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イベントレポート:【社会起業塾OBOGに聞く】困難な社会課題に挑むための最初の仲間と資金をどう集めるのか

5月30日(月)に【社会起業塾OBOGに聞く】困難な社会課題に挑むための最初の仲間と資金をどう集めるのかというイベントが開催されました。

今回は認定特定非営利活動法人D×P 理事長の今井紀明氏、特定非営利活動法人ADDS 共同代表の竹内弓乃氏(以下敬称略)をゲストにお迎えしました。

本記事はイベントの中から、ビジネスの成長と社会課題の解決という両輪を進めていく上でのリアルな体験談が集まった対談パートをお届けします。

登壇者紹介

今井 紀明 氏(いまい のりあき)/ 認定特定非営利活動法人D×P 理事長

1985年札幌生まれ。立命館アジア太平洋大学(APU)卒。神戸在住、ステップファザー。
高校生のとき、イラクの子どもたちのために医療支援NGOを設立。その活動のために、当時、紛争地域だったイラクへ渡航。その際、現地の武装勢力に人質として拘束され、帰国後「自己責任」の言葉のもと日本社会から大きなバッシングを受ける。結果、対人恐怖症になるも、大学進学後友人らに支えられ復帰。偶然、中退・不登校を経験した10代と出会う。親や先生から否定された経験を持つ彼らと自身のバッシングされた経験が重なり、2012年にNPO法人D×Pを設立。経済困窮、家庭事情などで孤立しやすい10代が頼れる先をつくるべく、登録者7700名を超えるLINE相談「ユキサキチャット」で全国から相談に応じる。また定時制高校での授業や居場所事業を行なう。10代の声を聴いて伝えることを使命に、SNSなどで発信を続けている。
2012年度花王社会起業塾。

竹内 弓乃 氏(たけうち ゆの)/ 特定非営利活動法人ADDS 共同代表

2007年慶應義塾大学文学部心理学専攻卒業、同大学大学院社会学研究科心理学専攻修士課程修了、横浜国立大学大学院学校教育臨床専攻臨床心理学コース修士課程修了。
ある自閉症児とその家族との出会いをきっかけに学生セラピストの活動を始め、大学院にて臨床研究を重ねる傍ら、2009年ADDS設立。
親子向け療育プログラムや支援者研修プログラム、事業者向けカリキュラム構成システムの開発などに携わる。国立研究開発法人科学技術振興機構社会技術研究開発センター(JST-RISTEX)「SDGsの達成に向けた共創的研究開発プログラム(SOLVE for SDGs)」プログラムアドバイザー。NHK「でこぼこポン!」番組委員。
2009年度NEC社会起業塾。

今井さん、竹内さんが参加された社会起業塾イニシアティブについてはこちらからご覧ください!2024年度の応募を受付中です!(6/24正午〆切)

【社会起業塾OBOGに聞く】困難な社会課題に挑むための最初の仲間と資金をどう集めるのか

ここに至るまでの道のり

番野(ETIC.):お二人とも、とても大事な問題に対して様々な活動を組み合わせながら事業を進めておられると思います。ここに至るまでの道のりについて、創業期の方向けにシェアできることは何かありますか?

竹内:心掛けた点としては「小さく始める」ということをやりました。いきなり身一つで始めるというよりは、平日に大学の嘱託員をやりながら、発達支援のプログラムを作って準備をしました。幼児教室をされていたオーナーさんが、マンションの一室を、非稼働時間の日曜日だけ、一日5000円で貸してくれて支援提供を始めました。最初は5家庭だけを募集して、そこで効果検証をして、プログラムの質を高めていきました。
私たちは今までお金を借りたりしたこともなくて。立ち上げメンバーは3人いて、3万円ずつ出して、それ以来自分たちでお金を出したり借りたりはしたことがありません。何かを始めるときは、かなり勇気がいると思うんですけど、小さく始めることはできるし、そこで質を高めるということができます。そこが私たちのような普通の人にもできたポイントだったのかなと思います。

