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ファミマで見つけたワイルド・ストロベリー

 連日猛暑が続くとはいえ、木々が身にまとっていた濃緑の葉のところどころに黄色が混ざり、夏物セールもとうの昔に終わりました。
 歩きながら、今年の夏を思い返していました。ほとんど家にいた夏でした。夏山の木陰や波の銀色に輝く反射を見ることもなかったし、少し気取って食事に行く機会もなく、機会がないから「あら、いいわ」と思った小物やスカートも「買ったところで・・・」とそのまま店頭に置き去りにすることばかりでした。

 水を買いにファミリーマートに入りました。ペットボトルを取ってレジに向かおうとした時、かわいらしい野いちごが目に止まりました。毎度同じ顔ぶれの雑誌が陳列されている棚で、そこだけ生活感がない空気が流れています。最前列に、ウェッジウッドのワイルド・ストロベリー柄のバッグが並んでいたのでした。

 薔薇のような豪華さや、百合の気高さもいいけれど、気取らない野いちごが身近な感じがします。それでいて、程よく配置された余白と繊細でしなやかな蔓のおかげで上品さもあります。小粒の赤い実がいくつも、あっちを向いたりこっちを向いたりしながら描かれ、見ていると陽気さが伝わり、若い淑女たちがころころ笑いながら、ガーデンパーティーをしている様子が浮かんできます。

「買おうかな?」でも、似たようなバッグはたくさん持っています。今はこの柄の可愛さで一瞬の購買意欲を刺激されているだけ。買ったところで、このバッグを持って友達とお茶を飲みに行って、「あら、かわいいバッグね」と言われ、ちょっとした優越感にひたることはありません。「やめようかな?」

「何をまよっているのかしら?」「そうよ、つまらないこと考えないで、買ってしまえばいいのに。」そんな他愛ないおしゃべりが聞こえました。「そう、使う機会は作ればいいことよね!」私はペットボトルと一緒に、レジに持っていきました。

「このバッグをお供に、終わりゆく今年の夏を、どこに見送りに行こうかな?」今年の夏も、まんざらではなかったと笑って終えられそうです。

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