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【NCPR編】蘇生は自己膨張式バッグで十分だが、限界を知っておこう

 以前の記事で正期産児の蘇生にCPAPが不要であることを述べました。正期産児の蘇生では自己膨張式バッグがあればほぼ事足ります。そうは言ってもどうしても自己膨張式バッグでは難しいことがある点は抑えておくのが良いでしょう。
 自己膨張式バッグの最大のメリットは場所を選ばずに使えることです。流量膨張式バッグやTピース蘇生装置と異なり、配管が不要ですので自宅でも屋外でも助産院でも病院でもどこでも人工呼吸を行うことができます。また、膨らむのを待つ必要がないため、人工呼吸を始めようと思ってから実施するまでの時間がかかりません。流量膨張式バッグではガスを流しても流量が少ないとなかなか膨らまず、有効な換気ができずに慌ててしまうことがあります。そして、自己膨張式バッグを使って蘇生をしている施設の方が明らかに気胸の入院率は減ります。また、自己膨張式バッグではCPAPができませんので、アルゴリズムがより単純化してわかりやすくなります。すなわち、「蘇生の初期処置が終わった段階で、無呼吸か心拍が100未満であれば人工呼吸を行う」か、「安定化の流れの中で努力呼吸とチアノーゼが続き、酸素投与をし待ってみても改善しない場合に、肺を広げるために人工呼吸を行ってみる」の2か所しかバッグを使用するタイミングがありません。CPAPがいいか酸素投与がいいかを迷う必要がなくなります。そもそもほとんどの人にはCPAPの適応を正しく判断できませんので、最初からCPAPを行う選択肢をなくして蘇生をすることにしておけばいいのです。これを産科の先生に言ったところ、アルゴリズム通りにできなければならないから自己膨張式バッグではダメだ、と返されました。しかしこれはNCPRについての理解が不十分なことによるもので、NCPRのアルゴリズムはあくまでも「CPAPができる施設は安定化の流れでCPAPまたは酸素投与で必要な方を行いCPAPができない施設は必要に応じて酸素投与を行う。それで改善がない場合は人工呼吸を考慮する」なのです。そして繰り返しですが正期産児の蘇生では人工呼吸ができなければ困りますが、CPAPはできなくても困りませんので、自己膨張式バッグの方が迷いが少なくスムーズに蘇生の手順に乗ることができます。
 さて、自己膨張式バッグのデメリットとしては、①CPAPが行えない②投与酸素濃度に限界がある(100%酸素で換気できない)③フリーフロー酸素投与ができない④フェイスマスクが密着しているかどうかバッグを押してみないとわからない、等がよく言われています。①についてはそもそも正期産児にはCPAPが必要ないのでデメリットとは感じにくいのですが、早産児の蘇生をする場合にはCPAPを行えた方がいいケースがあります。②についてはリザーバーを着けても100%酸素で換気はできません。製品にもよりますが概ね40-70%くらいが限界と考えておくと良いでしょう。また、一生懸命人工呼吸を行い換気回数が増えると、バッグの中には空気が引き込まれて酸素濃度は下がってしまいます。これを解決する方法は、自己膨張式バッグに酸素をつないで、酸素チューブとバッグをまとめてビニール袋に包んで出口の近くでゴムで止めてしまう方法があります。こうすることでビニール袋内には酸素が充満し、ほぼ100%の酸素で換気することができるようになる裏技です。③についてはバッグの出口のゴムが時間とともに劣化して硬くなっていきますので安定したフリーフロー酸素投与ができません。そのため酸素チューブを指で挟んで手をカップ状にして口元に持って行く方法が推奨されているわけです。その他に高い圧が必要なときに安全弁のために高圧で換気できないと思っている方もいるかもしれませんが、高圧が必要なときは、バッグで押す際に人差し指で安全弁を押さえながら換気することで安全弁の圧を超えて(レールダル社では40cmH2O)換気することもできます。④については換気をして漏れる音が大きく胸が上がらない場合にはフェイスマスクの当て直しをすることや体制を整えることなど換気手技の見直しを行う必要があります。ただし、これは自己膨張式バッグだけの話ではなくて流量膨張式バッグでも有効な換気ができないときには同様に換気手技の見直しを行わなければなりません。このように自己膨張式バッグにはできないこともあるのは確かですが、代替方法もありますし特に問題はないのです。

【極論かましてよかですか】
 正期産の蘇生は自己膨張式バッグを使うことで、アルゴリズムが単純明快に!
 自己膨張式バッグで高濃度酸素を投与する方法もある

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