見出し画像

【風通風呂敷】同じ銘柄の糸を30年以上使い続けることのメリット(ビジネスの話)


今回は風通風呂敷の製造者、上羽さんにお話を伺いました!
上羽さんは、20年以上この「風通織風呂敷」を作り続けておられます。
色は4色、柄は28柄。定番のラインナップをずっと変わらず30年以上作り続けておられます。
うちで販売しているのはその中でも人気の柄のみを扱っておりますが、

基本的に4色28柄=112パターンのみで30年間過ごしておられます。

これってとてもすごい事なんです。

通常会社は、10年以上継続することは6.3%しかないそうです。だいたいはみんな10年以内に倒産するなりしていなくなっていきます。

それ以上つづいている会社も、100年以上つづく老舗であっても、商品はいろいろ変わって行くもの。

始めは呉服屋だったのが、のちに百貨店になっていったように、
小さな本屋だったのが、現在は世界最大級のショッピングモールになったAmazonのように、業態すら変わって行くものです。

また、そのようにしないと生き残っていけないとも言えます。

羊羹のイメージがある老舗「とらや」は、創業当時は”とんど饅頭”というお饅頭が藩主より賞賛されていたとか。
また、花札職人が始めた商売が、現在では世界に名だたるビデオゲームの大手「任天堂」になっていたり。

業態は同じようだけれど、商品自体は変わって行ったりしていくものです。

どんなお店も、「基本となる商品」は変わらずあっても、季節や時代に合わせた新商品は登場しますし、時代に合わなくなってくれば自然になくなって行くもの。
そうして徐々に商品は変わって行くのが当たり前です。


しかし上羽さんは違います。
現在のご主人が30数年前に商品を完成させてから、品質、ラインナップはぜんぜん変わっていません。
変える必要がなかったとも言えますが、”変わらないからこそ”という部分があるんです。

”変わらないからこそ”生まれるメリットがあります。

それをお話しようと思います。ビジネス視点でもすごく勉強になると思います!

1、変わらない糸

糸はずっと同じものを使用されています。

上羽さんの説明書き

・富士紡績株式会社の「黒富士ガス焼コーマ糸(60/2)」を使用。
・染色はチーズ染色の反応染。

これをきいても「なんのこっちゃ」ですが、ご説明しますね。

まず、富士紡績株式会社。
この会社は今でいうフジボウテキスタイル㈱ですね。
1896年に創業され、グループでの吸収、分割、合併、改称などを繰り返しながら、現在はフジボウテキスタイル㈱という会社となり、そこから糸を仕入れています。

「黒富士」は商品名、「ガス焼コーマ60/2」は糸の仕上がり状態を示しています。チーズ染色の反応染めとは染め技法のことで、色鮮やかで色あせしにくい染め方です。詳しくは別に記載しますね。

で、こういった超老舗の大企業から、銘柄指定で、全く同じ仕上がりのものを30年間買い続けているんです。

要するに、「同じ会社から最高品質の全く同じ糸をずっとずっと仕入れ続けている」んですね。

「同じ製品を作り続けているなら当たり前じゃない?」

と思うかもしれませんが、こういったやり方をしているところは実は多くないんです。


なぜ同じ銘柄を同じように買い続ける会社は少ないのか?

理由は様々だと思います。

まず一つに、”値段”があります。
多くのメーカーは商品の企画を立てる際に、販売価格や販売数量の予測を立て、予算が割り当てられますよね。すると、糸を注文する際に、「○○㎏の糸を○○円で!」と注文します。そうすると、糸屋の方はその注文に”収まるように”糸を手配しますよね。

でも糸に限らず、製造の際には多少余りが出てしまうものです。要するに足りないのはダメなので、余分に作ったりするんです。なぜかというと、検品した際に不合格品が出たりするからですよね。すると多めに作って検品、納品した後、余ったものは「廃棄」されるわけですよね。

あぁもったいない、、、。

いえいえ、もったいないだけじゃないんです。

”多少廃棄する”ということは製造する側もわかっているわけですよね。するとどうします?
廃棄分の原材料費も、納品分にちょっと上乗せしておかないと、損ばかりしてしまいますよね。
だからちょっと上乗せしておきます


また、もうひとつの理由として、同じ商品を売り続けるアパレルメーカーは少ない、ということでしょう。

多くの生地を扱うメーカーにはアパレルメーカーがありますよね。
アパレルは時期やその年によってデザインを変えるのが当たり前。むしろ変えていかないとダメな業界ですよね。だから多くのメーカーは”その年のその季節に売る分”のみを発注することが多いですよね。

なので、納品してもらうのは”会議で決まった量”のみしか受け付けない、というか決まった量以上のものができても支払えないから困るんですよね。
例えば100㎏注文して103㎏出来上がってきても困るわけです。100㎏でないと。

そうすると、先ほども述べたように、「余る」んですよね。糸屋さんは多めに作って受注量のみを納品し、納品できる正規品であっても受注量以上の余った分は「廃棄」せざるを得ない。

上羽さんはどのように糸を買うのか?

