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有識者間で消費税の是非が異なるのはなぜ?

 日本で消費税が導入されてから30年あまり経ちますが、その在り方についてコンセンサスを得たとは未だに言い難い状況です。有識者間では「消費税は直ちに廃止すべき」や「消費税率を直ちに上げよ」など、様々な主張が展開されています。

 なぜこの現状が生まれたのでしょうか?その理由として思いついたものを書き留めたいと思います。それはファースト・ベストとセカンド・ベストという異なる観点からの消費税に対する評価が混在しているため、というものです。

ファースト・ベストの考え方

 仮に租税がない状況を考えます。このとき、売り手と買い手の間で商品の取引が成り立っていたとしましょう。

 ここに租税が導入されたとします。すると、買い手が店頭で支払う金額は税率に相当する分だけ上昇します。これは買い手の購入意欲を妨げる可能性があります。

 また、売り手は店頭で買い手から受け取った金額のうち、税率に相当する分だけ納税しなければなりません。本来売り手の懐に入る金額が目減りし、生産・販売意欲が損なわれるかもしれません。

 その結果、租税がなければ成立していた取引機会が失われます。租税により失われた取引からの利益を死重損失(死荷重)と呼びます。ファースト・ベストの考え方とは「課税が死重損失を生んだならばそれを最小化せよ」というものです。

 需要と供給の構造が特殊な場合を除いて、消費税は死重損失を生みます。ファースト・ベストの考え方に従えば、消費税は廃止すべきとなります。

セカンド・ベストの考え方

 まず、公共サービスの提供に必要な財源がいくらかを設定します。そして「選択可能な財源調達の方法のうち、より死重損失が小さいもので必要な財源を調達せよ」という考え方をセカンド・ベストと呼びます

 セカンド・ベストの問題での論点は「課税すべきか否か」ではなく「どのように課税すべきか」です。したがって、ファースト・ベストの議論の結果ように「消費税は廃止せよ」とはなりません。

 セカンド・ベストの考え方は「課税ありき」でけしからんと思われるかもしれませんが、利点もあります。それは「課税の原則」をできるだけ満たす租税を選択できるということです。「課税の原則」は下記の記事でも言及しました。

 ファースト・ベストの議論では、死重損失を発生させた時点でその租税は切り捨てられます。しかし、セカンド・ベストの議論では、死重損失を抑えつつ、公平性を担保し、納税者にとって簡素な税制を探究する余地があります。その結果として、消費税と所得税の併用や消費税と税額控除の組み合わせ、といった政策パッケージが提案されます。

 消費税の是非に関する政策論議に臨む際は、その「土俵」を明らかにするのが先決だと思います。立っている土俵が違う者同士では議論も噛み合わないでしょう。

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