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喪失感新婚旅行 [20] 奥多摩 おかあさん山荘

浜松を出て、私たちは奥多摩へ向かっていた。
11月も下旬だったのだが、暖かく眩しい日差しが心地よく、車の窓を開けて少し冷たい風を感じながらのドライブ。
奥多摩に近づけば近づくほど、山で、そして観光地なところが私たちの暮らしている場所に似ているなと思った。
なぜか安心感のようなものもあった。やはり海よりも、山を見る方が落ち着くのかもしれない。

そして、私たちの新婚旅行はいよいよ終わりに近づいている。
今日の宿泊先で、もう最後なのだ。
最後の宿泊先はビジネスホテルでもゲストハウスでもなく、民宿。
きっと、畳の部屋に癒されるんだろうなと楽しみだった。

チェックインして、部屋に入り荷物を整理していると、部屋の電話が鳴った。

「お風呂は何時ごろにしますか?晩ごはんは19時ごろなのですが。その前?後?」

この民宿を営んでいるであろう、おかみさん。たぶん70代くらい。
お風呂や食事のタイミングはこのおかみさんのタイミングに合わせつつ、私たちの予定にも合わせつつで、柔軟なようなマイペースなような感じがすごく心地よかった。
夕方あたりに、行きたいお店があって、そこに行ってからお風呂、そして夕飯にしたいと伝えた。

「わかりました。じゃあ、帰ってきたらまた連絡してくださいね。」
なんたる安心感。全てを包み込んでくれそうなこの感じ、とってもいい。

出かける準備をして、奥多摩を少し散策しつつクラフトビール屋さんへ。
Googleマップを見ながら、目的地に近づくとそれらしき建物には行列というか、席の空く待ち時間を持て余した人で溢れかえっていた。
列なら最後尾に並べばいいけれど、列が見当たらない。店内の様子を見る限り、忙しすぎて退席した後片付けに手が回っていなく、新たにお客さんを案内できない、ピーク時の最悪なパターンになっていた。
店員さんは足りない状況で皆、今というピークの時間をこなすのに精一杯な表情で、手伝ってあげたいレベルだった。
同じ観光地で働いていた身としては、店員さんの気持ちがすごくよくわかる。

やっと席に案内されて、クラフトビールを2杯ほど飲み、奥多摩を少し散策しながら宿へ戻った。
昼間は薄着で過ごせるくらい暖かかったけれど、日没に近づくにつれてどんどん冷え込んできて、さすがに寒かったから、ダウンジャケットを着た。
昼間の暖かさと反対に夜はツンっと寒い気候や、17時には真っ暗になってしまうこの季節は、私は苦手で、この冬をいかにポジティブでハッピーに過ごすかを毎年考えて過ごしている。だいたい2月頃に燃え尽きて、嫌になっている。寒いのと冬が大好きな人に、冬のハッピーな過ごし方のメソッドを教えてもらいたいくらいだ。

宿に戻って、お風呂に入った。
絶賛コロナ禍だったから、宿泊客は私たちだけだったのか、お風呂は貸切状態だった。
さっき、体が冷えてしまっていたからポカポカと温まって幸せな気持ちになった。

その後は晩ご飯を食べて、部屋でまったりと過ごして布団に潜った。
いよいよ明日、我が家へ帰る。そう考えると、旅を終えることが寂しいような、ホッとするようななんとも言えない気持ちになった。
いよいよ仕事を探さないと食っていけないし、そもそも向いてる仕事はあるのかとか、まだまだ火事の事後処理もあったり、新たな住まいを探さなければならなかったりと、やることは盛りだくさんだ。
正直、火事のことはものすごくショックで、これが自分ひとりの出来事だったら相当落ち込んだし、立ち直れなかったと思うけれど、夫も辛い、私も辛い、そんな状況になってしまっては、夫婦揃ってマイナスな方向に行ってしまう。どちらかがマイナスになるのも良くないことだから、夫の足を引っ張らないように、前を向こう。目は前にしかついていないんだから!そんなことを考えながら眠りについた。

朝、早く目が覚めてしまったから散歩に出かけた。
紅葉の色で染まった山を、スポットライトのように朝日が照らしていた。
昨日に引き続き、良い天気で、爽やかな空気に思わず深呼吸をした。
どこを目掛けて行くわけでもないけど、山を眺めながらぷらぷらと歩いて、
近くのデイリーヤマザキで買った暖かいコーヒーを飲みながら宿へ戻った。

宿をチェックアウトして、私たちはまず国立市へ向かった。
夫の友人と再会するために。

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