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CAGRは+78%!あまり知られていない企業としてのProgate、その成長戦略とは?

以下の記事をご覧になりましたか?

日経ビジネス発表の急成長企業ランキングです。
上場企業はもちろん、ふだんは知ることのできない未上場企業の売上高や成長率なども公表されています!

100社の急成長企業が紹介されていますが、今回気になったのはProgate!
サービスは有名ですが企業のことをあまり知らない企業の典型例だと思い、関心が湧きました。今回はProgateのこれまでの歩みと戦略について、調べてみたことをまとめていきます。


企業の概要と事業内容

株式会社Progate
・2014年設立
・社員数55名(2020年3月26日時点)
・未上場
・Vision:Empowering everyone to open new doors
through programming.
・Mission:Be the gate to the exciting world of programming.
Be the path to an independent coder.

企業概要

株式会社Progateは、今も代表取締役を務める加藤將倫氏が、東京大学在籍中の2014年7月に学生起業で創業した企業です。

2022年8月現在、East Ventures株式会社、Freak Out Shinsei Fund株式会社、株式会社DeNA、エンジェル投資家数名などから累計5.5億円の資金調達を行なっています。なお資金調達は、2020年2月のシリーズAラウンドでの調達を最後に、少なくとも公には行われていません。

ちなみに出資者のエンジェル投資家には、メルカリ山田進太郎氏、フリークアウト本田謙氏、nanapi創業者古川健介氏などが名を連ねています。


サービス内容

株式会社Progateは、言わずと知れたオンラインプログラミング学習サービス「Progate」の運営会社です。

Progateの学習方法(会社紹介資料より抜粋)

一般的なプログラミング学習では、「環境構築」と呼ばれる開発を始めるための準備が必要ですが、「Progate」ではそれが不要。ブラウザやアプリでイラスト中心のわかりやすいスライドを見ながらプログラミングを学び、その場で実際にプロダクトをつくりながらコードを書く練習ができるのが特徴です。

「Progate」のユーザー数の推移(会社紹介資料より抜粋)

Progateは2014年の創業後、順調にシェアを拡大。インドとインドネシアに子会社を設立しており、現在100カ国以上で270万人超のユーザーに利用されているそうです。


ビジネスモデルと成長指標

ビジネスモデル

Progateのビジネスモデルはサブスクリプション。月額980円(税抜)の有料会員になることで全ての講座を受講することができます。一方で、無料会員でも全ての講座のレッスンⅠ〜IIを受講することができ、実際に学習を体験した上で、有料課金するかどうかを選択できます(フリーミアム)。

Progateのプラン設定

事業成長のポイントは、
①この有料会員数をどれだけ増やせるか、
あるいは②1ユーザーあたりの継続期間をどこまで伸ばせるか
ですね。


財務指標

日経ビジネスの調査では、Progateの売上高は2020年度で7億2,700万円であり、2017年度からの3年間のCAGR(年平均成長率)は77.7%と公表されていました。

この数字から、非公表の有料会員数を以下の仮定でざっくり算出してみます
・法人取引の売上は考慮せず、個人のサブスク課金のみで計算
・有料会員は3ヶ月間Progateを継続する(ブログなど読んでみての感覚値)売上(7億2,700万円)÷1ユーザーあたりの売上(980×3)=247,279人
となり、大体9~10%前後が有料会員比率なのではないかと推測できます。

なお成長性について、米調査会社のREPORTOCEANによれば、世界のEラーニング市場規模は年平均成長率(CAGR)20.5%で成長すると推計、またGMOメディアによれば、2022年の子ども向けプログラミング教育市場は前年比13.2%増で成長したとされています。ここと比較しても、CAGRで77.7%を記録するprogateはマーケットの成長よりもハイスピードで成長していることがわかります。


マーケよりサービス開発!組織体制からみえるPLG

ではprogateはどのように成長を実現させているのか?
結論から言うと、いわゆる”Product Led Growth(PLG)”とよばれる手法を用いていることがわかりました。Product Led Growthとは、ターゲットユーザーのペインを解決するようにプロダクトを磨き上げ、セールスやマーケティングのコストをかけずにユーザーを有償化させる手法です。

