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緑~最後に祖父の髪を梳いた櫛~

緑は安らぎや癒しの色。

リラックスさせる効果もあるそうだ。

 緑と聞くと、私が最初に思い出すのは祖父だ。祖父は自然をこよなく愛する人だった。庭には沢山の植物があったし、それを管理しているのは祖父だった。

山を愛し、自然を愛した祖父。そんな祖父が好きだった色は緑。

 祖父が亡くなった時、葬儀社の方が死化粧を終えた後、何本もの櫛を私たち遺族の前に差し出した。

「この中から故人様がお好きだった色の櫛で最後に髪を整えて差し上げてください」と。

 その時、私は祖父の好きな色がわからなかった。祖父の財布はボルドーだったし、小物類はブラウンが多かった。

 だから、あれだけ大好きだったはずなのに祖父の好きな色がわからなかった。

 だけど、叔父は迷わずに緑色の櫛を手に取った。そして、それを見て私は初めて祖父が好きだった色を知った。

 祖父の服や持ち物に緑は少なかったけれど、自然をあれだけ愛していた人なのだから緑が好きだと知っても違和感はなかった。

 納棺された祖父の手には緑色の数珠もあった。

 服や持ち物に好きな色が多いというのは、よくあることだと思う。だけど、好きな色のものを持たず、心で大切にしているということもあると知ったのは祖父のことがあったから。

 だから、今でも緑と聞くと最初に浮かぶのは祖父だ。