今井:僕はあくまでも個人的なケースとして考えていただきたいと思っていますが、やらないほうがいいパターンだと思います。札幌出身で、大阪で商社で働いていて、なんの知恵も専門性もないままNPOを起業しました。うちは最初の創業の融資金が100万と、自己資金の80万で始めてるので、180万円くらいで始めてます。
最初フルタイムは僕一人で、あとはインターン生と共同代表がいました。最初は寄付型のNPOにしようとしたんですが、信頼できないNPOには寄付が集まらないという背景がありました。当時、クラウドファンディングも始まったばかりの状態で、最初の3年間は事業型でやって、なんとか他の事業もやりつつ、自分たちがやりたいことは何かというのを常にスタッフと話してやってきました。3年目くらいから認定NPO法人をとり、それから寄付型の経営に転換していきました。だから苦労した点でいうと、やっぱり準備期間はちゃんと用意したほうがいいというのはすごく思っています。
僕の場合かなり無謀だったなというのがあって、ほんとに生活苦でした。一定の準備期間があって、ネットワークを作った上でやったほうがいいというのはあるので、本当に気を付けたほうがいいというのは、自分への自戒をこめて言いたいポイントだなと思っています。

最初にしておいた方がよいこと

番野:お二人とも準備するとか、小さく始めるとか、そういうことを仰ってくださいましたが、どんな準備をしておくのがいいとか、最初のタイミングでしておいて良かったこととか、皆さんに伝えるべきことはありますか?

今井:基本的にはニーズをいかに調査するかというのはポイントだと思います。自分たちが、誰のために何をやっていくかという時に、対象にしてる方々のことを知らないとよくわからないことになります。そこを知っていくというのがポイントなのかなと。
あとは色々な形で資金調達方法は考えたほうがいいとは思ってます。最初のうちはピボットじゃないですが、かなり色々試すしかないことが多いので、そこは模索していく必要性があるかなと思ってます。

竹内:私たちは創業してすぐ社会起業塾に参加させてもらえたので、それが準備期間みたいになったかなと思っていて。もうサービスは小さく始めてはいたんですけど、起業塾でニーズの代弁者になるというのをめちゃくちゃ叩き込まれて。自分たちは誰の、どういうニーズに応えるのか、ということをすごく問われましたね。
その中で、自分たちは社会の中でどういう機能を担うのか、やっぱり全国の支援を必要とする親子に届けたいという思いがあったので、直接支援を届けるだけでなく、それをできる人を育てる、学びの機能は大事にしようね、ということをすごく共有できました。それが今でも必ず立ち戻る地点になっていて。半年間の準備期間はすごくよかったなと思っています。

番野:私からも付け加えさせていただくと、昔、「起業するってリスクじゃないですか」ということを起業家のみなさんにアンケートをとったことがあるんですが、意外と「そうでもないです」っていう回答が多かったのが印象的でした。ある程度起業する前から試したり、色々調べたり、当事者に触れたりして、「こういう方向だったらいけるな」っていうのが見えているからこそ始めている部分もあるので、それほどリスクではないというような話を思い出しました。

何年目から食べていけるようになったのか

番野:「活動のみで食べていけるようになったのは始めてから何年目でしょうか」という質問をいただいているのですが、この質問を受けて何か言いたいことはありますか。

今井:今、うちは大阪府の平均給与並みにスタッフに出していて、正社員も今29人いて、色々な民間機関から転職、例えば児童相談所とか、専門のスタッフが非常に多いチームになってるんですが、スタッフがちゃんと食べれるようにしていったのは3~4年目くらいだったかなと思います。最初からしっかり準備していたらもうちょっと違っただろうなとは思っています。

竹内:私は大学院修士課程を修了したタイミングで、嘱託員をやりながら小さくスタートしたのが2009年です。なぜそのタイミングで立ち上げたかというと、博士課程にいくことも自分たちの中では決まっていて、今共同代表をしている熊と、2人とも奨学金まで決まってたのですが、2人とも願書を出し忘れて。。なので博士課程に行けなくなりました。願書を出し忘れるなんて珍しいこと、これもなにかの思し召しだと思い、だったら今から事業をスタートさせようということになったのがきっかけでした。
自分たちの思うプログラムの提供を始めてみて、その年に社会起業塾に参加させてもらいました。事業はそのまま続けながら、一年で色々考えて、一人ぐらいは臨床心理士の資格をとろうということになり、私は別の大学院にもう一回行くんですね。なので、そこからは学生と事業との二足の草鞋というか、その時に出産もしたから三足の草鞋という状況だったので、急いでこの活動だけで食べれるようにならなきゃ、とはなってなかったんですね。研究と事業とを一緒にやりながら、たっぷり時間をとって始めていきました。結局、それで生活していけるぐらいの収入を得てというのが三年目くらい。四年目に初めて創業メンバー以外のスタッフを雇ってるんですよね。そのくらいかけてやりました。

初期の仲間集めの方法

番野:ここに関連して、そういうタフな時期にどうやって仲間を集めたのか、という事前の質問がありました。ご自身の経験でもいいですし、そういうアドバイスを求められたらこういうことを伝えたい、みたいなことはありますか?

