「投資・貯蓄バランス」をどう読むか?

 先日、「投資・貯蓄バランス」の恒等式について投稿しました。詳しくは下記を参照してください。今回はその恒等式から読みとれることを考えたいと思います。

 経済学の醍醐味の一つは、得られた数式(ここでは「投資・貯蓄バランス」)から読み取れることを、無理のない範囲で全て引き出すことだと思っています。そのために有効な手段の一つに、図を描いてみることがあります。

「投資・貯蓄バランス」:図による説明

 閉鎖経済における国内総生産と国内総生産(支出側)の恒等式を書き直すと、次の関係が得られました。

(Y-T-C)+(T-G)=I

ただし、国内総生産をY、政府が徴収する租税をT、家計の消費をC、政府支出をG、企業による投資をIと表記しています。これは「家計と政府の貯蓄は企業の投資に等しい」ことを示す恒等式でした。

 図による説明を円滑にするために「政府の貯蓄」の項を移項します。

(Y-T-C)=I-(T-G)

 ここで「企業の投資(I)は実質金利に依存する」という前提を追加します。その直観的な説明は以下です。企業は金融機関から借り入れたお金を投資の元手としているとします。ここで実質金利が上昇すると、返済額が増加することになります。これは企業による投資を抑制するように機能します。

 下図のように、縦軸が金利、横軸が「投資・貯蓄バランス」の右辺および左辺の値を示す平面を用意します。左辺の値である「民間部門の貯蓄」は実質金利に依存しませんので、左辺は図中の垂線で表されます。対して、右辺に含まれる投資(I)は実質金利が上昇するにつれて減少します。他の右辺の構成要素である「政府の貯蓄」は金利に依存しませんので、右辺は平面上に右下がりの曲線として図示されます。図の点Aにおいて「投資・貯蓄バランス」が成り立っています。

図2

 ここで減税や政府支出によって「政府の貯蓄」(T-G)が減少したとします。すると、実質金利はそのままに右辺の値が増加します。これは図上では、右辺を表す右下がりの曲線の実線から破線までの移動、として表されます。

 いま「投資・貯蓄バランス」は成り立っていません。なぜならば、左辺は点Aの横軸座標、右辺は点Bの横軸座標上の値を、それぞれ示しているためです。

 ここで実質金利が点Aから点Cの縦軸座標まで上昇すると、企業の投資が抑制され、右辺の値が点Bから点Cの横軸座標まで戻ることで「投資・貯蓄バランス」が改めて成立します。この実質金利の上昇に伴う投資の減少は「クラウディング・アウト効果」として知られています。

 補足:金利上昇の直観

 前述のクランディングアウト効果には、「政府の貯蓄」に伴う実質金利の上昇が前提にあります。この前提に対する古典的な説明を補足します。

 「政府の貯蓄」の減少は財政赤字の拡大を意味します。財政赤字は国債発行で賄われる場合、政府はお金の借り手となります。対して、お金の貸し手たちは金利をつけて借り手らにお金を貸し付けます。政府という借り手の参入で、貸し手たちは割高な金利をつけて、お金を貸し付けようと考えるでしょう。結果、金利に上昇圧力がかかります。


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