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Event|窪田修輔さんのKADODEにいってきた

1月19日に、窪田修輔さんのポップアップイベント「KADODE」に行ってきました。

窪田修輔さんは、東京・北参道のフランス料理店「シンシア」(ミシュラン1つ星)の元スーシェフ(副料理長)。オーナーシェフの石井真介さんの提案もあって、定休日の日曜を使ってイベントをすることになったそうです。

イベントをサポートするのは、若手料理人の将来を見据えたチャレンジを支援するプロジェクト「CookStarter」。設立メンバーの山本篤さん、難波江基己さん、石上遼さんとは、ヤマシタ マサトシさんが登壇された「現代ブランディング勉強会 #9」がきっかけで連絡をとりあい、昨年末にMAGARIにも来てくれて、「若手料理人の活躍の場所を作る取り組みをしたい」という共通の目的を語り合ったなかです。

今回は3人の初めてのイベントということでもちろん行ってきました。

HINODE? KADODE?

今回は、コース料理6000円+投げ銭という、珍しいシステム。

ん???と思ってくれた方は、ありがとうございます。「HINODE」に似てますよね。

山本さんたちCookStarterが、HINODEのシステムに興味を持ってくれて、取り入れてくれたのです。イベントの名前もそれっぽい笑。山本さんからは、「だいぶ寄せさせていただきました」というが、寄せすぎでっせ!

窪田さんからは、「とてもいい取り組みだと思ったので参考にさせていただきました」といってもらって、何かのきっかけになったのだったら、よかったのかもなぁと。自分のやってることに共感してもらえたのは、素直にうれしかったです。

料理の方は、1つ星レストランの元スーシェフというだけあって、非常に安定感があって、コースのなかでの食べ手への寄り添い方ができてるなぁと思いました。温前菜の役割、魚料理の役割、メインの役割、デザートの役割。そういったグランメゾンにおけるコース料理の役割をよく理解されているので、まったくポップアップというような感じは受けない、洗練されたコースでした。

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小野寺さんがとった蝦夷鹿/森の香りのコンソメフラン

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フキノトウを食べた稚岩魚/馬肉と正明の大根
(正明は窪田さんの友人の農家)

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木村さんの牡蠣、田ぜりとグラニースミス
(僕はこの皿がいちばん好きだった)

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関さんの信濃雪鱒、葉わさびの香り

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米好き真鴨のクルミの枝燻し、八幡屋磯五郎

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小林さんの信濃クルミ、ルレクチェ

茶菓子、飲み物

食材に最大限に敬意を払う料理人、窪田修輔さん

料理名を見ればわかるように、窪田さんは食材への愛情がひじょうに強い料理人です。料理もその愛情を素直に表現するスタイルで、そのものの存在感を残しながら、意外な食材の組み合わせによる変化で、ひと皿をまとめ上げています。

僕が、好きだったのは、牡蠣のお皿。グラニースミス(リンゴ)のエスプーマ(サイフォンで抽出した泡)が牡蠣の上を覆っているのですが、このエスプーマの粘性にちょっと驚かされた。スプーンを入れた感じは、プリンのような抵抗を指先に感じるんですが、口に入れると、すぅっと溶けてなくなってしまう。テクスチャーのギャップ。

グラニースミスの甘味とあわい青っぽさが一瞬だけあったあとに、牡蠣のミルキーな味わいと、磯の風味が飛び込んでくる。

五感をフル活動して食べることができる、とてもおもしろいお皿だった。

デザートも美味。

まんまクルミのおいしさが広がるストレートなお皿。筒状になった飴細工のなかにクルミのクリームが入っているのですが、この筒を割る瞬間が、やっぱり気持ちいがいいのです。前のメイン料理からクルミをリンクさせている点もいい!