PLGでは、まずプロダクトを無料で開放し、エンドユーザーに実際に触れてもらいます。そして、価値を感じてもらったユーザーを有料版へと誘導するのが、PLGの顧客獲得アプローチの定石です。
(中略)
重要なのは、ユーザーが有料版に切り替えるまでの間に、ほとんど人の手を介すことがないということです。あくまで、エンドユーザーがプロダクトに価値を感じ、自発的に有料版へと切り替えるようなプロダクト設計をするのがPLGの特徴と言えます。つまり、PLGは「プロダクトがプロダクトを売る状態(Product sells itself)」を目指す戦略なのです。

UB ventures「【解説】SaaSの新戦略。Product-Led Growthの全貌」

実際に同社の組織は、エンジニア系職種とデザイナー、コンテンツ開発で全体の65%を占めており、サービス開発に注力できる体制が整っていることがわかります。

Progate社員の職種別内訳

これと対照的に、セールス&マーケティングに該当すると思われる「グロース職」は15%しか存在せず、2022年8月現在、採用も行っていません。
(なお日本本社でマーケティング担当が誕生したのは2021年10月が初であり、それもtoCでなくtoBビジネスの拡大がミッションぽい。)

Progate社の募集中ポジション(2022年8月21日取得)

後述しますが同社は国内だけでなく、海外展開も積極的に進めています。
そんな状況でもグロース職が少なく、増員予定もないというのが個人的にはかなり衝撃を受けたポイントでした。


初心者ファーストにこだわってきたグロース戦略

では具体的にProgateがどのようにサービス開発を行い、グロースを実現してきたかを見ていきます。
 ①コアな強み
 ②初期ユーザーの獲得方法
 ③海外展開の背景とローカライズのポイント
 ④今後の事業戦略とは    の順で解説します。

Progateのコアな強み

Progateのサービスとしての強みは2つあります。
 ①1,000円未満の利用しやすい価格設定(現在も税抜では980円)
 ②初心者が挫折しやすいところを極力なくしたUI・UX

低価格で利用ハードルを下げ、初心者に優しいUXで継続率の向上を実現しているということですね。

特に、CEOの加藤氏が「自分のペースで挫折せずに学習できる」という体験づくりにこだわっており、Progateの機能にもその思想が反映されています。
・学習ペースをコントロールできるスライド教材(❌動画や講義)
・ブラウザ上でいきなりコードを書けるカリキュラム(❌開発環境の構築)
・スマホやタブレット向けのアプリ提供
・一人二役で共同開発を擬似体験するレッスンが誕生…などなど

自分が初心者のときにつまずいたポイントを思い出しながら、徹底的にそれを潰すことに向き合ってきました。ビジネスとして成長軌道に乗せることは二の次で、とにかく初心者にとって価値あるプロダクトをつくることを優先してきたんです。その結果、どのプロダクトよりも初心者が使いやすくなっていると自負しています。
(Founder/CEO・加藤 將倫氏)

ちなみに、スライドの教材コンテンツは全て自社で内製されています
初期にはRuby on Railsなど、需要のある言語のコースをまず作り、その反応を見ながらフォーマットの磨き込みを優先して行ったようです。
フォーマットが確立した現在は、①技術者、②デザイナー、③デザイナーと技術者の翻訳者の3名体制で制作を担当。ナレッジが蓄積しているため属人的にはならず、スキルが揃ったチームさえ作れれば再現が容易とのこと。
(コンテンツの改善の変遷はこちらに詳しいです)

Figmaで作成しているモック

なお1レッスンあたりの制作は約2ヶ月間のスケジュールを設けているそうです!ただストーリーだけで7回、スライドは4回作り直す事例が紹介されるなど、納期より品質を優先するスタンスがあるので延びる場合もあるとか。
コンテンツへのこだわりの強さが伺えます。


初期ユーザーの獲得方法

ここでは、そんなProgateがどのように初期ユーザーを獲得したかを見ていきます。toCサービスのグロース戦略は大別すると「クチコミ」「広告」「SEO」「セールス(マーケットプレイス型のみ)」の4つしかないと言われますが、Progateは明確にクチコミに焦点を絞って成長してきました。

toCサービスの4つのグロースエンジン

Progateは学習サービスのため、「プログラミングが習得できること」「学習を継続できること」という明確な評価指標があり、この体験がクチコミでの拡散を左右します。
そこでProgateが取り組んだのが。「実際のスクール経営でのニーズ収集」「SNSでクチコミを広げる仕掛け作り」の2点でした。

