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02.新しい意味を生みだす質の展開

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他のサービスと組み合わせることによって、新しい意味を持つサービスを生み出すことができる。

これまで提供してきたサービスは、これまで通り何の変更もしない提供を行う。
別のサービスと組み合わされた今のサービスは、全体として新しい意味を持って提供される。
これまでのサービスは別のサービスと組み合わせたとしても、根本的な提供の方法と内容は変わらない。
しかし

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これが質の展開のひとつ目になる。

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業界4位と5位のコンビニが協力して活動を行うことがある。
これは営業努力であって、サービスの組み合わせではない。
同じように、シアトル系コーヒーショップが銀行の入り口に、花屋がレストランの入口に展開することがある。
これも営業努力の活動であって、やはりサービスの組み合わせにはならない。
そもそもこれでは、それぞれのサービス提供の意味が別個にあり、全体として新しい意味が生まれていない。

コーヒーはコーヒーだけを、銀行は金融業務だけを提供している。
銀行に来たお客ががコーヒーを飲むことがあるとしても、そのコーヒーショップが銀行の入口にある必要はない。
3軒隣にあっても構わない。
花屋とレストランの関係も同じである。
この組み合わせは、サービスとして新しい意味を生み出していないので、サービスの展開ではない。
目的が収益やイメージにある、商売上の提携だと考えた方がわかりやすい。

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他のサービスとの組み合わせによって新しい意味を生み出すサービスには、たとえばパッケージ旅行がある。
パッケージ旅行は誰もがよく知っていて目新しいものではない。
実は最も古い形の現代サービスで、19世紀半ばには既にイギリスのトーマス・クックによって作られていた。

パッケージ旅行は、移動手段である飛行機や電車・車と、宿泊手段であるホテル、旅館、その他お土産屋やデューティーフリーショップ、保険などがセットとなって「安心かつ便利に旅行を楽しむことができる」というサービスの新しい意味を生み出している。

移動手段を提供するサービスは基本的に移動だけを提供し、宿泊施設は宿泊だけを提供する。
土産物屋はお土産だけを提供し、観光地のアミューズメントは娯楽だけを提供する。
保険会社は保険だけを提供する。
しかしこれらのサービスを組み合わせることで、移動、宿泊、お土産、娯楽、保険というくくりを越えた新しい意味が生み出される。
これが組み合わせによって新しい意味を生み出す質の展開である。

同じ業種間では、スターアライアンスのように各国の飛行機会社が協力し、オーバーブッキングの際には他の協力会社の飛行機に乗換えを行うことができたり、マイレージを共通して貯めることができたりなどの特典を共有することがある。
これも他のサービスとの組み合わせによって新しい意味を生み出す質の展開である。
お客は、グループに属している飛行機会社が就航していれば、一社では得ることのできない安心とお得の提供を受けることができるようになる。

もちろん、自社内でもこの考え方は応用できる。携帯電話にデジタルカメラを組み込んだ電器産業のような好例もある。

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この質の展開をうまく行うためには5つのルールがある。

まず、組み合わせによって生まれる新しいサービスに、新しい意味のコンセプトをはっきりと定める。
そして他社と共同するのなら、サービス提供の参加者が、その趣旨に賛同している必要がある。
それぞれのサービス提供者のコンセプトが一致している必要はない。
しかし反目しては前提として成り立たなくなってしまう。
自社内でサービスを組み合わせる場合も同じように行う。

次に、新しく設けるコンセプトは、シンプルで力強いものにする。
異なるコンセプトを持つサービスが一緒になることで、お客を混乱させてしまってはいけない。
シンプルで力強いからこそ、異なるコンセプトを持つサービスが協力できる必要がある。

さらに、外部のサービスと提携するのならブランドの強さが同じ他社と共同するか、ブランド力に差がある場合はその差を補う、サービスの新しい意味を生み出す必要がある。
コンセプト、ブランド力、サービス提供の意味が、大きく異なる提供者と共同するとうまくいかない傾向にある。

また、新しく生まれるサービスによって、自社のハードと基本サービスを変えてはならない。
それぞれのサービスはそれぞれそのまま提供するのだから、今のサービスを完全に提供できるハードと基本サービスは保たれなければならない。
EUのように、経済圏が共同しても各国の主権は変わらないように、サービスが共同してもハードと基本サービスを変えない。

最後に、しくみは新しく作る必要がある。
新しく生まれる総合的な意味での基本サービスを、滞りなく提供するために全体としてのしくみを作り、接客者はそれを守るようにする。


