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児童文学『ア・フィッシュパンケーキ・ストーリー』


  ア・フィッシュパンケーキ・ストーリー

昔むかし、ある国の小さな町にとってもいじわるでよくばりなジョージというおじいさんがいました。
歳で仕事をやめてからはこれといってやることもなく、毎日が退屈。
そんな毎日が嫌になったジョージは、ある頃から町に出てきては人々を困らせたり、いじわるなことばかりするようになったのです。

ある朝、ジョージは思いつきます。
「そうだ! この町のありとあらゆる海や川から魚を取り、ひとりじめにしてやろうと!」
魚はこの村の名物であるとともに、人々にとって生きるために必要な大切な食べ物。ましてや1週間後には村のお魚祭りがあるのだ。
ジョージは、さっそく計画を実行し始めます。
「ウッシッシ、こりゃ楽しみじゃわい」

お魚祭りの前夜。
なんと、町の海や川から魚が1匹もいなくなっていたのです。
町の人たちはとうとう困りはててしまいました。
それを見たジョージは「ガハハハ! なんてユカイなんじゃ。この町の魚はぜーんぶワシのモノじゃ」と町の人たちに魚を1匹も分けあたえることなどしません。
ジョージは、魚を家の巨大ないけすに全て入れてしまうと、その晩、ひとりごうかなお魚料理を作って食べました。
「あー美味しい美味しい、なんて美味しい魚なんじゃ。この魚たちはぜーんぶワシのモノ!」

だが翌朝、なんとジョージは昨日食べたフグの毒によって死んでしまいました。
わるいことをしたバチが当たったのです。



あの世へ行ったジョージは、そこで神さまと出会い、必死にお願いしました。
「あぁ神さまや、もうわるいことはしません。もう一度チャンスをくださいませ。どうかこのワシを生き返らせてくださいませぬか」
すると神さまは「わかった、お主にもう一度だけやり直すチャンスをやろう」と告げ、改心するジョージを再び生き返させることにしました。

だが、ジョージはひそかにまたわるだくみを考えていました。
「ヒヒヒ、生まれかわったら、今度は何をしてやろうかのぉ」

目の前が真っ黒につつまれ、ジョージは神さまの力でついに生まれかわりました。
しばらくして、どこからかあま〜いにおいがしてきて、ジョージはゆっくりと目を開けました。
すると、ジョージはてっぱんの上でたい焼きとなって焼かれていたのです。
「な、なんじゃここは! なんじゃワシのこの姿は! 魚のパンケーキ!?」
ジョージは、驚いてピチピチととびはねます。

すると、たい焼きをながめていた小さな人間の男の子と目が合います。
「ママ、これがいい!」
「あんこがいいのね!」
と、ママは男の子にたい焼きの姿になってしまったジョージを買ってあげました。
「このままだと、この子に食べられてまた死んでしまう。神さまはなんでワシをこんな姿で生き返らせたんじゃ」
ジョージは、男の子の手にしっかりとにぎられて身動きがとれません。
「うぅ……はなしてくれ……」

親子は家に帰ると、男の子はジョージをテーブルに置き、ビデオを見始めました。
ママはひと息つき、しばらくすると居眠りを始めました。

男の子はビデオを夢中になって見ています。
画面には、泣いている男の子にあんぱんの顔をした正義のみかたが、自分の顔をわけあたえ、元気づけている映像が映し出されている。
気づけばジョージもそのビデオを一緒に見てしまっていました。
「しまった、このスキに早く逃げねば! このままじゃ食べられて死んでしまうわい」
ジョージは、ピチピチととびはね、テーブルから降りようとします。

モクモクモク
外が暗くなりだすと
ザーザーザー
ゴロゴロゴロ、ドーン!!
と、大雨とかみなりが鳴りだしました。
ママはハッと飛び起きると、慌てて庭へ洗濯物を取り込みに行きました。
かみなりはどんどんどんどん、
大きく音を立て近づいてくる。
男の子は、かみなりが怖くて怖くて、ついには泣きだしてしまいました。
「ママー! 怖いよママー!」
ママは大雨の中、大急ぎで庭の洗濯物を取り込んでいて、男の子の声が全く聞こえていません。
「助けてー! 怖いよー!」
飛び跳ねて逃げるジョージは、男の子の声を背に、一瞬立ち止まり振り返りました。
「だけど……ワシは……」
なんだかおなかのあんこが重く感じる。

