているというところだった。これは意図してできるものかというと、ちょっと違うと思っていて、まさに「センス」としか表現できない。

将来はぜひこの類稀なセンスを、サッカー界の発展に生かしてもらいたいなと心から思った。

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