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境界線ってあるのかな。

あまりにも疲れていた。
肩も凝っていたし、目もしょぼしょぼした。
平日だけど、飲みたい気分だった。

「なあ、飲みに行かね?」
「わるい、今日は他のやつと飲むんだ」

僕と仲良くなってくれる人は、みんな人気者だ。
人気者に好かれるタチなんだ、なんて浮かれていた時期もあった。
でも本当は、僕みたいな狭量な人間とも仲良くすることができるから彼らは人気者なんだ。そんな当たり前のことを悟ったのはいつだろう。

高校生になっても、大学生になっても、社会人になっても、人の本性というものはそう簡単に変わるわけではない、と思う。


今日はどうしようもなく酒が飲みたかった。

大学入学から五年間、同じ場所に住んでいる。二年で引っ越す予定だった土地。
どれだけみすぼらしくても、アクセスが悪くても、流石に五年も住んでいれば愛着が湧き出てくる。ここから出ていく自分の姿を想像できない。あと2ヶ月か3ヶ月で、僕はこの土地を離れる。

だが、そんなに長くいる土地なのに、この土地にめり込んでいる居酒屋に一人で入ったことがなかった。
お酒が好きだし居酒屋も好きなのに、22歳まで一度もソロ居酒屋を経験してこなかったのだ。

僕は、いつも通り駅の改札を抜け、そしていつもと反対方向の、でも見慣れた通りを歩いた。

今日は一人で居酒屋に行ってみよう。

ワクワクしていた。

「いらっしゃいませ!」
大きな声で店員さんが迎えてくれた。

「一人で」

僕は消え入りそうな声でそう伝え、そしてカウンターの席に通された。

「生ビールひとつ」

そう伝え、一人晩酌をスタートさせた。人生で初めての一人居酒屋。
ちょっとだけ緊張した。


・・・


いつの間にか僕のカウンター席には空いたグラスが4杯。
5杯目に手を伸ばして、気がついた。

あれ、寂しいな。


僕は寂しかった。

なんで?


あんなにワクワクしてたのに。あんなに一人で居酒屋に入るのを楽しみにしてたのに。

僕はただ、初めてのこと、見たことのない景色にウキウキしているだけの子供だった。


22歳、社会人。

皆さんは、どうやって「大人」とやらになっているのですか?
それともみんな「大人」のフリをしているだけですか?

それにしては、大人、上手すぎません?

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