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サッカーの楽しさを思い出した日

退任からバタバタでしたが、無事、南葛SCに入社しました。

入社初日はいきなりホームゲーム、しかも本降りの雨。にもかかわらず700名近い方が来場してくださった。結果は、前半に退場者が出て0-1で敗戦。内容は悪くなかっただけに、悔しい負けであった。

しかし、私はこの日を振り返って、トータルでは「楽しかった」という感想を抱いた。雨でずぶ濡れになりながら負け試合を見たのに楽しいって、どういうこと?と思われるかもしれない。私も、自分が思いのほか楽しんでいることに戸惑ってしまった。しかし、SNSを巡回してみると、同じ感触を得ていたのは私だけではなかった。多くの来場者の方々が、悔しさを滲ませながらも前向きな投稿をしていたのだ。来場者だけでない、選手たちもだ。

南葛のファン・サポーターや選手・関係者らが、厳しい状況でも前向きであり続けられるのには理由があるように思う。それは、南葛のビジョンなのではないだろうか。南葛には「葛飾からJリーグへ」という中長期の目標に加え、「ロベルトノート52ページ」「ボールはともだち」というキャプテン翼の物語に登場する揺るぎない思想が息づいている。

岩本GMにお声がけいただいて、ツイッターで南葛のアカウントをウォッチしていた時、キックオフ前にこのような投稿が流れてきて、思わずハッとしたことがあった。

「さあ、サッカーを楽しもう!」

そう言われて、自分は心の奥底で「えぇ?そんな無茶な」と思っていることに気がついた。

ご存知のように、サッカーは楽しいことばかりではない。それは、私のようなプレイヤーでない者にも言えることである。負けたら辛い。降格の危機に瀕すれば、懸命に応援してくれる人たちを不幸にしているような責任すら感じる。何をやってもうまくいかず、正しいことをしていても結果がついてこないこともある。

加えて言うなら、選手や監督と違ってフロント職は華々しい活躍をして褒められることがほとんどない。「トラブルは起こらなくて当然」「何かが起これば集中砲火を浴びる」という環境の中で、コロナ禍ではサポーター同士に意見の食い違いが生じることも多く、私は大好きだったはずのサッカーを楽しむどころか嫌いになりかけていた。

だから、この言葉にハッとしたのだ。

地域リーグの魅力

そして私は、昨日初めて地域リーグの試合会場に足を踏み入れた。それまでにもトレーニングマッチなどは見たことがあったが、こうやって人がたくさん来ている場に行くのは初めてだった。

そこに広がっていたのは、老若男女が、好きなスタイルでサッカーを楽しむ姿だった。誰かに何かを強制されることもなく、好きな服装をして、おのおのがサッカーを楽しんでいる。

キャプテン翼の「あねご」ルックで応援する女の子。めちゃめちゃ可愛い。

私も栃木から来た友人と、ポンチョを着て雨に濡れながら試合観戦したのだが、久しぶりにサッカーを見て心から「楽しい」と思えた。ちなみに、余談であるが結構な数の人がチームカラーとは全然違う色の他のJクラブのレインポンチョを着ていた。これは今のJリーグではあり得ない光景ではないだろうか。

確かに同じ色のユニフォームを着たファン・サポーターで埋め尽くされたスタジアムや一糸乱れぬ応援は、それはそれで美しく、素晴らしい。Jリーグが世界に誇れる文化である。

しかし一方で、さまざまな「べき」や「べからず」が存在することが、敷居をグッと上げてしまっている部分もあるように思う。コロナ禍でさらにその「べき」や「べからず」が増えてしまっていたこともあり(これについては仕方がないのだが)、地域リーグのフワッとした自由な緩い雰囲気や、みんなで作り上げている「手作り感」、オープンな雰囲気がなんとも心地よく感じたのだった。

原点回帰。そして、オシムさんの死

そんな感想を抱いて勤務初日を終え、仮住まいのビジネスホテルに帰ったら、元ジェフ千葉と日本代表で監督を務めていたイビチャ・オシム氏が亡くなったというニュースが飛びこんできた。

あまりにもショックで、1時間くらいベッドに転がって天井を見ていた。

オシムさんは、私がサッカーにどハマりしたきっかけを作った人物だった。それまでは、どちらかというと「応援が楽しい」とか「スタジアムの雰囲気が好き」でクラブや日本代表を応援してきたのだが、本当にサッカーそのものを面白いと感じたのは、オシムさん率いるジェフのサッカーが初めてだった。

私はオシムさんが亡くなったと聞いて、あの頃、毎週ワクワクしながら週末を待ちわびていた気持ちを鮮明に思い出した。当時のジェフもJ1の中ではそこまで強いチームではなかったけれども、選手たちが走って走って、とにかく走って、負けてもまた次の試合が見たいと思わせてくれるチームだった。周囲の人にウザがられるほど、寝ても覚めてもジェフとオシムさんの話をしていたように思う。

そのオシムさんが亡くなったという訃報を聞いた日に、奇しくも私は原点に返って、「サッカーは楽しい」と感じることができた。

これも何かの巡り合わせなのかもしれない。

オシムさん、長い間お疲れ様でした。どうか、安らかにお眠りください。

追記: 前職(栃木)がそんなに辛かったのかと心配された方がいらっしゃるようですが、そういうわけではなく、仕事として責任を負ってサッカーに関わると、おそらくどこでも辛いことの方が多いのではないかと思います。むしろ栃木では、そういった状態の時に励ましてくださる方が大勢いてありがたかったと思っています。

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