今井:初期の集め方は再現性がないかもしれないです。うちでいうと、なんとなく事業を起こしたいなと思っていた状態で、一番最初は大阪に誰も知り合いがいなかったので、1年目から家を開放して友達の友達までだったら誰でも来ていいみたいな形にして、年間300人くらい泊まったんです。

竹内:再現性がなさすぎますね(笑)

今井:基本的にはそこで国際協力とか教育関係の仲間は集めて、そこのメンバーがインターンになっていったりしていました。学校でのツテができたので通信制高校に行って、そこで色々なインスピレーションを受けて、事業など考えながら、やっていたというのが最初の1年間でした。
仲間集めに関してで言うと、事業や課題、ビジョンなど話していくしかないと思っています。ピッチとか、自分が関心ありそうなコミュニティで、どんどん人前で話していく必要性はあると思っています。今でもスタートアップ系のコミュニティで話したり、NPO関係とは違った形のコミュニティとかでガンガン話したり、経営者の集まった場で話したりしていますが、「この人、一緒に働けるかも」みたいな目線で色々な方と会っていくということを大切にしてやっています。それは創業期も同じかなと思っていて、自分だけの力でやるのは難しいので仲間を集めていくことが重要です。

竹内:私も再現性がないのですが、、創業時のメンバーと15年も、学生時代も入れると20年ぐらい一緒に走っていると、クラウドみたいな感じで、考えていることが自然に同期しながら色々な事を進めていけるのが、自分としてはありがたいなと思っています。そういう仲間にどう出会って一緒にやっていけばいいのか、どうやったらできるのかと考えてたんですが、まずは、自分が自分の思いにまず自覚的になって、それを言語化して伝えることを恐れない、ということは、仲間とのコミュニケーションとして出会った頃から大事にしてるなと。みんな心理学をずっと勉強してきているので、そこが若干得意なのかもしれないですけど。それがいい形で仲間と関係を築いたり続けたりするコツなのかなと思います。

番野:自分の思いを明確にしておくとどんないいことがあるんでしょうか?

竹内:思いを自覚して、大事な人に恐れず伝えるということなんですけど、そのコミュニケーションに耐えうる人に早く出会えるかもしれませんね。例えば、熊(共同代表)は、最初出会ったとき、すごいおしゃれで目立つ感じの子で、私は絶対友達にはなれないと思ったんですね。でも、たまたま毎日一緒にお弁当を食べるグループになって、何ヶ月か経ったとき、なんとなくこの本音を伝えてみようという気持ちになり、「いつも私とお弁当食べてくれてありがたいんだけど、一緒に食べてくださってる、って気持ちになるんだよね」みたいなことを急に伝えました。最初はやばい奴だなと思ったみたいなんですけど、自分の内面を全部急に言ってくるコミュニケーション、新しい、逆に信頼できる、みたいになったらしく、それからめちゃくちゃ仲良くなって、自閉症児の家庭療育のアルバイトも一緒にやるようになりました。それから今に至るまで、誰でも一緒にやっていれば、ちょっとした嫌なことだったり、齟齬や歪みが仲間の中で起きることは絶対にあると思うんですが、そういうのをまず自覚して、それを率直に、なるべく面白く伝えるということをしているので、ちょっとしたズレが大きくなる前に、向き合って冷静に解決できるという良さがあるかもしれないです。

ステージをあげるまで活動を続けてこられた要因

番野:他の質問も聞かせていただきます。最初はあの手この手で色々やりながら今があると思うのですが、それでも活動を続けてこられたモチベーションや熱量は何でしょうか、という質問をいただいています。最初の時期から次のステージに行けた要因は何だと思いますか?

