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世界をひとつのテーブルでつなげるために

2020年は、東京でオリンピックとパラリンピックが行われる。さまざまなアスリートや競技に注目があるまる中で、年齢や性別、障がいを持つ持たないを超えて、すべての人が同じルールのなかで競い合えるスポーツとして「ボッチャ」があります。

重度の脳性まひの人や四肢重度機能障害者のためにヨーロッパで考案され、1988年のソウル・パラリンピックから競技種目に加わりました。

人類がスポーツによってひとつになる。ボッチャは、記録や美しさを競う、競技としてのスポーツとはまったく違った感動を与えてくれます。

レストラン使用のヴィーガン・レシピが90品

ニューヨークスタイルのモダンレストラン「The Burn」の米澤文雄さんの初の著書になるレシピブック《ヴィーガン・レシピ》(柴田書店、2800円+税)が発売されました。

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肉や魚のグリル料理をメインにしているレストランのシェフがなぜヴィーガンを?」と言って、すでに話題を呼んでいます。

通常、「The Burn」で出している野菜オンリーのヴィーガンメニューのほか、このレシピブックのために考案された新作レシピも含め90種類が掲載されている。もちろん、僕が大好きな「カリフラワーステーキ」(下の写真)も載っていて、早速レシピをチェックしたところです。

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飲食店、とくにレストラン向けのレシピブックは、日本ではおそらく初めてということで、世界的にも増えてきているヴィーガン料理への需要に対応するためのメニュー作りとして必須のアイテムになるのではないでしょうか。

また、レシピブックを見るとわかるのですが、ヴィーガンかどうかは別にして、「メイン料理になりえる野菜料理」として新しいジャンルを示していて、写真を見ているだけで食べたくなる、作りたくなる本になっていることが《ヴィーガン・レシピ》のすごいところではないでしょうか。

多様性を受け止める料理人であるために

グリル料理をメインにしている店のシェフが、なぜヴィーガン本を出すのか。米澤さんは、その理由を本の冒頭で、修業先だったアメリカ・ニューヨークの三つ星レストラン「ジャン・ジョルジュ」での経験を交え答えています。

マンハッタンのアッパーウェストサイドにある店には、世界中から、高級レストランでの食事の経験が豊富なお客さまがいらっしゃいました。その中には、ヴィーガンメニューをオーダーされるゲストもいて、肉や魚の料理を食べているお連れの方と食事を楽しんでいました。
 こうした光景を目の当たりにして、食べる側の事情やニーズ、つまり多様性を受け止める料理人、レストランでありたい、と思うようになったのです。
ーー《ヴィーガン・レシピ》「introduction|はじめに」より抜粋

また、「The Burn」が肉をメインに扱うレストランだからこそ、畜産業から排出される温室効果ガスが地球温暖化に影響を与えているという事実から目を背けないためにも、「肉を少なくして、もっと野菜を」という考え方も持っていないといけないと言います。

そして、米澤さんのメイン料理になる、圧倒的な存在感のある野菜料理を見て、野菜農家さんを刺激することができれば、とも語っています。

米澤さんもひとりのシェフとして料理を作った品川区立障害児者総合支援施設でのクリスマスランチ会でも、障がいを持つ人と健常者が同じテーブルで食事する光景を見たときにも感じたのですが、料理を食べることを通じて、世界中の人が同じテーブルに着くことは、きっとできるし、それこそ料理の新しい価値なのではないかと思います。

もちろん、味わいを深め、正確で美しい盛り付けで料理を深めていくレストランは必要ですし、忙しいときにはコンビニのおにぎりのようなインスタントな食事も現代には必要だと思います。

その一方で、世界をつなぐことも料理にはできるはずです。スポーツにおける「ボッチャ」のように、政治や宗教、年齢や性別、嗜好や考え方、身体的な差や貧富の差を取り払って、世界中の人がひとつのテーブルにつくことができたら、素晴らしいことだと思いませんか? そのテーブルでは、すべての人が楽しんで食事をしているのです。

当然そこには、ハラルメニューやアレルギーに配慮したメニューなど、さまざまな知恵が必要になりますし、実現に向けて、まだまだ乗り越えていかないといけない壁もあります。

そんなレストランのユートピアを実現するうえで、米澤さんの《ヴィーガン・レシピ》は、その場所に近づくためのかなり大きな一歩になったのではないでしょうか。

不安や恐怖は、無知から生まれる

そしてもうひとつ、「ヴィーガン」という言葉に対して、排他的なイメージを持つ人が多いと思います。僕自身も、ネガティブな印象があるのは正直なところです。

人間にとって他者に対する恐怖や不安は、そのものへの無知から始まると思っています。ヴィーガンを知るためには、ヴィーガン料理を食べること。そこから、見直せることや、新しい発見もあると思います。

僕自身はヴィーガンではないですし、なろうと思わないですが、米澤さんがいうように畜産業の環境への影響もそうですし、生態系をおかしくしてまで肉を食べたいとは思わないのも事実です。できれば、同じような意識をもつ方が育てられた肉を食べたい。そういう考えの方も多いのではないでしょうか。

フレキシ・ヴィーガン(柔軟なヴィーガン)」という、ときどきヴィーガンになる人も世界的には多くなっています。

世界をひとつのテーブルでつなげるためには、その席に着く人たちの理解も必要です。着席する僕たちにとっても、米澤さんの《ヴィーガン・レシピ》のなかに、さまざまな気づきがあるのではないでしょうか。

追記
難しいことはさておき。ヴィーガン料理、めちゃくちゃ美味しいじゃん!ってのはけっこう大事だと思っています。

そこで《ヴィーガン・レシピ》から僕が作りたい(作れそう)な料理を3つ選びました!

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マッシュルーム、レモンのピュレ、パッションフルーツとキヌア」(31ページ)

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ホワイトアスパラガスのコンフィとフリット、エスペレット」(45ページ)

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カリフラワーステーキ、自家製アリッサソースとスパイス」(139ページ)

《ヴィーガン・レシピ》の料理写真が、どれもカッコいいんですよね〜。

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