その曲を聴いていた時
懐かしい音楽を聴いた。
かなり昔の名曲らしい。
その曲を初めて知った何年か前、飽きもせず何度も繰り返し聴いていた。
音楽は、その当時の風景を自然と思い出させてくれるものだと思っていた。
実際今までもそうだった。
この香りを嗅ぐと、あの人の事を思い出すとか、そういった類いのものだ。
なのに、昨日久々に聴いた懐かしい曲は、その当時を思い出させてはくれなかった。
不思議だ。
その曲に出逢って衝撃を受けた当時、私はどんな日々を送っていたのだろう。
私は、懐かしさを覚えながら一度聴き、また繰り返し聴いてみて考えた。
こんなにも歌詞も曲も感動するというのに、その曲を聴いていた当時が全く思い出されない。
「その曲めちゃくちゃいいね! 誰の?」
スマホを夢中に触っていた高2の息子が聞いてきた。スマホを触っているとき、普段なら息子は私が話しかけても聞こえていないことが当たり前だ。そんな息子がスマホ画面から顔をあげ、その昔の名曲に興味を持って聞いてきたのだ。
「ビリー・ジョエルのhonestyって曲だよ。大分昔の曲 」
「いい曲だね」
息子も気に入ったようだった。
「何年か前に聴いてたけど、その当時が思い出せなくて不思議すぎるの」
こんなにも心惹かれる曲なのに。
その当時、私は幸せに過ごしていたのか、何かに悩んでいたのかさえも思い出せない。
「それだけいい曲なんじゃない?」
息子はスマホを触りながら呟いた。
なるほど。
まあ、思い出せなくてもいいか。
また今この曲を思い出し、聴くことができたのだから。
曲も歌詞もとてもいい。痺れながらこのまま気絶してしまいそうだ。
何年後かまた聴いたとき、今の私の日常が思い出せるのだろうか・・・。思い出せたとしたら、何を、誰を、どんな風景を思い出すのだろう。
歌詞に共感しながら、心震えて感動している未来の私の姿は想像ができるけど。
未来の私もきっと、
「なにこれ痺れる・・・。染みる・・・。ヤバい・・・!」
と呟きながら、何度もリピートさせ涙する曲なのだと思う。
そんな昔好きだった大切な曲を、久々に聴くことができて、私はとても幸せだと思った。
hisataroh358さん。
思い出させてくれてありがとうございます。
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