竹内:宣伝するわけじゃないですけど、私たちは最初社会起業塾で「ニーズの代弁者になれ」と叩き込まれたっていうのがあるので、やめたり諦めたりできない身体になってます。ニーズがあるところに自分たちの活動があるので、続けていくことに迷いはなかったですね。

今井:そうですよね。社会起業塾で最初にビジョンをスタッフと話せたのは大きかったと思います。D×Pのビジョンは「一人一人の若者が自分の未来に希望を持てる社会」なんですが、そこからブレずにやってきてるというのは、ちゃんとスタッフと話せてきたからだと思ってます。ビジョンやミッションが明確になってくると、何のためにやってるのかが見えてくるし、それがないと、苦しい時期も仲間と乗り越えにくいし、事業もブレてしまうと思いますね。ビジョンやミッションをきちんと策定していくというのは大切にしたほうがいいと思います。これは株式会社でも同じです。
あとは、チームでまとまっていくためにも、色々な人に関わってもらう設計はしたほうがいいかなと思います。これは株式会社とかNPOによって状況が違うと思いますが、NPOの話だと、金銭的な側面よりは、プロボノとかボランティアさんとか、色々な関わり方の設計ができると思います。例えば、理事にいきなりなってもらうというよりは、最初はアドバイザーとして入ってもらうとか。どういう形で関わってもらうのか、試しに入ってもらうといいと思います。この方もしかしたら一緒にできるかもというときに業務委託からお願いするとか、プロボノからお願いするとか。そういう関係人口をいかに増やしていくのかは考えていいと思いますね。そうすると仲間ができるし、仲間ができてくると存続させやすいと思うので、ぜひ孤立せずにやってほしいなと思います。

事業の変化について

番野:社会起業塾でもNPOや社会起業家の大事な経営資源は人・もの・金・情報だけではなく「目的」だという話を最近しています。「目的」があることによって仲間が集まるというか、そういうことは社会的なことを目的にしている事業の、普通の営利組織にはない強みかなと思います。
今井さんは先ほどミッション・ビジョンが大事と仰られましたが、事業は創業当初から変わっていますよね。その辺はいかがですか?

今井:創業当初から株式会社や国ができないことをやりたいと思っていましたが、とはいえまずは事業化しないとプログラムもできないし、スタッフの雇用もできなかったので、最初はプログラムをやりつつ、別の事業を行っていました。
専門学校とコンサル契約してやっていたこともあったので、徐々に寄付型にシフトできるように事業を絞っていって、変えていったというのはあります。寄付型に変えてから、定時制高校や夜間定時制高校など、社会資源が乏しいところにプログラムを提供したり、居場所事業をやってきたんですが、やっていくうちに、学校内での事業の様子は寄付型と相性が悪いなと思いました。いかに直接子供たちに繋がってくのか、学校を通さず繋がっていくのかとなったとき、オンラインで相談事業をできないかと思って、新規事業を試しまくった時期があって。それが今のユキサキチャットに発展したんです。なのでD×Pは、事業形態も変わっていってます。こんな風に、新規事業というか、こういうニーズがあるかもみたいなのを、寄付型でも事業型でも試していくってことはとても重要だなと思いますね。

番野:ありがとうございます。そういう意味だと、ADDSの場合は最初の事業を残しつつ、新しいことも始めていると思うんですが、どういうことを大事にして事業を組み立てているんでしょうか?

竹内:色々やりますが、コアに絶対負けない専門性みたいなものを持って、そこからエッセンスを抽出して、色々なサービスに変換して提供していますね。そうすると、親子に支援を提供することはもちろんですが、そこで得たノウハウを支援者に売っていくこともできるし、企業や団体さんとか、行政に使ってもらえるということもあるので。すべての素はこだわってつくってきた実践の中にあり、そういう「秘伝のタレ」みたいなものを、どう違う料理にしていくかを試しながらやっていますね。そこはやっぱり重要かなと思ってます。

番野:事業をやりながらも「タレ」を作る、蓄えるということをされてたんですね。

竹内:そうですね、「ここだけは絶対負けない」っていうものを大事にしています。それを高め続けるというのはもちろん必要ですし、だから研究が欠かせないというのもあるんですけど。

最後にひとこと

ETIC.:最後に一言お願いします。

今井:ありがとうございました。ぜひ孤立しないでいただきたいというのがあります。起業すると悶々と人に相談できないということになりがちだし、特に会社経営をはじめた場合だとそうなる。NPO経営車など非営利でやっていく上では孤立しないということが重要なので、様々な社会資源とかETIC.などを頼っていってほしいと思います。

竹内:今日はすごくみなさんの話や悩み、疑問を聞いたりできて、私自身も勉強になりました。プレゼン内容を作っている中でも、創業10年とか15年経っていると忘れることも多いけれど、改めて立ち返って、創業の時に重要だったなと思うことを思い出せました。みなさんも個別相談など、そういった機会を持つといいと思いました

番野:ありがとうございました。

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