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Food|正反対な日本料理とフランス料理

元旦の恒例番組「芸能人格付けチェック!2020お正月スペシャル」を見ていて、やっぱり味覚の問題は気になってしまいます。

今年は、8チームが2チームずつに分かれて、別々の問題が4問出されていました。

1問目 鯛めし「濱壱」
愛媛県産真鯛 または
2問目 かにしゃぶ(タレあり)「活かに 北斗」
天然タラバガニ または 冷凍焼け廃棄寸前のアブラガニ
3問目 伊勢海老のテルミドール「クラウンレストラン」
伊勢海老 または シャコ
4問目 鰻重「鰻處 黒長堂」
天然うなぎ または 中国産のうなぎ

1、2、4問目は日本料理なのに対して、3問目だけはフランス料理。

結果は、1、2、4問目にあたった6チームは、全チーム正解なのに対して、3問目にあたった2チームは、食材の違いを味分けられず、2チームとも不正解になっていましたね。

このシーンを見ていて僕は、「これは間違えて当然だよなー。問題の出し方が不平等だ」と思いました。

単純に「伊勢海老とシャコを間違えるか?」なんて思う方もいるかもしれないですが、これって「100走で陸上選手と素人が足の速さを競っているレースなのに、1組だけ相撲取りと太った人素人が100m走って早さを競っている」ようなものなんです。

そもそも相撲は、移動する速さを競うスポーツではありませんから、100mを走っても特徴は出てきません。

アスリートとしての目的が陸上選手と相撲取りでは違うように、日本料理とフランス料理には、かなり料理の目的が違っています。ですので、素材の良し悪しを味分けるのが目的のコーナーで、この3問目だけは間違えて当然という感じでした。

高級=新鮮」な日本料理、「高級=希少」なフランス料理

もう少し、説明します。

日本料理は、引き算の料理。フランス料理は、足し算の料理。

なんていわれます。僕は、日本料理が味をどんどん引いていけるのは、食材の良さがあるからだと思っています。

今回出題された「鯛めし」「かにしゃぶ」「鰻重」は、日本料理のなかでも食材がとれる産地で生まれた「郷土料理」と呼ばれるもの。つまり庶民の料理です。

一方のフランス料理として出された「テルミドール」は、1891年にフランスの首都パリで生まれたレシピで、本来内陸部のパリにはないロブスターを使う伝統料理です。

日本は、小さな国土のなかで、海と山が近く、食材の種類も豊富なので地元の新鮮な食材を料理して食べることができました。京都などの一部の例外はありますが、基本的に日本料理は郷土料理の集合体といえます。

フランスにも、「ブイヤベース」や「カモのコンフィ」などの郷土料理はありますが、日本人がイメージする、今回の出題されたような高級フランス料理は、パリの宮廷料理にルーツがあります。ですので、フランス国内のおいしいものをぜんぶ集めて料理する。成金趣味の料理です。

昔は、いまのように流通がしっかりしていませんでしたので、とうぜんパリには新鮮な食材は届きません。そこで、食材の悪さをカバーするために、肉や魚の骨などからとったスープや、バターやクリームといった味の強いもの重ねていったのが、フランス料理の味の歴史といえます。

テルミドール」は、まさにそうした時代のレシピです。産地でそのまま食べたらメチャメチャおいしいロブスターですが、パリに来る頃には、おそらく腐敗して臭いも出ていたいたんじゃないでしょうか。いったん殻から外してブランデーやクリームなどを加えて加熱して、殻に戻し、さらにチーズをかけて表面を焼いて食べるのは、手をかけることで悪い部分を見えなくしている。

そういった歴史があるので、郷土料理の集合体である日本料理の「鯛めし」や「かにしゃぶ」「鰻重」のように食材を食べるというよりは、まぁまぁの食材を手間をかけて、味を重ねて、それぞれのハーモニー(調和)によって味わいを楽しむ。それが「古典」と呼ばれるフランス料理の醍醐味です。

最初期のフランス料理では、「高級=新鮮」ではなく「高級=希少」なわけです。

極端な話しフランス料理は、「劣化した食材をおいしく食べるための調理法」が根底にあるので、漁師飯がルーツの鯛めしや、新鮮だからできるかにしゃぶ、鰻の泥臭さだけをタレでマスキングしてたべる鰻重とは、根本的に考え方が違うのです。

ですので、間違えた千葉雄大くんを、味覚音痴よばわりするのは、あまりにかわいそうです。

フランス料理にある調和やハーモニーという重力

しかし、フランス料理も1970年代ころから変わってきました。流通が発達し、新鮮な食材が手に入るようになったのと、国民のライフスタイルも変わり(移動は車や電車、ホワイトカラーの仕事が増えるなど)、昔の高カロリーの料理が敬遠されるようになると、フランス料理に軽さが求められるようになります。

それが「ヌーヴェル・キュイジーヌ」。nouvelle(新しい) cuisine(料理)、新しい料理です。

おっとと、これ以上偉そうに話していると、まずいかな。このあたりのことは、諸説ありますので、専門家の方にお任せしてと……。

僕が言いたいのは、現代フランス料理は、コッテリコテコテ、バターたっぷりじゃなくて、日本料理の影響を受けて、食材重視になっているということ。バターも使わないし、これまでフランス料理の命といわれてきたソースも使わないレストランもあります。

時代に合わせて柔軟に変化し、顧客のニーズに答えるのもまた、フランス料理。食材を重視して、繊細になってきています。

しかしそれでも、自然と料理の中に出てきてしまう調和やハーモニー。これこそ、フランス料理の真骨頂! 積み重ねてきた歴史を感じさせるところです。僕は、日本料理も好きですが、この調和やハーモニーという重力から逃れられないフランス料理がやっぱり大好きなんですよね。

なんか、フランス料理を食べに行きたくなってきた。

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