しかし上羽さんは、毎度おなじ銘柄の同じ仕上がりのものを注文し、発注量も同じように頼みます。「いつもの頼むわ」というふうに、たった7文字で注文終了。まさにツーカー(表現古い?)です。
そうすることでどういったメリットがあるでしょう?


頼む方も頼まれる方も、”楽”ですね。
いつも通りなので間違いもない。またいつもと同じで値段の交渉もない。受注してからの流れも同じなので、動きや納品までの予測も立つ。とても仕事がしやすいんですね。

さらにもう一つ、上羽さんは受注より多めに上がってきたものも全部引き取ります。もちろんその分の金額を支払って。

これをすると、糸屋はとても助かるんですよね。不合格品以外は廃棄する必要がない。
そうすると金額を上乗せする必要もありません。
ぜーんぶ引き取ってくれるから、安心。
いつも同じ品質で、多少多くても少なくても、できた分だけちゃんと支払ってくれる。

じゃあ、どうでしょう?みんな人間です。
「上羽さんとこにはちゃんとした製品を納品せなな」となるわけですよね。「納期もきちんと、それぞれの工程も手を抜かんようにな、ずっと買うてくれてんねやから。ちゃんとしといたらまた買うてくれる」と、なるわけです。信頼関係ってこういうことですよね。

イメージ


最高品質の糸を選ぶ理由

品質が良いものがいい。これは当たり前です。
でもメーカー側からすると、”品質が良いものをいかに安く作って販売するか”という問題になっていきます。

品質が良いものは”値段が高い”ですよね。材料や原料も、基本”いいものは高い”です。

でも、販売して利益を取らなければならない企業は、品質もよくてできるだけ安価に販売できるようにバランスを取りながら商品づくりをします。
中にはひたすら安さだけを追い求めている商品もありますが、そういった商品は使い捨てになったり、リピートしなかったりしますから、作る側も”できるだけ品質が良く、消費者が手に取りやすい値段”を意識して商品づくりをします。

品質が良いからと言って超高級品はなかなか買ってもらえない。けれど安さだけを追い求めても中国産など輸入ものには勝てない。なので、安さと品質のバランスを取ります。

しかし、

上羽さんの使用している糸は他よりもずっと高級品です。
それは丈夫で美しいものを求めているから。

そういった理由以外にも、高級品を使用する意味があります。

それは工場にとってもかえってコスパが良い。ということ。

高級な糸は織っている最中に切れることが少ないんです。

上羽さんの工場では、織り子(職人さん)が1人に対して織機4台を担当します。
通常の工場では1人1台や1人2台程度でしょう。
1人で4台も担当するなんてことは一般的には無理なんです。

なぜかというと、それは糸がよく切れるからです。

糸が切れる頻度が高いと、しっかり見ていなければいけません。切れれば手直ししたり、止まった織機を再稼働させるために手間がかかります。
そうすると1台か2台に1人の織り子さんが必要になります。

でも上羽さんの工場では糸があまり切れない。

手直しの手間があまりかからないから、1人で4台もの織機を担当できる。

そうすると、人件費は他の工場の約半分から4分の1に削減できますよね。

イメージ


2、変わらない色

色についても、ある程度売れていれば「他の色はないの?」「こんな色を作ったらどうかな?」など、お客様に求められることもあれば、販売者側がちょっと目新しくしたいなどの理由でいろんな色をラインナップしたくなるものですよね。

でも上羽さんはそうしません。

しないのにも理由があります。

1:手間がかかるから
2:値段が変わるから

1:手間

色のバリエーションを増やすためにはどうすればいいかというと、もう一色分の色糸を買います。織物なので糸の時点で染め上がってるものです。
経糸は同じなので、横糸の色を増やす必要があります。
で、1色分作るための染の単位がありますが、それが膨大。1000m分の糸を一度に発注する必要があるそうです。1000mといえば、上羽さんの風呂敷はかなり大きめで120cmです。それでも約833枚分(!)です。1色作るのに833枚のリスクを負う必要がある。

風呂敷を833枚販売するのって大変ですよ?笑

それをやってもいいんですが、そうやって色数を増やして分散させると、かえって1色の販売量が減り、自分の首を締める結果となりますね。


2:値段

先程も書きましたが、ずっと同じことを繰り返すことが一番効率が良く、楽です。
同じ注文、同じ量、同じ品質、同じ色。ずっと繰り返すことで「安定」します。そこに新しい色の注文が来た場合、糸屋もペースを変えなければいけませんし、染屋もいつもと同じではなくなります。
そして織っている工場も、色を変えるなら糸を変更する手間がかかります。そうすると1日10m織っていたものが9mになるかもしれない。そうすると効率が悪くなって、工賃に跳ね返ります。

