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喪失感新婚旅行 [16-1] 上田 推しゲストハウスの登場

上田に到着したのだが、そろそろ洗濯しておかないと、明日着る服が無いので上田のコインランドリーで洗濯物の乾燥が終わるのを待っているところだった。

「今日泊まるゲストハウスの人から連絡きたんだけど、乾燥あとどのくらいで終わる?」

と夫が訊いてきた。
チェックインが押しているわけでは無いと思うのだが、オーナーさんはちょっと焦った様子で連絡をしてきたとのこと。

「あと10分くらいかな。で、畳んだり、車に積んだりするからあと20分もあれば出発できると思うけど。なんで?」

「なんか、宿泊サイトで予約したんだけどそのゲストハウスのオーナーさんが、今日は出かける日なんだって。今日の予約は受けないつもりだったらしいんだけど、サイトで予約を受け付けないモードみたいなのにするのを忘れて、で、俺らが予約入れちゃったから今連絡がきてるところ。」

「え?」

「16時までに来てくれると助かるって言われてて、だからそれに間に合いたいなと思ってる。」

「わかった。」

洗濯物終わらせて、私たちは出発した。

向かいながら夫がこんなことを言ってきた。

「予約フォームにさぁ、宿へのメッセージを書いてくださいっていう欄があって、それを入力しないと予約出来なくて、新婚旅行です、楽しみです的な文章を入力して予約したんだけど…」

「うんうん、それで?」

「そう。さっき、いい部屋にしてくれるって連絡もきて。」

「え、料金が上がっちゃうんじゃない?」

「そのままの料金でいいらしい。」

「なんてこと。」

ちょっとだけ、部屋の情報を見てみたのだが、私たちが泊まって良いのかと思うほど素晴らしい部屋なのだ。

わくわくしながら宿へ向かった。別所温泉にあるゲストハウス、ご夫婦で営んでいて、ご主人はアメリカ人、奥さんは日本人で陶芸とかもやっているらしい。
ゲストハウス自体は古い建物を自分たちでリノベーションしていて、HPの写真を見る限り、いかにも手作りです!感が無く、堂々とした印象だった。
色々とレベルが高すぎて、憧れてしまう。


宿に到着すると、奥さんが出てきた。

「いやぁ、ごめんねぇ、もう今日は貸切だから!お部屋案内するからちょっと待ってね!」

「私は今夜出掛けちゃって、明日の朝帰ってくる予定なの。あなたたちは明日、何時ごろ出発する?お昼頃とかでもいいわよ!」

「お部屋はここね!新婚旅行にぴったりでしょ〜!今日は貸切だから!他のゲストもいないから!楽しんでね!」

圧倒された。火事の喪失感とか、言ってる場合じゃない。
用意していただいたこの豪華な部屋にも、驚いた。

「この部屋、断熱もすごい効かせてるから暖かいわよ!お布団は自分たちで敷いてね、このマットレス、ふっかふかよ〜!」

と、ものすごい熱量で、色々と話をしてくれるのだが、私には心地よかった。

この日の夜は、上田のお友達、石井ちゃんと飲みに行く約束をしているから、遅く帰っても大丈夫なように近くの銭湯でお風呂を済ませることにした。

別所温泉には銭湯が点々とあった。ゲストハウスの奥さんがおすすめしてくれた銭湯に歩いて行った。

入り口には番台さんがいて、昔ながらの雰囲気。
洗い場が2つしか無く、その内シャンプー専用のシャワーが1つのみ。シンプルイズベスト設計だが、シャンプー用のシャワーの争奪戦がもうすでに始まっていた。
そのため、さっと洗って湯船に浸かってシャンプー待ちをしていた。
待っても待っても開かないシャンプー専用シャワー。このままだとのぼせる…
ふと頭に浮かぶ3つのストーリー。
1、のぼせる前に諦めてお風呂を出る
2、のぼせる寸前でシャンプーが出来る
3、のぼせるうえにシャンプーが出来ない
あと数分したら何かしらの行動を取らないとストーリーが進まないしのぼせる。

うーん、うーん。とシャンプー専用のシャワーを使っているご婦人と、その周りの人々のことを観察しながら待つ。
私の推測だが、今隣で温まっているご婦人もシャワー待ちで、今入ってきたばかりの親子連れも、これからシャンプーがしたいだろう。
となると、私の枠はもはや無い。あっても30分待ちだろうか。これは潔く諦めた方が良い。
1のストーリーを選んだ私は、シャンプーを断念して、普通のシャワーで頭皮を洗い流しお風呂を出た。そういう日もあっていいのだ。
そうして私は、ほっかほかに仕上がった。
歩いてゲストハウスに戻る。この頃は11月で、夜は冷えこむ時期だったのだが、寒くて湯冷めするどころか、1歩1歩進むたび、汗をじんわりとかいた。

ゲストハウスに戻り、夫にお風呂のことを話しつつ、石井ちゃんに会うための支度をした。

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