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みかん畑と貨物船

小学生の頃、夏休みになると母方の親戚と一緒に瀬戸内海の島に泊まるのが恒例になっていた。総勢は10人以上になる。

笠岡から船に乗り、島に着くとポンポン船が待っている。ぐるっと海岸を回り、小さな集落の民宿に着く。久しぶりに聞く方言の海に包まれる。

沖で父に海に放り込まれ、波消しのテトラポットまで泳げるようになると、釣り糸を垂れてベラやアブラメを釣った。

妹は集落の女の子と仲良くなった。浜では、上半身裸のお婆さんがササゲに棒を打ち付けて脱穀している。

フナムシがやたらと多く、海には独特の臭みがあった。大型魚に追われたのだろう、潮だまりに大量の小魚の群れが飛び込んできて、大人を呼ぶために走った。

叔父は投網を打つのが上手かった。投げた網は高く遠く、水面に点線できれいな円を描いて落ちた。父のバタフライが水しぶきをあげる。

夜、民宿の子どもが泣いていた。耳に虫が入ったらしい。大人たちが懐中電灯を照らしながら虫を取ろうとしている。認知症の祖母は突然シャツを脱いで裸になり、大人が止めに入る。

海から上がると、民宿のシャワーにも海水の味がした。親戚の子どもに、トランプで嘘をつく方法を教えた。

沖には遠く島が見える。大人になれば、泳いでいけるだろうか。照り付ける太陽はじりじりと肌を焼き、みかん畑に伸びる岸田劉生のような乾いた路をはあはあと登る。

山頂について向こうを見下ろすと、小さな港があり、赤い貨物船が停まっていた。


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