見出し画像

フォトコミュニケーションの世界にようこそ。

自分の標準語は写真語。次が30年前の方言です。

写真は言葉を介さずコミュニケーションする道具で

方言は18で地元を離れた時のまま。今使うと「古い」と言われます。

でもね、方言って、と〜っても便利。
なぜって、気分や感情がそのまま乗るし伝わりやすいから。

方言は「歌」みたいなものですから。
リズムやテンポや緩急抑揚。
歌詞である「ことば」より大切な部分こそ
相手に伝わる、伝えたい部分なんです。

一般的な言葉で言うと「ニュアンス」ですね。
会話では声のトーンや顔の表情がヒントになります。

写真もまた、歌みたいなもの。
どんな歌詞か、つまり「何が写っているか」よりも
どんな調子で歌うのか、「どう写っているか」
見る人は無意識にそこを感じ取ろうとします。

カラオケのように気分良く歌えば
(あー。この人は気持ちよさそうだな)が伝わる。
テクニック満載で聞かせるように歌えば
(あー。この人は歌がうまいな)が伝わる。

どちらも気持ちいいのは自分。
相手や周囲は付き合わされている。
それはコミュニケーションとは、ちょっとちがう。

写真で伝えたいのは、出会いの気分。
「わっ!」すごい、おいしそう、大きい、変わってる...
「えー!」なにそれ、おもしろい、ふしぎ、かわいい...
「はっ!」おどろいた、心揺れた、ドキッとした...

たいていの人は「」の次まで写真に入れようとする
でもそれだと「写真で説明している」だけになる。
そうなると写真は説明や状況証拠のような言葉の補佐になる。

そうじゃなく。

見た感じのまま撮るというのは
「わっ!」「えー!」「はっ!」
その部分で撮ることを指します。
そうすることで、写真を見る人も撮影者同様
「わっ!」「えー!」「はっ!」
そう感じることができるんですね。
(撮影者の追体験と呼んでいます)

あとは、見る人におまかせ。

場合によっては自分と異なる感覚かもしれません。
「わっ!おいしそう」と思って撮ったのに
「わっ!形が面白い」と感じられるかもしれない。
「わっ!色彩がきれい」と感じる人もいるかもしれない。
それが「フォトコミュニケーション」の醍醐味。

ひょっとするとあなたは「おいしそう」が伝えたくて
なんとか写真をそう見てほしくって
撮影技法を駆使してうまく伝えたいかもしれない。
でもね。
ちょっと思い出してほしいんだけど

「わっ!」と「おいしそう」と
どちらが先だった?どちらがインパクト大きかった?

視覚刺激で来る眼前の光景は
考える前に目に飛び込んできます。
たとえば向かって飛んでくる黒い虫のように
反射的にあなたは逃げるか手ではたくでしょう。
その虫がなんであるかを考える前に。
あるいはその黒い塊が虫と気付く前に。

「見た感じのまま撮る」ということは
まさにこの「目に飛び込んできた状態」
「わっ!」「えー!」「はっ!」の感嘆符部分。
そこを写真で再現することで
鑑賞者はあたかも自分が体験したような感覚になって
撮影者の気分を共有することができます。

これが無意識に人がやっている写真鑑賞の基本形です。



なんてことない、どこにも技術のかけらも見えない
うまさをちっとも感じさせない
その場に居たら誰でも撮れそうな
けれど、なんだかとってもイイカンジの写真。

人は撮影技術を覚えるほど、イイカンジから遠ざかります。
覚えた人はうれしくて、技術を使いたくて写真を撮る。
だけど技術はそのためにあるんじゃない。
見た感じを再現するためにあるんです。

「そんなことあるもんか。日頃、目にする写真は...」

ええ、ええ。そうですね。
雑誌、ポスター、街で駅で目にする写真のほとんどは
「誰かに」「何かを」伝える目的で撮られた広告写真ですよ。
商業写真なんです。商品を売るための。

で、あなたはあなたの写真で何を売りたいのですか。
自分の技術を見せびらかしたい?なるほど、なら結構。
苗を植える場だったりコンテストだったり
コミュニケーションじゃなく誇示や競技として出場する
そういう楽しみかたもありますからね。

でも。
もし自分のための自分らしい写真を撮りたいなら
見た感じのままを撮る練習するといいですよ。
もうね、撮影技術とかピンぼけとか構図なんかより先に
「ああ、なんだかこの写真、イイカンジだなあ〜」
訪れる人が写真を見て、ゆるんでくれます。
個々に楽しんでくれます。

きれいな写真より、美しい写真
うまい写真より、イイカンジの写真

経験年数なんかじゃない
持ってるカメラの程度でもない
あなたの感覚、あなたの感性
それがそのまま出ちゃう。
自分の知らない自分まで出ちゃうこともある。

この写真のどこが良いのか言えないけれど
いつまでも眺め続けていたい
なんとなく立ち去りがたい
そんな体験したいと思いませんか。

いつか見た、誰かが撮ってた、どこかで評価された
そんな写真と似た写真を撮っていれば
あなたは安心できるでしょう。
周囲の人も安心して評価してくれるでしょう。

でも、もしよかったら、あなたにしか撮れない
あなたらしい写真を撮ってみませんか。
そんな写真を僕は見たい。

言葉を交わさなくても
「あ〜○○さんて写真上こんな人なんだな〜」
想像が広がって楽しいですよ。

「うまく見えるように」なんて撮らなくていい。
もう「うまそうに見えるだけ」の写真は飽きた。
いずれ今のあなたもそんな時が来るでしょう。
そう思ったら、ちょっぴり試してみて。
案外、自分の写真に足枷になっているのは
「こうあるべき」という自分の固定観念だったりするから。