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戸々咲雫のエターナルウェル
2023年1月17日 21:02
夏の始めの、僅かに熱を孕んだ風が緩やかに過ぎて行く。 夕暮れの人々のざわめきをはらんで、日干し煉瓦の街路を通り抜けていく。 黄昏時の空は、ゆっくりと薄紫と橙に鮮やかに染まり始めていた。「マーマ、お空が綺麗。」 指差す小さな手と向けられた屈託のない笑みに、マリは蕩ける様に微笑む。「本当、とっても綺麗ね。」 湿り気のない、夏が始まる前の、まだそれほど熱を孕んでいない風。 黄