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コリーニ事件 / Der Fall Collini

久々のドイツ映画。往々にして予告編のナレーションは、どうも原語で伝えるべき雰囲気を別のものにすり替えてしまう傾向があるようで・・・予告編の役割として、多くの人に観てみたい!と思わせるようなドラマチックさを敢えて出すのだろう。でもこの作品は、正義に挑むヒーローとか、血みどろの殺人犯などを描くというよりは、もっと淡々と暗い歴史を述べている気がする。


最初は事件の核心に迫らず、それを取り囲むふわふわした描写が長いな・・・と思ったのだけれど、途中から思い切り引き込ませるストーリー展開となり、最後は衝撃の、そして感動のエンディングだった。秀作だなぁと思った。これは何も前知識なしで観た方が良い作品。

でも書いてしまう・・・(以下ネタバレ含む)。 ドイツ人は法律好きで知られているが、どんなことでも「これは規則だから」と言われると相手は黙ってしまうくらいだ。所詮、法律だって、完璧ではない人間の作り上げたものなのだから、過ちもある。だが、特に戦争犯罪者は「上の命令に従っただけだ」という言い訳をよくする。もううんざりである。被害者遺族側の弁護士リヒャルト・マッティンガーが過ちを認め、最後に放った一言で、被告の表情が緩むのが印象的。コリー二役のフランコ・ネロが素晴らしい存在感を出していた。

弁護士のカスパーはボクシングをするとか、被害者の孫と恋人同士だったとか、なくても良かったかも、と思う装飾もあった。そこはエンタメなのだから仕方ないのかな。ドイツにはトルコ系移民も多く、今も差別はあるのだけれど、弁護士自身がトルコ系であることも、この作品のメッセージの一つなのだろう。ストーリーや立場上、ドイツ人でもイタリア人でもないのが好ポジションということもあるのかも知れないけれど。

今も昔も、戦争について世間で語られることは、全体像のほんの数パーセントのことであって(それが真実かどうかも分からないし)、隠されていることが山ほどあるのだと思う。

この作品の原作の初刊の発表は2011年、刑事事件弁護士でもあるフェルディナンド・フォン・シーラッハの書いた小説。ドイツの司法スキャンダルとも言える、法の落とし穴を公にし、司法界にショックを与え現実をも動かした。その後映画化され2019年に公開されたけれど、ただのフィクションではなく現実と地続きであることは容易に理解できる。

ドイツでは今でも人種差別やネオナチの問題が存在しているけれど、自国の犯した罪を抉り取る行為も繰り返し行ってきている。日本ではどうだろうか。

いずれにしても、これはずっしり来るオススメの一本。



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