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遊戯王から学ぶ、カードゲーム創作の脚本術  第2回「デュエルで描くキャラクター」

カードゲーム小説投稿者にして同人ゲームデザイナーの”えすぺら”です。
このシリーズでは、小説書きの視点で原作『遊戯王』について語ろうと思います。


前回「偶然を必然にする方法」について語らせていただきました。
読んでいない方は、こちらもよろしくお願いいたします。


今回はデュエルを使った「キャラクター」の描き方について少し話そうと思います。

1.漫画のカナメはキャラクターにあり!!

漫画の描き方の考え方の1つに「基本四大構造」というものがあります。
「キャラクター」・「世界観」・「ストーリー」・「テーマ」の4つによって漫画は構成されているという考え方で、その中でも特に「キャラクター」が最も重要であると言われています。

これはとても納得のいく話で、過去のヒット作の多くにおいても、キャラクターたちの葛藤や人間ドラマがファンの間でも語られることの多い重要な要素となっています。

つまり、創作が広く人気を得て大きな需要を見込めるようになるには「キャラクター」というものがとても大切なのです。

しかし、ここに問題があります。
『遊戯王』などのゲームを題材とする作品の場合、ただゲーム内容を書くだけではキャラクターが描けないのです。


2.デュエルでキャラクターを描け!!

ではどうするのか?
答えは単純です。
デュエルの中で「キャラクター」を書けばいいのです。

『遊戯王』で使われている方法はいくつもありますが、今回は以下の2つについて解説しようと思います。
1)使用するカードでキャラクターを表現する。
2)デュエル内容自体でキャラクターを描く。

それぞれについて解説していきます。

まずは1つ目、「使用するカードでキャラクターを表現する」についてです。
この手法は、原作『遊戯王』に登場する決闘者のほぼ全員に使われています。

実際、原作者の「高橋和希」先生自身もキャラクターの心の形をモンスターに反映させていると何度か話されています。

まずは、その中でも特に印象的な描かれ方をしている「孔雀舞」と彼女のカードについてお話ししようと思います。


6巻舞さん

文庫版遊戯王6巻より 著:高橋和希


最初に「孔雀舞」が登場した王国編で彼女が使用していたのは【ハーピィレディ】デッキで、大量のサポートカードで「ハーピィレディ」1体を強化し続ける戦術を取るデッキでした。


十連コンボ

文庫版遊戯王5巻より 著:高橋和希


作中のデュエルでは、その強力な戦術で城之内や遊戯を追い詰めます。
しかし、この戦術を彼女が使う理由はたた強力だからというだけではありません。
なぜなら、この戦い方には「彼女自身の考え方が表れている」と私は思うからです。

作中で彼女は言います、「他人は頼れない」「今までずっと1人で生きてきた」っと。
これまでの彼女は孤独で、強くならなければ生きていけなかったことを想像させます。


ずっと1人

文庫版遊戯王6巻より 著:高橋和希


そう、彼女のデッキは「これまでの彼女の人生観」そのものなのです。

孤独な彼女のデッキには仲間がいません。
「万華鏡」で分身し「ペットドラゴン」を従えようと、それは自分自身、あるいは利用すべき下僕であり、決して対等な仲間ではないのです。


ペット

文庫版遊戯王8巻より 著:高橋和希


しかし、次に彼女が登場したバトルシティ編では、彼女のデッキは「アマゾネス」たちという「対等な仲間」を得たデッキへと変ります。

これは、王国編を通して遊戯たちと関わった彼女が仲間を得たことを示しているのです。


アマゾネス

文庫版遊戯王15巻より 著:高橋和希


このように、使用するカードで「キャラクター」の考え方やその変化を表現しているのです。


他の例で特に印象深いのは、「ペガサス」の「トゥーン」でしょうか。
彼の使う「トゥーン・ワールド」はモンスターに無敵の力を与えるというとんでもない効果で、当時の読者に強い衝撃を与えました。


無敵でーす

文庫版遊戯王8巻より 著:高橋和希


しかし、「ペガサス」がこのカードを製作したのはただ強いカードを作りたかったというだけではありません。


後に作中で語られるのですが、「ペガサス」は若い頃に恋人と死別し絶望しています
そんな彼にとって、「死」は最も恐れるべきものなのだと推測できます。



シンディア

文庫版遊戯王9巻より 著:高橋和希


「トゥーン」となったモンスター達は決して死ぬことはありません。
そう、彼らは「ペガサス」の願いの形そのものなのです。


ペガサスの願い

文庫版遊戯王8巻より 著:高橋和希


その他の「キャラクター」に関してもこの「使用するカードでキャラクターを表現する」手法は取られていますので、自分なりの想像をしてみるのも楽しいと思います。



次は2つ目、「デュエル内容自体でキャラクターを描く」についてです。
これも様々な場面で使われているのですが、最も印象的に描かれている10巻(文庫版6巻)収録の「遊戯vs闇のプレイヤーキラー」を見ていきましょう。


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文庫版遊戯王6巻より 著:高橋和希


大会運営からの刺客である「闇のプレイヤーキラー」(以下、闇PK)は、深夜に大会参加者たちに勝負を挑み、狩っていきます。
夜はフィールドのパワーを受けられず、「闇晦ましの城」の出す「闇」に隠れた彼のモンスターが視認できないため、参加者たちは圧倒的に不利な条件のもとで負けていきます。


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文庫版遊戯王6巻より 著:高橋和希


闇PKと戦う事となった遊戯もまた、その戦術に苦戦します。
しかし、追い詰められた状況でも遊戯は余裕を崩さずに言葉で翻弄します。
彼は遊戯の挑発に乗るままに罠にかかり、最終的には「光の護封剣」により身を守っていた「闇」も奪われてしまいます。


挑発

文庫版遊戯王6巻より 著:高橋和希


危機感を感じた闇PKは「カオスシールド」で守りを固めるのですが、それを見た遊戯は
「闇」や「シールド」の中に隠れているという絶対的に有利な状況でしか動けない闇PKの心の弱さを指摘します。


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文庫版遊戯王6巻より 著:高橋和希


最後は遊戯に「闇晦ましの城」を落とされ、自らの「シールド」で逃げ場を失っていた彼のモンスターは全滅してしまいす。


逃げ場はない

文庫版遊戯王6巻より 著:高橋和希


作中に彼の登場シーンはデュエル以外にはほぼありません
しかし、読者にも彼が「常に自身を有利な状況に置きたがる臆病さを持ち」「挑発にすぐ乗ってしまう精神的な弱さがあり」「不利になったら保身に走る」人物であることが分かります。

そう、使用するカードだけでなく、デュエルの中で起こった出来事にどう対処するかでもキャラクターを描く事ができるのです。

この手法もまた多くのデュエルで使われているので、そのいくつかは別の機会にご紹介したいと思います。

いかがでしたでしょうか?
今回はカードゲーム創作における「キャラクターの描写方法」を紹介いたしました。
今後も遊戯王やゲーム創作に関することなどを書いていこうと思いますので、気になる方は当アカウントやツイッターのフォローも宜しくお願い致します

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