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元カレに会って気づいたこと

先週の日曜日、久しぶりに元カレに会った。ちょっと髪が伸びていた。

付き合っていた頃は、会うたびに雨が降っていたのに、その日は快晴だった。慣れない晴れの日の待ち合わせにそわそわしながら、自習室を出た。

当時そうしていたように、ミナミの商店街をぷらぷらして、アメリカ村に行き、サイゼで夜ご飯を食べた。私はトマトパスタと蒸し鶏のサラダ、彼はカルボナーラとエスカルゴを食べた。彼は変わらず、自分のしたいことを主張せずに、楽しそうにしている私を見てニコニコしていた。そんな彼を見て、私はちょっとだけ、元に戻りたくなった。

彼は中3と高1のときのクラスメイトだった。理系に強くて、成績は常に上位、スポーツもそれなりにできる、誰とでも仲良くできて、強がりなのにどこかおどおどしていて、寝顔が可愛い、まもりたくなるような子だった。
高1の冬、席が前後になった。冬の間、席替えを3回したのに、場所は変わらなくて、ずっと前後だった。また?もう飽きたwなんて言いながら、実はめちゃめちゃ嬉しくて、次の席替えが近づくのが嫌だったのを覚えている。
お互いの友達のこと、お互いの家族のこと、進路のこと、将来の夢、好きなタイプのこと、私にだけ明かしてくれた彼の趣味、毎日色んな話をした。授業中も休み時間も、彼の身体は常に半分後ろを向いていた。毎日が本当に楽しかった。男性恐怖症で、あまり男の子と話したことがない私にとって、彼を好きになるのは時間の問題だった。
当時私は化学の成績が危なくて、学年末テストで60点を取らなければ追試、という状況だった。みんなにそれを話していると、彼が「俺が絶対60点以上取らせる」とぼそっと言った。みんなには聞こえていなかった。そんなん言われたら、好きになるにきまってるやん。しかも俺が○○させる、とか言われたの初めてやったし。頼りたくなるやんそんなん。
次の日から、彼は私につきっきりで化学を教えてくれた。絶対にできるようになるから、大丈夫、と言いながら、原子の構造すら、周期表すら危うかった私が酸化還元反応を理解できるようになるまで、何度同じ問題を聞き返しても、根気強く教えてくれた。休み時間も放課後も、休みの日でさえも。その根気のおかげで、私の化学の力はちょっとずつ成長して、遂に酸化還元反応のテストで9割くらい取れるまでになった。これまで大した成功体験がなかったので、その時は本当に嬉しかった。彼は「ほら言ったやろ?やっぱりやん。笑」とクールそうにしていた。なんだかそれも嬉しかった。

それからかくかくしかじかあって、私たちはお互いが17歳の春に付き合うことになった。告白は彼からしてくれた。嬉しかった。それから1ヶ月くらいずっとそわそわしていた。デートもたくさんした。大切な思い出ができた。わたしにはこんなことできないと思っていた。初めての、ちゃんとした青春だった。私は付き合う少し前に不登校になり、留年が決まっていたので、4月から彼だけが受験生、というタイミングだった。彼は東京の最難関大学を目指していた。
『邪魔したくない』
努力家の彼の夢を邪魔したくなくて、私は極力、彼に負担をかけまいとした。こんな留年女と付き合っているのがばれたら彼が何か言われてしまうかもしれない、だからこの関係を周りに隠そう、彼の時間を奪うわけにはいかない、私からの連絡は控えよう、彼の感情を振り回すわけにはいかない、だから不満や我慢があっても、それを彼に伝えないで自分で解決しよう、今思えばこれが全て徒になった。彼に気を使っているように見えて、自分が嫌われるのを怖がって、気持ちを隠しているだけだった。私は彼ときちんとぶつかり、向き合うことを避けていた。隠しちゃうと何もいい方向に進まない。当時の私は、周りが全員年下の新しい環境に馴れること、前とは違い膨大な量の小テストや課題が与えられる学年団について行くことに毎日必死で、心の余裕がなくなってきていた。自分がした決断なのに情けない話だけど、本当に毎日キツくて、今日だけ頑張って辞めよう、と毎日考えながら学校に通っていた。受験生になった彼は私を顧みず、どんどん自分の夢に向かって進んでいく。かっこよかったけど、寂しかった。前みたいに、絶対にできるようになるから、大丈夫、と言って寄り添って欲しかった。その愚かな配慮という名の保身と、余裕の無さのせいで、彼との関係性に生じた不安や不満が爆発するのは、時間の問題だった。
友達に愚痴ってしまった。愚痴りだすと止まらなくなった。最低なことをしていると思いながらも、やめられなかった。友達の相槌が気持ちよくなって、彼の悪口のような内容まで、ひたすら愚痴ってしまった。その勢いのまま、彼に別れようと言ってしまった。彼を傷つけてしまった。本当に人として最低なことをした。彼のくれたたくさんの思い出にも、泥を塗ってしまった。
付き合ってからの不満はそれなりにあった。物理的に会えないこと、いつも主語が「俺」で、ひたすら自分の話しかしないこと、私に興味を示さないこと、梅酒飲んだ自慢をすること、自分を大きく見せたがること、ラインが素っ気ないこと、連絡してこないこと、自分勝手なこと、いろいろあった。全部、彼と話し合って解決するべきだったのに。こんなもん、致命的な欠点でもない。裏返せば愛しさに変わるかわいいものだ。それなのに、嫌われるのが怖くて、持ち前の隠し癖を発揮して、隠し通すならいいものの、友達に愚痴ってしまった。本当に申し訳ない。最低だ。

久しぶりに彼に会って、私のしたことの愚かさに気づいた。会うまでは、あんなくそ元カレ、会って弄んでやる、とまで思っていた。でも緊張からか真っ赤になった彼の耳を見て、私に向けられた彼の真っ直ぐな笑顔に触れて、何も変わらない楽しそうな自分語りを聞いて、あぁ、あの時怖がらずに気持ちをぶつけられていたら、もっとうまくやれてたのかな、と少し寂しくなった。照れ臭そうに笑う彼の顔を見るのは、心が痛かった。浮気をされたわけでもないのに、一方的に振って、本当に最低だ。聞けば、彼も振られた理由は未だよくわかっていないという。保身に必死になって、相手を傷つけてしまった。寂しい思いをさせてしまったかもしれないし、混乱させてしまったかもしれない。ラインがそっけなかったのは、彼がラインを苦手だったからだと知った。ならそれをわかってあげるべきだった。こんな話し合いをたくさんして、お互いに成長していくべきだったのに。
彼には幸せになってほしい。いい人を見つけてほしい。切に願う。きっと彼は、言われんでも見つけるわ、と言うと思うけれど。

気持ちを隠しちゃうと、なんにもいいことない。みんなが寂しくなるだけだ。大事な相手を傷つけてしまった。

もうしたくない。







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