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小説【間法物語】12 アンコードとエンコード

【間法物語】
日本語人が古来より持っている「魔法」がある。 それは「間法」。
「間」の中にあるチカラを扱えるようになった時、「未知なる世界」の扉が開かれ、「未知」は、いつしか「道」となって導かれていく。

「間法使いへの道」を歩き始める僕の物語。

【PROFILE】
イエオカズキ 「間」と「日本語」の世界を探求し続けるストーリーエディター。エッセンシャル出版社価値創造部員。


これまでの「間法物語」はこちら↓


間法物語12

アンコードとエンコード


「多分、これだよね。これは、僕がバランスジェネレーターになるための旅の合図だよね。」

「サトルがそういうなら、そうなんじゃない。」

珍しく、サッチャンは、曖昧な返事を返してきた。



「え、違うの?これじゃないのかな?」

「サトルがそう思うんなら、違うんじゃない。」

相変わらず、サッチャンは、煮え切らない弱々しいトーンだ。


「どっちなんだよ?これは、僕にとって、かなり、重要な決断なんだからさ。」

「さあねえ。」

「とにかく、僕は旅に出る。」

サトルは強く言い放った。

その時、未知は、道となって開けた。


いつも、魔城は存在していた。だけど、その道の入口は決して見つからなかった。
魔城からの道はあるはずなのに、どんなに歩いても、決して魔城にはたどり着けなかった。

魔城への道は、複雑な迷路になっていた。


迷路ではなく、命路を探すこと。命路こそが、魔城への道なのだ。

命路は迷路の死角にある。



唯一どうしても見つからないところ、サトルがつかんだ死角とは、まさに『視覚』の『死角』だった。
視覚の死角へ進んでいくには、どうしたらいいか?
しっかりと前を見据えながら、ゆっくりと後ずさりすればいい。

そこには、どんなに探しても見つからなかった、魔城への道が、確かにあった。 
サトルは、ずっと、道は前にあると思っていた。これだけ、世界中を魔城が囲っているのだから、世界を旅して、見渡せば、道は見つかると思っていた。


ピエロが言っていたことを、サトルは思い出した。

ミライは後ろにあるんです。


後ろの道とは、今まで自分の歩いてきた道だった。

サトルは、今まで、視覚を頼りに、自分の道を歩いてきた。

今度は、視覚を頼りにするのではなく、感覚を頼りに歩いていくのだ。

今まで自分の歩いてきた道を、感覚をアンテナに歩きなおすとき、未知の世界は、となって、魔城へとつながっている。


「サトルが死角を見つけたから、資格を与えたんだ。」

「与えたって?サッチャンが与えてくれたの?」

「そうだよ。もう、サトルには、準備が出来たと思ったからね。」

「ひどいなあ。僕はずっと、この道を探していたのは知っている癖に。」

「サトルが許可を出さない限り、それは出来ない。それがアンコードだからね。」

バランスジェネレーターになるための資格を手にしたものは、皆、必ず、「A/Nコード」を学ぶ。


魔城には、様々なコード化がされていて、それが蜘蛛の巣のように四方八方を網羅して、多様なコード曼荼羅を形成している。このコード曼荼羅は、エンコードというルールになり、暗号「L/R」の刻印がシッカリと押され、ありとあらゆる外国語に翻訳され、どんなコトバでも使用することが可能になっている。


そのエンコードの裏側に、秘密の暗号「A/Nコード」は隠されている。

そもそも、この『アンコード』は、エンコードよりも古くから存在し、エンコードを次元上昇させるために、当初は、インプットされていたものらしい。

アンコードは、エンコードを解除するためには不可欠の『魔法のコトバ』として、バランスジェネレー ターに、長い間、伝わってきたものだった。

安全を安心に変えるから、アンコードという説もあるし、「あ、い、う」から「ん」まで全てをふくみ、あうんの呼吸を感じられるから、アンコードなのだという人もいて、そのあたりは、諸説あるようだ。


「サトルは、まず、アンコードの何を学ぶ?」

アンコードは、膨大な知恵の宝庫であり、成長し続ける暗号コードであるため、一気に学ぼうというのは、土台無理な話だと、サッチャンは言うのだった。

「魔城のシステムに入り込んで、システムを循環させるためのアンコードを学びたい。」

サトルは、まだ、アンコードのことはよくわからなかったが、アンコードを手にすれば、すごい可能性が開けることは信じていた。


「そんなの全く問題外。無理。それって、サッカーをはじめたばかりで、夢はプロサッカー選手というのだって、かなりピントがずれてはいるけど、それどころか、いきなり、イタリアのトップサッカーリーグ、セリエAに入って大活躍しますって、言っているようなものだよ。サーフボードを買って、これからサーフィンに行くぞって時に、いきなり、練習もなしに、ハワイのノースショアの大波に挑むぞっていう人のこと、巷ではなんていうか知ってる?オオマチガイマヌケっていうの。『間』が大きく違っているから、オオマチガイ。『間』が抜けてるから、マヌケ。」


あまりにも、コテンパンに言われてしまうサトルであったが、そのときはまだ、アンコードの世界の大きさを図ることが出来なかったのだ。


「ぶっちゃけさ、やってみるしかないかなあ。とにかく、ピンと来たところで。アンコードは、学ぶ前に、まずやってみなけりゃ、学べないってことだと思うんだ。全くもって、五里霧中って感じだし。」
 


サトルが、本音を語り始めると、サッチャンは、必ず、それを受け入れてくれる。本当の音が鳴るとき、サトルとサッチャンはお互いが共鳴して、あまり、見分けがつかなくなる。


「なかなか、いい線いってるね。そういうことだよ。道は、未知だから、常に霧の中なの。『霧中』の中にいると、『夢中』になったり、『無中』の状態に近くなるの。未知を既知にすること。道を基地にすること。道が基地になれば、歩いている途中で休むことも出来るし、何といっても、道すがらを遊ぶことが出来るから。」


サトルは、道を歩き始めた。

ゆっくりと前を見据えながら、手と背中をセンサーにして、後ろを感じながら、自分の歩いてきたこの道を。


夢中になって、道を進みはじめたサトルは、すぐに、ミライとミイラの分かれ道にたどり着くことができた。その分かれ道には、大きな壁があって、その先のミライとミイラは、全く区別がつかないようになっていた。


どっちの道を選んでいいか、わからなくなった。
もっとハッキリと、シッカリと、思考し、見定められれば、わかるはずだ・・・
 サトルは、必死に考え始めた。


シンロ12

「ダメだな。おまえの名前は、一体、何て言うんだよ?」

 サッチャンの声が聞こえた気がして、思わず、サトルは後ろを振り返った。

振り返った先には、果てしなく深く黒い霧が立ち込め、今までセンサーで感じていた壁をつつんでいた。



(つづく)

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