工場では織機を見ている職人さんがいて、その人の人件費がありますよね。その人が一日働いて10m織れるものが、糸交換をして9mしか織れなかったら、1mの生地に対して10分の1で良かった人件費が9分の1になってしまうということです。


3、変わらない取引量

取引量も安定しています。
これもずっと同じ商品だから、と言えるでしょう。

風呂敷は贈り物としても良く使われます。
特に上羽さんの風呂敷は格調高く品が良いのに、使い勝手もいいという素晴らしい商品です。贈り物に使うにもとても喜ばれます。

引き出物やお世話になった方への贈り物としてだけでなく、大切な商品を納品するときにも使用されます。

贈られた方は、こんな大きくて丈夫で上品な柄の風呂敷ですのでなかなか粗末には扱えません。見るからに高級感もあるので、ひと目で”いいお品物を頂いたな”となるわけです。

ある程度いろんなものを見てきた大人なら、この風呂敷の価値をすぐに見抜けます。また別の人に贈りたいと思う人も多いのです。

こうした安心感ある品物は、いつでも安心して注文できます。

”あの商品はとてもいいから、今度の祝賀会のお土産に使おう”
”あの商品は誰に贈っても恥ずかしくないから、あのお世話になった方への贈り物にしよう”

そういった使われ方をすることも多いです。

また、取引先も様々です。
呉服業界・風呂敷業界・アパレル業界・お寺関係・その他、様々な取引先をたくさん抱えておられます。

一般消費者の注文もあれば、取引先の人が私用で使うことも。
また、テーブルクロスに加工するからなど、特注で生地販売(m売り)もできます。

だからこそ可能な、取引量の安定。

取引量を安定させることも重要です。
これも前述したように、「定期的に頼んでくれるから」「毎年このくらいの注文はあるから」といった具合で、糸屋も染屋も計画を立てられます。

イメージ


4、品質を落とさず値段を落とすにはどうすれば良いかの最適解

さて、ここまでお読みいただいてありがとうございます。

冒頭でお話した”変わらないからこそ”生まれるメリット。
これは「品質と値段」であることがおわかりいただけましたでしょうか?

・最高級の糸を
・定期的に
・たくさん
・買い続けていて、
・色数を極力少なくする
ことで、
最高の品質のものを、極力抑えた値段で提供しているんですね!


これは、新たに同じように作ろうとしても真似できません。
現に同じようなことをしている織屋は京都にはありません。これから同じようなことをしようと思っても、販売価格に大きく跳ね返ってしまいます。「1.5倍の値段くらいにはなるだろうね」とおっしゃっていました!

そもそも織の風呂敷が少ないのも、染め(プリント)で安価に作った方がいろんな色柄を作れて、またポリエステルで作った方が衝動買いできる金額になるからですよね。

なので、
なんとなく「体裁を整えるだけのため」に紫の法事用の風呂敷を買ったりだとか、
「なんか可愛いから」を理由に買ったりだとかしてしまいますよね。

そういった商品は”残したい”とか”長く大切に使いたい”とか思いませんよね。
まさに使い捨てです。

上羽さんの風呂敷は使うと本当に良さがわかります。
使っていて1年後、2年後に
「あれ?そういえば全然傷んでないな、、、」
と気づくときがあります。

丈夫さがよくわかるエピソードを載せています↓

丈夫な風通風呂敷


他の安価な風呂敷では、数回使ったら、とか使っていなくても、
「あれ?なんか変質してない?」
「色変わってるやん、、、」
とか
「あ!糸引けが!」(糸がひょろっと出てくる)
「なんか目が割れてる、、、」(生地が割れたように糸の隙間ができる)
ということになってしまいます。
そうすると「もういらんわ~」とすぐに捨ててしまいますよね。

そういったことを見て”なんかもったいないな”とどこかで罪悪感が湧きあがったりします。

そうならないためにも、良い商品・本当にコスパのいい商品とはどんなものなのか、を考えながら商品選びができれば素敵だなと思います^^

まとめ

さて、「同じ銘柄の糸を30年使い続けるメリット」は、

”いい品質のものがコスパ良く作れるから!”

ということですね。

原料を値切って安くするのもある意味では企業努力と言えるでしょうが、長い目で見たときにお互いにとって不利益になってしまいます。
値切られた側は多少無理をするからですね。

売る側、買う側双方にメリットがないと長い商売はできません。

消費者も、少し多めにお金は出しても、その分長く使えて、結果的にコスパがよくなる。
そういった商品が、みんなwin-winの【良い商品】だと思います。

買う側もそういったことをしっかり認識して、
適正価格でみんなが喜ぶ商売をしたいものですね!

ここまで読んでいただいてありがとうございました^^





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?