ジョージは、飛び跳ねました。男の子の元へ!
男の子のひざの上にピチピチとはねて着地。
男の子は目をこすると、たい焼きのジョージを見つけました。
「ほら、ワシを食べなさい! 美味しいぞぉ〜」
男の子は、泣き止むとたい焼きのジョージを手に取り、パクッと一口食べました。
すると、「ん、美味しい! ふふ」と男の子はたい焼きを食べて笑顔になりました。
おなかのあんこも徐々に軽くなっていく。
「これでワシはまたあの世へ逆戻りじゃな……でも、なんだかわるい気はしないのぉ」


翌朝、目を覚ましたジョージは、自分の家の食べかけのお魚料理の前にいました。
ジョージは、いつのまにか元の人間の姿に戻っていたのです。
「さっきのは夢じゃったのか……」
ふとおなかのあたりが気にするジョージ。
「まだ重いのぉ……おなかの……あっ!」
おなかの中にまだ不思議とモヤモヤがあるジョージは、いけすでおよぐ魚を見つめた。
ジョージは思い出していたのだ。
魚のパンケーキを食べるあの男の子の笑顔を。

その晩、町のお魚祭りにはジョージからたくさんのお魚料理が届けらた。
久しぶりに人々のために腕を振るったジョージ。
ジョージは元料理人だったのだ。
町の人々がお魚祭りの会場に集まると、ジョージは人々に向かってあやまった。
「この町の魚を勝手に取ってしまったのはこのワシじゃ。今ではとてもすまないことをしたと思っておる……」
ジョージは頭を深く下げた。
「おわびにはならないが、この魚料理はワシが作ったものじゃ。残りの魚たちはすでに元の場所へ返しておる。よかったら食べてくれんかのぉ」
町の人々は少しとまどっているようすだ。
ジョージはうつむいたまま話を続けた。
「ワシは、大切なことを思い出せた。自分のためばかりではなく、ほかの誰かのために何かをしてあげることがこんなにも素晴らしいことだったと……すまない……」

すると町の人々は、ジョージの作ったお魚料理を食べてみることにした。
すると……。
「ほぉ、これはうまいのぉ!」
「本当だ! こりゃ絶品じゃな!」
「あら、ほんと! おいしいわね!」
ジョージは、またあの時と同じ気持ちになれた気がした。気づけばおなかの不思議なモヤモヤもなくなっていた。

それから、町の人々はジョージをゆるすことにした。心をいれかえ、反省したジョージをもうわるく言うものは誰もいません。
だがある朝、ジョージは突然町を去ってしまった。
ガタンゴトン、ガタンゴトン、と走る列車の窓際からジョージは行先を眺めていた。
ジョージは心に決めていた。
あの時、男の子が笑顔になってくれたあの不思議な魚のパンケーキをいつか作れるようになって、今度は町の人々に食べさせたいと! みんなに笑顔になってもらいたいと!

(そういえばあの魚のパンケーキ、名前はなんて言うんじゃろうか……この際“フィッシュパンケーキ”と呼ぶのはどうじゃろうかのぉ)
そんなことを考えながら、ジョージは久しぶりに笑顔をうかべた。
                 (終)
      ↓エンディング↓


原作者メモ
「本当にイジワルでよくばりで嫌な嫌な会社の上司がいて、私は常に願っていました。いつか彼が生まれ変わり改心してくれることを。善良な人間になってくれることを。神社で神さまにお願いしたこともあります。もちろん、私もそのような人間にならないように自分自身を見つめ直したい。妻や子どものためにも。クリスマスの日、そんな願いとフラストレーションを内に抱えながら、大好きなたい焼きを食べていた時、この物語を夜空に思い描きました。願いが届くといいなぁ」

       著:江川 知弘

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