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遊戯王から学ぶ、カードゲーム創作の脚本術  第1回「偶然を必然にする方法」


カードゲーム小説投稿者、同人ゲームデザイナーの”えすぺら”です。
今回は、物書きの視点で原作『遊戯王』について語ろうと思います。


『遊戯王』は「週刊少年ジャンプ」で1996年~2004年まで連載されていた漫画作品です。作品内に登場するカードゲームは「遊戯王OCG」として商品化され、20年以上たった現在も続いています。

1巻

JC遊戯王1巻 著:高橋和希


これ程長く『遊戯王』が愛されてきた原動力の1つには、間違いなく原作『遊戯王』という作品の人気があります。
では、その人気を生み出した秘訣は何処にあるのでしょうか?

それは、作者「高橋和希」先生の巧みな脚本力にあると私は思います。

原作漫画では各所でその技が光るのですが、今回はその一部についてだけ語ります。



1.勝利は偶然じゃいけない?

皆さんは、「ピクサー22の法則」をご存じでしょうか?
ピクサー22の法則」とは、アメリカのアニメ会社「ピクサー」の元所属作家エマ・コーツ氏が語った物語を作るうえで重要なポイントを22個にまとめた物です。

この中の1つに、「キャラクターを襲う試練は偶然でも良いが、解決は必然でなければならない」というものがあります。

例えば、どんな攻撃も通じない物凄く強い怪物にたまたま遭遇して危機を迎えた主人公。
適当に攻撃したら偶然そこが急所で勝利!!なんて落ちだったら、えっー、となってしまうでしょう。
同じ攻撃で倒すにしたって、体の一部をかばう仕草から弱点を推理して攻撃、などの方が見ていて納得感があります。
しかし、ここに1つの問題があります。


カードゲームを題材に創作をする場合、偶然という要素がどうしても入ってしまうのです。


カードゲームの多くには、シャッフルやドローといったランダム要素がそのゲーム性の根底にあります。
ゲームをプレイする上では、そのランダム性が先の見えない展開を演出し、楽しさの一因となるのですが、それを物語上で描写する際には問題となるのです。

圧倒的に不利な状況を主人公が逆転しても、それは多くの場合「運よく強力なカードを引けたから勝利できた」という「偶然による勝利」にしかならないのです。



2.偶然を必然に変える方法


では、どうすればいいのでしょうか?

これに対する解決法はいくつかありますが、『遊戯王』では主に以下の2つが使われています。

1)試練を別に用意して、それを必然で克服する。
2)相手の必然を自分の偶然にかぶせる。

それぞれについて解説していきます。

1つ目、「試練を別に用意する」が使われたのは5巻(文庫版3巻)収録の「遊戯vs海馬2戦目」。
海馬が最強カード「青眼の白龍」3体を召喚して絶体絶命の遊戯は、次のドローで逆転できなければ敗北するところまで追い込まれます。


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文庫版遊戯王3巻より 著:高橋和希


遊戯の手札には「エクゾディア」のパーツが4枚あり、残りの1枚を最後のターンで引き当てれば逆転できる状況でした。
しかし、敗北への「恐怖心」から、カードを引けなくなってしまいます。


背景白イ

文庫版遊戯王3巻より 著:高橋和希


そこで思い出したのは「仲間との絆」。
1人ではないことを思い出した遊戯は「恐怖心」を克服し、「希望」であるカードを掴むことに成功します。


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文庫版遊戯王3巻より 著:高橋和希


そして、見事に「エクゾディア」の頭部を引き当てた遊戯は逆転勝利するのです。


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文庫版遊戯王3巻より 著:高橋和希


この少年漫画的な燃える逆転劇は私も大好きなエピソードなのですが、冷静に考えると主人公の遊戯自身はこの逆転勝利に余り貢献していません
乱暴な言い方をすると、勝てたのはドローしたカードが偶然「エクゾディア」だったから以上の理由がないからです。

しかし、「恐怖心」からドローできないという「別の試練」を用意することで「恐怖心に打ち勝てたからこそドローという行為をすることができた」という「必然による試練の克服」を作り出しているのです。
これにより、偶然による勝利を必然のドラマにより塗りつぶし、読者のカタルシスを引き出しているのです。
この手法は形を変えながら後のアニメシリーズを含めて各所で使われていますので、探してみるのも楽しいかもしれません。



では次に2つ目、「相手が作った必然に自分の偶然にかぶせる」についてです。
この手法も色々な対戦で使われていますが、特に印象深いのは20巻(文庫版12巻)収録の「遊戯vsマリクの人形」でしょう。


画像6

文庫版遊戯王12巻より 著:高橋和希


遊戯が初めて「神」と対峙することになったこの戦い。
マリク(の人形)は「オシリス」の効果を生かしたコンボ「ゴッドファイブ」の布陣をしき、遊戯を圧倒します。


ゴッドファイブ

文庫版遊戯王12巻より 著:高橋和希


モンスターの召喚すら封じられて絶体絶命の遊戯。
誰の目にも勝ち目がないように見えるこの状況で、遊戯がドローしたのは「洗脳」。
マリクの「リバイバルスライム」を奪うことで、その「再生能力」と「オシリス」の「招雷弾」で「無限ループ」を発生させることに成功し、自らの「生還の宝札」のドローによりマリクは敗北します。


無限ループ

文庫版遊戯王12巻より 著:高橋和希


相手の戦術を利用しての逆転劇という、バトルもの創作の中でも最高に燃える展開で、ファンからの人気も高いエピソードです。
この決着は偶然「洗脳」をドローしたおかげで勝利しているのですが、読んでいると全く偶然と感じません。
その理由は敵のマリクが勝利のために用意した最強の戦術という「必然」を遊戯が逆に利用して勝利しているため、その最後のひと押しが「偶然」であっても「必然」による勝利と感じるのです。


ちなみに、この最強の布陣にはマリクが運よくコンボ用のカードを引けたという偶然の要素がありますが、キャラクターを襲う試練は偶然でも良いので問題とならないのです。
この試練そのものを利用した手法はカードゲーム以外の創作でも使いやすいので、「遊戯王」に限らず他の作品でも各所で使われています。


さらに「遊戯vs人形」戦では、ドローの前に勝利をあきらめた遊戯にライバルの海馬が声をかけ、立ち直るという「試練を別に用意する」手法も同時に使われていてかなり凝った構成となっています。


神のまやかし

文庫版遊戯王12巻より 著:高橋和希


人気の高いエピソードなだけあって、この回の脚本では他にも沢山の技術が使われているのですが、長くなるのでそれはまた別の機会にお話ししたいと思います。


いかがでしたでしょうか?
今回はカードゲーム創作における「偶然を必然にする方法」を紹介いたしました。
今後も、遊戯王やゲーム創作に関することなどを書いていこうと思います。

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