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Art|楽しみだぞ「国宝 鳥獣戯画のすべて」展!

2020年7月14日から東京国立博物館で開催予定だったものの、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で延期になっていた特別展「国宝 鳥獣戯画のすべて」が、4月13日から開催されることになりました(5月30日まで)。

2020年に開催される予定だった展覧会のなかでも大注目だった展覧会。中止にはならないでほしい、と願っていたので、何とかリスケされて開かれるというのは、素直にうれしい。ありがとうございます!です。

《鳥獣戯画》は、京都郊外の栂尾という山中の古刹・高山寺に伝わる絵巻物で、甲・乙・丙・丁の全4巻で構成されています。

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今回は、その全場面を公開する史上初の展覧会として注目をされています。

これまでも4巻のうち1巻程度は、毎年1回ほどのペースで展示されていますし、2015年には今回と同じ東京国立博物館で4巻の同時展示に展示されていますが(京都・福岡でも巡回開催)、この時は各巻10メートルほどある長い巻物の一部を公開したもの。今回のように、全画面を一度に観ることはできませんでした。

そう、長い展覧会の歴史でも全4巻の全場面の公開は、前例のない史上初の試みといえます。もう楽しみですね。

さらに今回は、《鳥獣戯画》が伝来する過程で切り離されてしまった「断簡」や、現在は失われてしまった部分を模写した後の画家の模本作品も同時に展示されるそうです。

ちなみに今回の展示では、4巻のなかでもっとも人気のある甲巻は動く歩道に乗って鑑賞するという非常に珍しいスタイル。おそらく世界初だといわれています。

科学の視点でようやく真理へと至る対話が生まれた

今回の展覧会は、2019年から4年の歳月をかけて行われた《鳥獣戯画》の全面修理(平成の修理)によって分かった新事実を確認できる貴重な展覧会と僕自身は位置づけています。

僕が注目したいのは「紙」です。

鳥獣戯画は、絵柄や筆遣いから①甲巻前半、②甲巻後半と乙巻、③丙巻前半、④丙巻後半、⑤丁巻、と最低でも5つの時代の絵師たちが描いたものが一つになったといわれています。

鳥獣戯画には、全巻を通じて杉原紙という和紙に描かれています。調査によると、甲巻前半は上質の杉原紙だったそうですがが、後半は、使用済みの和紙を漉き直して作った「漉き返し」だったことが平成の修理にわかったそうです。

これは、紙を漉く際の簀の子の竹の目や繊維などから乙巻の紙とよく似ていることもわかり、同じ時期に制作された可能性が高まったとそうです。

さらに丙巻にも新発見がありました。別々の巻だったものを1枚にくっつけたと考えれていた丙巻は、なんと元は紙の裏表に描かれていたものだったことがわかりました。1枚の紙を薄く2枚に剥いで1枚につなげあわせる「相剥ぎ」の技が使われてるといいます。

丙巻の前半と後半を見ると、巻全体で見て、中心から対称の位置を見比べると、裏の墨が滲んでしまっているところがみえます。

さらに画面の損傷の状況などから、前半の人物戯画の面を外側にして巻かれていた時期があったとされていて、その証拠に、薄くなった墨線を上からなぞり、線が二重になっている箇所を見つけることができるそうです。

これは、実際に見てみたい!

さらに、元の薄くなった墨線を見ると平安時代後期の作風に似ている部分もあるようで、それによって、丙巻はこれまで鎌倉時代の作と推定されていたのが、平安時代に制作された可能性も出てきたそうです。

これまで、作風や描かれているものの内容から推測、つまり文脈を読むことで制作年代を推定してきたものから、科学的な視点によって使われている紙から事実が共有されると、一気に謎が解けていく。

よく「真理へと至る対話」を僕は引用するんですが、美術史研究のなかでもようやく真理へと至る対話が行われるようになることで、これまで膨大に時間をかけてきた研究を飛躍的に進めることになり、さらなる深い作品研究がなされると思います。

僕たちが考えもしなかった中世の日本の姿が、絵画によって解き明かされる日がくるかもしれませんね。

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日本美術の作品は画像の転載が厳しいこともあり、今回は実際の絵を掲載できずに申し訳ないです。ぜひ実物を観に国立東京博物館に行ってみてください。

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明日は「Food」。「記録できないものと快の情動」というテーマで書けたら。

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