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27歳の窪田さんは、このあとアメリカをまわってくるそうだ。どんな経験をして帰ってくるのか、今から楽しみだ。この実力だと、アメリカでどんな経験でもできそうなので、ぜひ有意義な時間になることを願います。

いくら投げ銭をしたのか発表

さて、難しかったのが投げ銭です。一応確認したら、6000円が今回のコースの適正価格だと、窪田さん。それ以上の何かを感じたのなら、大入り袋に入れて、帰りに本人に渡してほしいということで、「何か」を何にするのか結構真剣に考えました。

料理のクオリティなのか、その日の過ごした時間なのか、窪田さんの将来性なのか、CookStarterへのエールなのか。

過ごした時間という意味では、シンシアというレストランのそもそもの質の高さがあって、自分では正確に判断できないと思った。

写真を見てもわかる通り、器やカトラリーがやっぱり一級品。料理以外も加味すると、訳わかんなくなる。

窪田さんの将来性にしても、この日のイベントで初めてお会いしたということもあって、人間性ももちろんだし、彼が目指す夢もわからない状況。そういうなかで、食べた料理以上に何かが伝わってくるようなイベントとしての仕掛けもなかったので、これも判断しずらい。

CookStarterについては、彼らを応援するのは、今回はちょっと筋違いかな、と思ったので却下。

そうなると、やっぱりそれぞれの料理の完成度なのかなと思い、コースが6000円ということなら、単純に1皿1000円と考えて「もし妻と一緒に食事に行って単品で頼んで、食べて文句をいわない金額」で算出することに決めた。

それで、はじき出した結果がこれ。

小野寺さんがとった蝦夷鹿/森の香りのコンソメフラン
1500円

フキノトウを食べた稚岩魚/馬肉と正明の大根
1200円

木村さんの牡蠣、田ぜりとグラニースミス
1500円

関さんの信濃雪鱒、葉わさびの香り
2000円

米好き真鴨のクルミの枝燻し、八幡屋磯五郎
1000円

小林さんの信濃クルミ、ルレクチェ
1400円

大入り袋にいくら入れたのか気になる方は、この合計金額から6000円を引いてください。自分への矜持として、細かいお金もお店で両替してもらって、きちんと査定通りに大入り袋にいれました。

しかし、どれだけ自分がお皿のことだけを見れたか、きちんとシンシアという空間やカトラリーなどの良さを引けたかは、正直まったく自信がないです。

レストランの平均料金をもっと上げるべき

レストランの働き方改革だったり、人材確保といったのって、外の業界から見ると、「レストラン業界ってやばそうだから、あまり関わらない方がいいかも」みたいな、話になりそうで、自分としては頻繁に言わないようにしています。

しかしながら、そういう末期的な状況をは事実な訳で。それを解決できる唯一の方法は、外食単価を上げることなんじゃないかと、個人的には思っています。

1万円以上のレストランの価値をきちんと理解して、国民全員が1万円以上のレストランに月1度は行くこと。こうなれば、レストランの価値は爆上がり間違いなしでしょう。スタッフの給料もあがって、定着率もあがるでしょう。ベーシックインカムにしたっていい。

そういう意味で、考えながら多くお金を払わせる投げ銭レストランの仕組みは、もっと流行ってほしいと思う。食にお金を使ってほしい。

しかし、そうは簡単にはいかない。だって、日本人はとくに安くてうまいものが好きだから。

そういう価値観はあっていいと思うのですが、その一方で、高い金額の食事の理由はなんなのか。食材? サービス? 空間? 総合芸術といわれるレストランにおいては、ありとあらゆるものが食事のために用意されています。たとえばトイレだってそう。

そういうことが、なかなかわかってもらえない。定価という基準が生まれたとたん、全く見えなくなってしまう。それを、原価レストランという形で、それまでお金を払っていたすべてのサービスを無料にして、あえて「見える化」したときに、どんな評価をするのか、というのがHINODEのアイディアのきっかけでした。

そういう意味では、何を評価するのかが不明瞭だったKADODEは、投げ銭をする意味がわかりにくく、すっきりとその日の体験を終えることができなかった。そこは、心残りかなぁ(発案者として多少厳しめな意見かな。。。)。ユーザー体験として、もう少し設計をしておかないと、窪田さんの料理の後日の印象にも影響を与えてしまうのではないだろうか。

そういう心配、「この日をいい日で終えたい」という僕自身の心の浄化という効能も込みで、ひと皿ごとの単価で計算、という投げ銭させてもらった感じですね。

でも、今後、たとえばサービスの部分を投げ銭にするとか、生産者さんに対する投げ銭や、お皿に対する投げ銭、みたなことはあり得るかもしれないな。投げ銭は、普段は気づかないものを可視化させる効果は強いんじゃないかと僕は思っている。

しかし、まさか自分が考えた若手料理人や食べ手を刺激するシステムを体験するとは。けっこう食べるのも大変で、HINODEに来てくださったお客さまには、たいへんなことをしてしまったんだなぁと、ようやく気付きました。


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