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【私たちのエコロジー展】 現代アートが語る環境危機(森美術館)

こんにちは。休日の美術館巡りが大好きなRyan(ライアン)です。

先日、森美術館で2024年3月31日(日)まで開催の展覧会『私たちのエコロジー:地球という惑星を生きるために』展に行ってきました!

実際に行ってみて感じたことや学んだことを、レポート形式で紹介します。


私たちのエコロジー展について

私たちのエコロジー展の入り口

森美術館開館20周年記念の第2弾の展覧会。
第1弾『ワールド・クラスルーム:現代アートの国語・算数・理科・社会』展では、現代アートの楽しみ方を改めて提案し、森美術館のコレクションを中心にこれまでの活動を振り返るコンセプトで春夏に開催していました。

第2弾の『私たちのエコロジー:地球という惑星を生きるために』展は、次の20年さらなる未来に向けて、今世界が直面しているの喫緊の課題に現代アートの観点から対峙しようというコンセプトで開催されています。

地球環境を題材にした現代アートの作品を通して、私たちの生活を見つめ直す展覧会となるでしょう。

展覧会のポイント

①環境危機と現代アート

世界共通の喫緊の課題である環境危機に対し、現代アートがどのように向き合い、私たちの問題としていかに意識が喚起されるのか。世界16カ国、34人のアーティストが作品に込めたコンセプトや隠喩、素材、制作プロセスなどを読み解き、ともに未来の可能性を考えます。

②エコロジーの観点から読み解く

ゲスト・キュレーターのバート・ウィンザー=タマキによる「第2章:土に還る 1950年代から1980年代の日本におけるアートとエコロジー」では、1950年代から1980年代に日本のアーティストが、当時社会問題となっていた公害や放射能汚染問題にどのように向き合ってきたかを紹介します。昨今、世界各地で環境問題に関する展覧会が開催されていますが、なかでも本章は、本展を日本の文脈から特徴づけるユニークな試みです。

③国内外のアーティストの新作多数

できる限り作品というモノ自体の輸送を減らし、作家本人が来日し、新作を制作してもらうことを計画しました。アーティストを文化の媒介者と捉え、モノの移動よりも、人的なネットワークや繋がりを構築することにエコロジカルな価値を見出します。日本でのリサーチに基づいて制作された新作群は、展示室のスペースの半分以上を占めます。

④日常を再利用する

本展では、身近な環境にあるものを素材として再利用した作品が多く出展されます。森美術館の1キロメートル四方に生えている植物を調査・採取して押し花にするジェフ・ゲイスの作品、六本木から銀座への道すがら発見したものを組み込んだケイト・ニュービーのインスタレーション、インドのアランで解体された日本籍のケミカル・タンカーの計器を用いて、海洋環境について、2つの場所と視点から考えるダニエル・ターナーの新作、ゴミを高温で溶解させたスラグと大理石を並置する保良雄のインスタレーション、貝殻を観客が踏みしめる感覚と音を体験できるニナ・カネルの作品など様々です。なお、カネルの観客によって粉砕された貝殻は、展覧会終了後、セメントの原料としてさらに再利用される予定です。

⑤環境に配慮した展示デザイン

前の展覧会の展示壁および壁パネルを一部再利用し、塗装仕上げを省くことで、環境に配慮した展示デザインとなっています。また、世界初の100%リサイクル可能な石膏ボードを採用するほか、再生素材を活用した建材の使用、資材の再利用による廃棄物の削減など省資源化に取り組みます。


レポート

本展では、国内外のアーティスト34名による歴史的な作品から新作まで多様な表現作品の約100点を、4つの章で紹介されています。

第1章「全ては繋がっている」

環境や生態系と人間の活動が複雑に絡み合う現実。
本展で定義されている「エコロジー」は、「環境」だけに留まらず、この地球上に存在する全てのモノ、コトが繋がっていることに焦点を置いています。
その循環のプロセスを様々な形で表現する現代アーティストたちの作品が紹介されていました。

ニナ・カネル《マッスル・メモリー》

例えば、ニナ・カネル《マッスル・メモリー》の作品は、来場者が作品の上を歩き、貝殻を砕くという大規模なインスタレーションを体験できます。
実際に北海道で廃棄された帆立の貝殻が敷き詰められており、総重量およそ5トンの細かく砕かれた貝殻は、のちにコンクリートの材料にリサイクルされ、完成する作品です。

貝殻という有機物がセメントなどの建材に変換されるプロセスを追体験でき、広大で複雑に絡み合う循環の中に自分たちがいることを想起されます。

第2章「土に還る」

日本で戦後の高度経済成長期の裏で問題となった自然災害や工業汚染、放射能汚染などに起因する深刻な環境問題。
この現実を社会や現代美術史、エコロジーの観点から読み解くべく、1950年代以降の日本人アーティストは環境問題に対してどのように向き合ってきたのでしょうか?

右:谷口雅邦《発芽する? プリーズ!》
左:殿敷 侃《山口—日本海ー二位ノ浜 お好み焼き》

自然の持つ力をテーマにした生花作家の谷口雅邦さん作品《発芽する? プリーズ!》は、大胆な造形で黄土色の土を押し固め、とうもろこしなどのさまざまな穀物が植えられています。
見た目は華やかでなくても、そこには命を育む土と根を張る植物があり、未来を託しているように見えます。

廃棄物を使った作品で知られる殿敷 侃(とのしき ただし)さんは、創作の拠点とした山口県の海岸で、住民と共に2トンのごみを収集して焼き固めた《山口—日本海ー二位ノ浜 お好み焼き》という作品を作成しました。
この作品を通して制作過程を鑑賞することで、被曝を経験した殿敷さんからのアラートに感じました。

殿敷 侃《山口—日本海ー二位ノ浜 お好み焼き》制作映像写真

それぞれ豊かさの陰で文明が発展して産み出した物の成れの果てとして鑑賞者に鋭く問いかける作品でした。

第3章「大いなる加速」

人類による過度な地球資源の開発の影響を明らかにすると同時に、ある種の「希望」も提示する作品が紹介されていました。

モニラ・アルカディリ《恨み言》

クウェート出身のモニラ・アルカディリさんの作品《恨み言》。
巨大な白い球体は、真珠を模しており、豊かな自然に向けられた人間の飽くなき欲望をテーマにしています。
球体に近づくと、女性の声が嘆きのように聞こえ、何かを訴えているように感じます。
実は、モニらさんの故郷のペルシャワンでは天然養殖が大きな産業でしたが、100年ほど前に日本で真珠の養殖が始まったことで産業が衰退し、その後石油産業が発達しました。モニらさんは「持続的な自然破壊は超自然的な『憑依状態』による行為である」と捉え直し、「侵入」「搾取」「干渉」「劣化」「変貌」の恨みが語られています。
それぞれ誰の視点での恨みかを想起させられ、作品が捉える環境テーマについて深く考える時間となりました。

第4章「未来は私たちの中にある」

アクティビズム、先住民の叡智、フェミニズム、AIや集合知(CI)、精神性(スピリチュアリティ)などさまざまな表現にみられる、最先端のテクノロジーと古来の技術の双方の考察をとおして、未来の可能性を描いた作品が紹介されていました。


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