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吸着ガスを放出する~負のガス吸着とは~

概要

今回紹介するのは、負のガス吸着を持つ物質の発見という論文です。

スポンジのように穴の開いたスカスカな物質は、周りのガス分子の濃度(圧力)に応じて、吸着量が変わります。つまり、ガス濃度(圧力)が高くなるとその分たくさんのガス分子を吸着します。

今回見つかったのは、周りのガス濃度が高くなると、逆にガスを放出するという”負のガス吸着”という特性を持つ物質です。

この普通と異なる特徴は、高性能ガスセンサーに使えるといわれています。

今回の論文▼
A pressure-amplifying framework material with negative gas adsorption transitions
Simon Krause, Volodymyr Bon, Irena Senkovska, Ulrich Stoeck, Dirk Wallacher, Daniel M. Többens, Stefan Zander, Renjith S. Pillai, Guillaume Maurin, François-Xavier Coudert & Stefan Kaskel, Nature 532 (2016) 348-352.

負のガス吸着:Negative Gass Adsorption(NGA)とは

負のガス吸着という日本が正しいかわかりません。というのも私の調べが足りないのか、Negative Gass Adsorptionをググっても日本語の記事が出てきませんでした。日本語があれば教えてほしいですね。
おそらくこの論文が、負のガス吸着を示す最初の報告のようです。

一般的に、ガスの圧力が大きくなるとガス分子の吸着量が大きくなるという関係があります。
横軸にガス圧力(または濃度)、縦軸に吸着量をとった吸着等温線のグラフでは傾きは変化するもののグラフは右側に行くほど、大きくなるのがわかります。

吸着等温線の図

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https://www.jsac.or.jp/bunseki/pdf/bunseki2009/200907kaisetsu.pdfより引用

負のガス吸着とは、圧力が上がっても吸着量が減少することを意味しています。何かトリックがないとこんなことは起きない気がしますが、この論文ではその種明かしがされます。


何がわかったのか?

負のガス吸着現象は、スポンジ状物質の構造変化が原因のようです。

今回発見された物質は有機金属構造体(MOF)の1種で、中身がスカスカな構造体です。MOFとはその名の通り金属原子と有機物でできた、とても小さなジャングルジムやスポンジみたいなイメージです。スカスカなため、周りにガス分子があると吸着していきます。

通常、スカスカでオープンな構造を持つ物質は、ガスの圧力増加に伴い、構造がどんどん不安定になり圧縮するような負荷がかかります。
その圧縮の結果、スポンジ構造は収縮しクローズ(密)な構造に変化します。それとともに一部ガスが放出されます。これがある時点で吸着量が低下する原因です。
厳密にはエネルギー的に準安定構造になってしまい、それを解消するため収縮が起こるということのことです。

今回、調査の対象になったMOFの構造

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https://q-more.chemeurope.com/news/157567/scientists-discover-new-phenomenon-in-the-field-of-gas-solid-interactions.htmlより引用


今回用いられたMOFは、ガス環境に敏感な微小空気デバイスに使われるほか、環境の変化に反応して収縮・膨張を行うことから微小な機械的アクチュエータなどを実現する可能性があります。


感想

負の屈折率とか、負の熱膨張とか、負の○○シリーズは最近特に話題になってきていますね。

自分の研究でも環境に応じて構造が変わる材料を扱っているので、この手の研究は非常に興味深かったです。
この収縮機能で物理的な性質が変わるというのは、機械工学や光学などの分野でもいろいろと研究されていますね。

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