■実際のスクール経営でのニーズ収集
実は創業当初の2014年の冬頃から2015年くらいまで、Progateはオフラインのプログラミングスクールを経営していました。このオフラインスクールやもくもく会での対面ユーザーヒアリングで、初心者が躓くペインや求める機能を把握すること、またコミュニティで初期ユーザーとの関係性を築きながら、サービスを大きくすることを成し遂げています。

■SNSでクチコミを広げる仕掛け
こうして提供価値の高いプロダクトを生み出しつつ、その体験を拡散していくために実装したのがSNS連携機能です。TwitterやFacebookのアカウントでのログイン機能はサービスのローンチ初期から実装していましたが、さらにクチコミを拡散しやすく、かつユーザーが学習を継続しやすくするために行ったのが「レベル」という概念の実装です。

学習フェーズごとに「レベル」を用意し、レベルアップするとSNSでシェアできる導線を設け、進捗を発信できるようにしました。サービスの利用に最も価値を感じている「学び終わりのタイミング」でシェアできるように設定しているんですね。
この仕組みが「学習成果を人に知らせたい」「オンライン学習で孤独」というユーザーのインサイトに刺さり、SNS上でのProgateの学習記録や習得状況がシェアされるようになりました。

実際に、Yahoo!リアルタイム検索で「#progate」を含むツイートを調べたら、1日200件近くレッスン修了のツイートがされており、コミュニケーションやクチコミが生まれやすい仕組みとして作動していることがわかります。

Yahoo!リアルタイム検索の結果

さらに、これらの発信に対して公式Twitterが逐一「いいね」やリプを返すことで、ユーザーのモチベーションを保ち、プログラミング学習を継続できるように支援しているとのこと。

これらの初心者ユーザーを理解した取り組みにより、Progateはマスプロモーションを行わずにプログラミング学習ツールとしての認知を獲得し、国内ユーザー150万人を獲得するに至りました。


成長に必須だった世界展開、市場選びのポイントとは

そんなProgateがさらなる成長を求めて推進しているのが世界進出です。
インドとインドネシアには現地法人を設立し、シェア拡大に注力。
その背景にあるのが、先述した月額980円という価格へのこだわりでした

「実は入社後に、『サービスの価格を上げたほうがいいんじゃないか』と加藤に提案したことがあります。その時に返ってきた答えが、『日本での価格を10%上げて学習へのハードルを上げてしまうより、世界中の人に提供して母数を広げるほうがインパクトが大きい』。すごく納得しました。世界で使われるサービスをつくるという目標が、僕たちのベースに常にあると思います」
(COO 宮林卓也氏)

BUSINESS INSIDER「プログラミング学習の「Progate」が、200万ユーザーの先に見据える世界」

「学習ハードルを下げて、創れる人を増やす」という思想に照らすと、海外展開は必須であり、必然だったのでしょう。具体的には2017年10月には英語版、2018年5月にはのiOS/Androidアプリの英語版をリリース。そして2018年9月にはインド、2020年2月にはインドネシアに現地法人を設立しています。

インドオフィスの様子

■インドでユーザーをどう獲得したのか
ではなぜ参入市場がインドだったのか?きっかけは、Progate英語版をリリースした際に「インドからのアクセス」が多いことに気づいたとき。
そこからFacebook広告を東南アジアで打ったり、実際にインドを含めた東南アジアの国に視察に行ったりしたときにも、特にインドは反応が良く、手応えを感じたとのこと。そのうえで「人口約13.5億人というマーケットサイズの大きさ」「体系的なプログラミング教育サービスの提供価値の大きさ」が決め手となりました。

今も身分制度の影響があるなかで、就職できる職業が限られている人でもエンジニアにはなれるかもしれない。そうすれば収入も大きく変わってくる。彼らの人生において、プログラミングがもたらすことができる価値というものは、とてつもなく大きいと考えています
(Founder/CEO・加藤 將倫氏)

インド市場に参入したProgateですが、立ち上げ当初はユーザーのニーズを掴みきれず、会員数もあまり伸びずで苦戦したそうです。
そこでProgateが取り組んだのが、ユーザーヒアリング。実際にProgateを導入しているプログラミングスクールに毎日通い、どうProgateをつかっているのか、どのように学習しているか観察したり、学生に話しかけたりしてニーズを掴みにいくようにしたそうです。

