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いつか海の向こうのコーヒー農園へ

「今週末お墓参りに行くのですが、一緒にどうですか?」

そんなお誘いをもらったのは、月曜日の夜だった。海外在住の知人が日本に一時帰国しており、故人のご家族とお墓参りにいくのでよかったらと声をかけてくれたのだった。

外は、晴れと呼ぶには雲が出ていて、とはいえくもりと呼ぶには明るくて、時折り陽の光も届く。どっちつかずのお天気だなあ、などと思いながら電車に揺られる。

前回来た時は、かんかん照りの暑い日だった。7月の下旬で、蝉がにぎやかに鳴いていた。そういえばあれは、コロナの前だった。もうそんなに経つのか。5年って、はやいな。来年は七回忌らしい。

電車を降りて、バスに乗り換え、最寄りのバス停で降りてから少し歩く。いつの間にか分厚い雲が出てきていて、今にも雨が降り始めそう。今日はいいかなと思って折り畳み傘を置いてきちゃったのに。どうにか降らずにもってほしい。そう願いながら、同じバス停で降りた人の背中を追いかけて霊園を目指す。

到着すると、もうみんな着いていて、お墓の前でコーヒーを淹れるよい香りがした。

故人が大のコーヒー好きで、自分のコーヒー農園を作ることが夢で、海外で土地まで購入していたのだけれど、結局農園を作る前に唐突に亡くなってしまった。その夢を引き継いだのが連絡をくれた知人で、その土地に3年前に植えたコーヒーが今年初めて収穫を迎え、現地で焙煎して持ってきたという。それをお墓の前で淹れてみんなで飲もう、というのが今日の集まりだった。お母様が事前に霊園にも許可を得てくれていて、総勢9名でお墓を囲んでコーヒーを飲む。

はじめましての方も数名いたけれど、みんな故人という共通点があるので思い出話に花が咲く。気がつくとずいぶんと晴れて、暑いぐらい。彼は晴れ男だったっけ、どうだったっけな、もう忘れてしまったな。それにしても初めてお会いしたお兄さんの横顔が彼にそっくりで、懐かしい感じだ。

人生の一時期を一緒に過ごした人が今はもうこの世にはいないという事実は、例えそれが途中から別々の道を歩む選択をした人であったとしても、やはりさみしい。けれど、こうして知人と再会できたり(15年ぶりぐらいだ、たぶん)、新しい出会いがあったりと、彼を通じた縁が今も広がり続けている。感謝だなあ。

いつか、海の向こうの彼のコーヒー農園に行って、そこでコーヒーを飲みたい。

家に帰ったらやりたいことリストに追加しよう。「いいよわざわざ、自分はいないのに」って言うかもな。それでもいいや。

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