二千の顔を持つ竜、と賢者【物語元型論】
このコラムでは、物語において典型的な敵と味方のタイプについて解説します。英雄は、形を変えて様々な作品に登場します。それは英雄と対峙する竜、彼を手助けする賢者も同様です。
竜とは?
英雄譚における「敵」の代表は「竜」です。竜は、自然のマイナス面(災害や飢饉など)をキャラクター化した存在で、特に川などの「水」に関連が深いです。英雄は、自然をコントロールして掌握する必要があり、それを「竜との戦い」という物語に落とし込んだのが、英雄譚なのです。
竜の類型には、他にも「自然」に関するキャラクターが挙げられます。
動植物:獣や魔物
未熟者:蛮族や子ども、狂人や道化、年下、社会的に地位が低い人など
古来、自然は「地母神」によってキャラクター化されていました。なので古い物語では「自然=女性的」とされることが多いのです。よって竜も(本来は)女性的な存在なのです。
破壊神シドーと邪神官ハーゴン
例えばRPGゲームの「ドラゴンクエスト2」には、2人のボスキャラがいます。破壊神シドーと、そのシドーをあがめる邪神官ハーゴンです。ハーゴンは魔界から魔物を呼び寄せて国を滅ぼすなど、様々な悪事を働きます。
一方、シドーは物語の最後の最後に出てくるだけです。しかも、これといった性格を与えられていません。しいていうなら、破壊の化身といったところでしょうか。彼は言葉の通じない強大な敵です(※1)。
この2人の間ではハーゴンの方がより人間に近く、シドーの方が本来の「竜」に近いキャラクターづけになっていることが分かります。
「無とは一体……うごごご!!」で有名なFF5のエクスデスように、ハーゴン型だった敵がシドー型に変化するというのも、物語の定番です。悪に飲まれて悪そのものになるというのならば、MOTHERのギーグも同様のことが言えますね。
※1:スカッとする「敵」の資質として「交渉不可能性」があると、私は考えます。多くの作品ではラスボスと問答をした後に戦います。なぜなら「話し合いで解決しないから殴り合った」ということにして戦いを正当化するためです。殴ることに罪悪感を感じる物語では、読者はヒーロー気分を満喫しがたいのです。魔物や獣が敵として頻出するのは、彼らとはもともと言葉を交わせないから、お手軽にヒーロー気分を感じられるからでしょう。
竜は2匹いた!
しかし実は、英雄の「敵」には2タイプいます。つまり、自然の代表である「竜」と、文明の代表である「王」です。「悪い王」ということで「魔王」と呼ぶのがちょうどいいでしょうか。その地を既に治めている王(もしくはこれから治めようとしている王候補)と争い、その座を手にすることを通じても、英雄はその資質を示すことができます。
「王」の類型は、「竜」の反対を見ていけば概ね分かります。
機械類:AIやコンピューター、ロボットなど
成熟した者:大人や老人、知恵者、年上、社会的地位が高い人
「王」タイプの敵は、いわゆる支配者や権力者です。頻出するのが主人公の父親です。さらに世界征服を目論むこともよくあります。王様ですから、自分の領土を増やそうとするのですね。
イマドキの竜
現代では「竜」と「王」の2タイプは混ざり合い、英雄の「敵」としての「竜」に一元化されています。もともと「自然=女性的」な性質を持っていた「竜」が「男性的」な気がするのはその影響です。例えば、ドラゴンクエスト1のラスボスは「竜王」です。
賢者とは?
主人公の旅を邪魔するのが「竜」なら、手助けするのが「賢者」です。よくいる「賢者」は仙人のようなおじいさんです。ただし、「王」と「竜」がいるように、賢者もまた「文化・男性的」な人物と「自然・女性的」な人物があり得ます。前者は以前も紹介した「老賢者(オールドワイズマン)」です。後者は、ユング心理学において典型的な名前はありませんが、便宜上「霊媒師(メディアル)」としておきましょう。つまり、巫女です。
霊媒師は、神秘的なキャラクター、あるいは規範とは異なる権力を持つ者として登場することが多いです。ただ、先ほど述べた「竜」の類型がそのまま「賢者」の類型にも当てはまるので、他にもいろいろなキャラクターが霊媒師タイプの賢者になりえます。例えば、子どもやちょっとアホそうなキャラクターが重要なことに気づいたり、マスコットキャラの妖精が助言をくれたり、ペットの犬が助けてくれたりします。童話シンデレラでは、魔法使いのおばあさんがボロの服をドレスに変えてくれます。お城に向かうかぼちゃの馬車を引くのは、魔法で馬に変身したネズミたちです。
まとめ
英雄譚の「敵」と「賢者(メンター)」には、「自然(女性的)」と「文明(男性的)」の2パターンが存在します。敵の類型はそれぞれ「竜」と「王」、賢者の類型は「霊媒師(メディアル)」と「老賢者(オールドワイズマン)」に分類できます。典型例は次の通りです。
自然よりのキャラクター
動植物:獣や魔物
未熟者:子ども、狂人や道化、年下、蛮族や社会的に地位が低い人など
文明よりのキャラクター
機械類:AIやコンピューター、ロボットなど
成熟した者:大人や老人、知恵者、年上、社会的地位が高い人
現代の物語論における「竜」が「男性的」な存在に思えるのは、「敵」の持つ「竜」と「王」の性質が混ざった結果です。
おわりに
このコラムをもって、物語元型論の前半戦は終了です。
主人公の周りにいる重要人物である、竜と賢者については説明したので、次は主人公そのものについての解説をしていきます。主人公の類型に触れることで、その相手役であるヒロイン(あるいは王子)についても語れるのではないかと考えています。
では、よろしければスキを押していただければ幸いです。
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