見出し画像

黒~パンダみたいなアイシャドウ~

黒は細く見せる効果や高級そうに見せる効果のある色。

だけど、威圧感や陰鬱さも感じさせる色。

 私の好きな色の一つは黒だ。過去を遡れば、高校から黒ずくめになった気がする。私の通っていた通信制高校は服装や頭髪の規則もなく、化粧も自由だった。

 当時の私はビジュアル系バンドに熱中し、バンドを生き甲斐にしていた。ビジュアル系の世界は、ゴシック、パンク、ロック、ロリータ、ゴスロリなど、いわゆる原宿系ファッションに身を包んだファンの子たちがうじゃうじゃといた。

 そんな世界に身を置き、自分自身もバンド活動を始めると、私の服は黒だらけになっていった。ネイルも黒の単色塗り。アイラインもアイシャドウも黒。

 それがあの頃の私のアイデンティティだった。髪だけは赤×黒、金髪×紫、金髪とカラフルだったけれどね。

 当然、そうした身なりで学校に通っていた。

 そんなある時、苦手な数学の授業中、私は理解することを諦めて、自分の手を枕にして机に突っ伏して眠っていた。何分経ったのだろう。ふと、目が覚めて体を起こし、自分の手の甲を見ると黒い跡がついている。

 寝起きで頭が回らなくなっていた私は、授業中だということも忘れ、「何だこれ、手が黒い……!」と思わず言ってしまった。教室の中は丁度問題を解いている時間であり、静まり返っていた。そんな中で言ってしまったのだ。

 やってしまった……と思っても、もう遅い。先生は苦笑い。他の同級生もこちらを見て小さく笑っている。

 そんな中、隣の席のTくんが口を開いた。

「それはお前の目の周りのパンダみたいな粉だ」

 淡々とした彼の突っ込み。

 すると、教室が一気に笑いに包まれた。スルーされるよりも、笑ってもらえた方が有り難い。私はTくんの突っ込みに救われたのだ。

 黒には沢山の思い出があるけれど、こんな馬鹿馬鹿しくて笑える青春時代の思い出もある。だから、黒は陰鬱としただけの色ではないと思う。

 そして、私は今も黒が好きだ。ただ、黒いアイシャドウはさすがに卒業し、グレーになった。

 それでも、たまに昔の血が騒いで使いたくなるけれどね。