カプサイシン積出港
横たわり眠りにつくとき、へそのあたりに手を重ね、呼吸を整え、こころをきれいにすることに集中する。数えきれない就寝の末、現時点では最良の方法である。
それでも、ハードボイルドな夢を見る。間に合わない、巻き込まれる、追い込まれる、闘う。1か月分の雨が一日に降るように、1か月分の言葉が一夜に決壊し、硬直して息も絶え絶えに目覚めることがある。
夢は高いところから降りてくるのではなく、深い澱から浮き出して、油膜を張る。どこか遠くから授けられるのではなく、自らが産生している。不安や記憶、暴力性が顕在化する。
本当の自分は何者なのか、夢は自覚を促す。覚醒に対して変化を求める。さもなくば、夢は終わらないと。覚醒は夢に対して求めることはできない。だから沈静し、浄化をこころみ、幸せな夜を願う。
就寝後、足の指先に仄かな熱を感じた。夕食のペペロンチーノに入れたトウガラシの辛味成分、カプサイシンが届いたのだ。鞘の焦げた甘美な香ばしさまで感じる。ニンニクやオリーブオイルと相まって血が巡り、竜飛岬のような荒涼とした末端に運ばれていく。
カプサイシンが次々と到着する。そこは大きなコンテナターミナルだった。色とりどりの40ftコンテナにカプサイシンが収められ、整然と積まれている。たくさんの人がさまざまな車両に乗って動き回っている。コンテナはクレーンで吊り上げられ、停泊する貨物船の甲板に降ろされる。
海は照り映えてきらめく。走り出して作業に加わり、嬉々として私のカプサイシンを運ぶ私を見て、みんなが笑う。船に手を振る。
Bon Voyage !
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