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現在提供しているサービスを特性で分けて、個別に提供することが可能であるかどうかを検討してみる。
可能なら、これまで総合的に提供してきたサービスとは別に、新しい意味を持つ別個のサービスを展開することができる。
提供内容はこれまでと同じで変わらない。
単にこれまでのサービスの一部分を提供することで、これまでとは違う新しい意味を生みだす質の展開がこのケースである。

レクサスはトヨタがアメリカで高級車販売を行う別ブランドとしてネーミングし、立ち上げた。
日本では長い間この2つのブランドは別個ではなかった。
高級車もトヨタとして提供していた。
しかし2005年に日本でもレクサスブランドが立ち上がり、一見別の事業であるようにコンセプトを変えて、新しい意味のサービスが生まれた。

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トヨタとレクサスのコンセプトの違いは、コンセプトが反映される店舗、ロゴなどのハード、商品の質の差である車という基本サービスを見れば分かる。
両社が同じ事業体ということは、それを知らない人が見分けるのは難しい。
これが、既にあるサービスを分解して提供することで、新しい意味のサービスを生み出す質の展開である。

トヨタはブランドを分けて、基本サービスである商品も分割したけれども、同じサービスの中でもこの展開を行うこともできる。

たとえば旅行代理店はパッケージ旅行が飽和状態になると、パッケージ全体から移動と宿泊の2つを抜き出したプランを展開した。
添乗員、お土産屋、娯楽、保険などはサービスから省かれ、これまでのパッケージ旅行とは異なる新しい意味のサービスが生まれた。

さらに、トータルサービスのしくみの部分を分解して提供するサービスの展開もある。
有名ホテルが敷地内に抱えるパン屋のパンを、ホテルブレッドとしてデパートや通信販売で購入できるようにすることがある。
提供するサービスは宿泊という基本サービスではない。

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基本サービスではないサービス(しくみ)の提供は、ブランドに気をつける必要がある。
ホテルブレッドを提供することでブランドが促進されるのが最高だが、少なくともブランドを維持することができるしくみを作る必要はある。
ホテルブレッドを食べるお客が、そのホテルブレッドから連想されるホテルのイメージがコンセプトに一致している必要がある。
だから販売方法や流通にも気を配らなくてはならず、特価品としてセールスの対象になったり、ディスカウントストアやコンビニで販売されたりしているとしたらブランド力が落ちてしまう。

もしブランドを崩す可能性があるのなら、たとえ売上げの見込みがあってもそのサービスの提供は控える方が無難だと思う。
収益目的で展開してしまうと、本業である基本サービスのブランドを崩してしまう可能性が大きい。
これらが、サービスの分解によって新たな意味を生み出す質の展開である。

これとは別に、サービスプロセスの分解による展開もある。
アメリカのスーパーではビン入りのスターバックスコーヒーを購入することができる。
いくつかのホテル(の自室)や、航空会社(の機内)でも同様に、スターバックスの店舗ではないところでスターバックスのコーヒーを飲むことができる。
これが店舗というハード、コーヒーオーダーのしくみ、バリスタという接客者を除いた、基本サービス中心(のみ)の展開である。

基本サービス(のみ)の展開を行うのは、強いブランドを確立した後が望ましい。
なぜなら基本サービス(のみ)の中途半端な提供は、現在のブランドを崩してしまう可能性があるからだ。
これまで、トータルサービスとして基本サービスを信頼していたものが、突然基本サービスだけの提供になってしまう。
それでも信頼が失われないという強いブランドを構築して、十分なお客の理解を得た後に基本サービスだけを抜き出して展開する。

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スターバックスの場合、プラスチックカップのコーヒーをコンビニで販売するのに、日本に進出してから実に9年をかけている。
スターバックスでは(アメリカの)スーパーで販売するコーヒーの味、デザイン、飛行機会社のクルーへの指導を通じてコンセプトの反映に力を入れた。
基本サービスの展開はこれと同じ手間と努力で行うことでブランド力を維持する必要がある。

基本サービス(のみ)の展開と同様にとても珍しいケースとして、ハードのみを展開することもある。
ミラノのホテル「ブルガリ・ホテル・アンド・リゾート」はブルガリがホテルのハードと基本サービスを提供し、しくみ、接客はリッツ・カールトンが担当するという方法を行っている。
両社共に、自社のサービスを分割提供しながら、同時にサービスの組み合わせを行うというケースになる。



前話: 01.サービス提供を増やす量の展開
次話: 03.接客力を高めるブランドの展開



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