ユーザーに直接向き合うことで発見した日本市場とのギャップは2つ。
 ①Twitterなどのオンラインでのクチコミ拡散が難しい市場環境
 ②「学習が転職や就職などの実利に繋がるか」という評価基準の大きさ

インドのエンジニア系の学部のある大学にはエンジニアのコミュニティ等があり、そこでアクティブな学生が情報交換を行っていたそうです。そのため、特にオンラインでの拡散が強くは機能せず、日本でのグロース戦略が通用していませんでした。
また現地の大学生にとっては、就職に向けて企業が求める技術レベルに到達することが最重要であり、単に基礎的なものを学べたというだけでは不十分であったことも、同社がインド進出初期に伸び悩んだ大きな要因でした。

そこで同社が行ったのは、大学別にプログラミングのイベントを開催すること。今では月150回程のイベントを開催しているそうです。これにより、大学毎のコミュニティに対して、イベント内でProgateを使ってもらう機会を創出していきました。ユーザーの濃淡があるサービスでは、濃いコミュニティを地上戦で開拓することがめちゃくちゃ効くなとぼくも実体験を通して感じます…!!

イベント実施後の様子

さらにイベントと同時に行ったのが、Progateで特定コースを修了した人に、オンラインで「修了証を発行する」という機能の実装でした。
インドでは就活で「Linkedin」を使うため、学生は自分のページに投稿する実績を求めています。学習歴を証明するイベントやオンラインコースの「修了証」を発行することで、ユーザーがそれをLinkedinに掲載し、さらに友人その投稿を見ることでクチコミが拡散される、という仕組みをつくることができたというわけです。

オンライン修了証

現地ユーザーの使い方をしっかり観察したからこそサービスの提供価値のポイントを掴み、3年で23万人ユーザーを獲得できたわけですね。
のちにインド法人CEOの西村さんはインド進出の一年目を以下のように振り返っています。

日本でも海外でも、どれだけ熱烈なファンをつくれるか、コミュニティをつくれるかが改めて重要だと分かりました。
(Progate Global Manager 兼 Progate India CEO・西村 拓之氏)

ちなみにProgateは現在、Google社CEOのサンダー・ピチャイ氏などを輩出するインド最高峰の大学 インド工科大学(IIT)にプログラミング学習を提供するまでに至っています。


今後のProgateの事業戦略

そんなProgateはこの先どこを目指すのか?
一言で言うと「初心者向けサービス」からの脱却です。

今年の3月、Progateは新サービス「Progate Path」を発表しました。

このサービスは、これまでブラウザ上でスライド教材をベースに学ぶことができたProgateとは異なり、実務で直面するような課題をテーマとした演習をベースに、ローカル環境で試行錯誤しながら学ぶような体験を志向しているとのこと。

背景にあるのは、「初心者から創れる人を生み出す」という理念に向けて「gate」(入口)だけでなく、「path」(道のり)を作りたいという社内の想いがあるようです。

ただ、​プログラミング学習の入り口は提供できたものの、入り口のその先を提供できていないことが課題でした。Progateでの学びをきっかけに実際にエンジニアとして働いている人や、プロダクトを作って起業した人が生まれるなど嬉しい報告がある一方、「Progateを学んだ後に何を学べばいいかわからない」「Progateだけではエンジニアになれない」という声を真摯に受け止めているような状況が続いていました。
(Founder/CEO・加藤 將倫氏)

確かに、Progateで各言語の意味を理解して多少書けるようになっても、学生ならインターン経験、社会人ならどこかで実装経験などを積まないとエンジニアにはなれないよな、という思い込みは優秀な新卒エンジニア同期を見ている筆者には理解できるため、そこを壊すプロダクトというのは素直に面白そうだなと感じています。

明確にプロダクトとしてリリースしたと言うより、まだ試験中だと思うのでビジネス的な分析はここでは控えて、続報を楽しみに待ちたいと思います!
β版ユーザーを募集中していたのでご興味のある方はぜひ。
(筆者はSQLをちょっとかじっただけなので試せず、、、)


本日の記事は以上です!
Progateのユーザーファーストを貫く姿勢、勉強になりました。
新プロダクト本格リリースを前にそろそろ資金調達するのではないかと予想していますが、Progateの続報が楽しみです!
長い記事を読んでいただきありがとうございました!!!

以下に参考書籍と参考記事を掲示しておくので興味のある方は是非どうぞ!

参考

書籍

記事

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