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春色のコートと紅色のマスカラ

「思い切っていつもと全然違う色のコートもいいんじゃない?」

もう8年ぐらい前の、春の足音が聞こえてきたある日のこと。コートを買いたいんだよね、というわたしに彼は言った。

「いつものネイビーとかもいいんだけど、たまにはさ」

確かにわたしは、なにかとネイビーを選びがちだ。服に無頓着なのもあるし、冒険する勇気がないのもあるし、何より、なにが自分に似合うかよくわからない。結果、わたしのクローゼットには、何と合わせても無難なネイビーが並んでいた。

「たとえばさ」

そう言って彼が手に取ったのは、コーラルピンクっていうんだろうか。明るい春色のコートだった。自分だけで買い物に行っていたら、まずもって選ばない色だ。かわいいな、と思ったとしても、手は出せない。

けれど、まあ着てみなよという彼の言葉にのせられて袖を通してみたら、あれ?意外とこれ、ありかも??えーーー、うん、ありかも!びっくりだった。未知の世界との出会いみたいな、大げさだけれどほんとうに、そんな気持ち。

そんなわたしを見て、「いいじゃん」と彼は満足げに笑った。

それ以来、毎年春になるとわたしは、そのコーラルピンクのコートに袖を通す。ああ、春が来たなあと、うきうきしながら外へ出る。春の空気も相まって、なんだか新しいことにも一歩踏み出せそうな気持ちになるから、不思議。

そして今日、急遽マスカラが必要になり(化粧ポーチをなくした)、ファミマで買ったマスカラを使ったら、思いのほかまつ毛が紅く染まった。黒髪のわたしは、マスカラもいつも黒。見慣れぬ紅色のまつ毛に、やばい、これは間違えた、と思ったけれど、ふと気を取り直してもう一度鏡をのぞいてみたら、ん?意外と悪くない…かも。

春色のコートが頭に浮かぶ。たまには、冒険するのもいいかもしれない。久しぶりに、そう思った。

#春  #お気に入り #日記 #旅と写真と文章と

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