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今年のクリスマス

クリスマスにケーキを作る行為。
特に誰にも求められてはいないし、作るの面倒だなって思う。だけど買うより作る方が断然安いし、作り始めてしまえば出来上がりまでの道のりはテンション上がってくる。子供達も自然と手伝いに来て、レシピとにらめっこしながら完成した時の、あの写真撮影の時間……。

面倒くさがりの私でも、作ってよかったって思えた。
達成感がすごくて、今ある私の実力以上のケーキの出来栄えにほくそ笑んでいたのは、去年までのこと……。

今年は心底ケーキを作るのが面倒に思えた。
だって私、さほど甘いもの好きじゃないし……。
私にとってクリスマスは、家族と普通にいつもより美味しいものが食べられて、大好きなお酒が飲めれば幸せになれる。故にケーキに重きを置いていなかった。

作るなら自由に作ってみたい……。

今年は面倒くさいレシピ通りにケーキを作るのをやめにして、テキトーに粉などを混ぜて、テキトーに焼いてみたらどんな物体ができるのか、やってみた。

粉や卵やら、テキトーに混ぜて、うろ覚えの頭の中のいい加減なレシピでやってみたら、なかなか焼けなくて……。

いつまで待たせるの!? あなたまだ生なの? って、オーブンレンジの扉の中をガン見しても、何だか様子がおかしくて……。

その物体の東方向の端からは、ドロドロの生の液体が吹き出して零れ続けてた。
なんだろうこの現象、初めて見た。と、私はしばらくその物体を観察し続けた。
このままだとオーブンレンジの底と扉の間に生地が入り込み、買ってばかりの機械が壊れたら困るので、一旦扉を開け、デロデロに零れた生地を取り除いた。

再び扉を閉める。

なぜだかオーブンに飽きてしまった私は電子レンジに切り替えた。
チンの方が早く焼けそうだと閃いたのだ。
これ実験だから、別に成功なんて願っていないし、自由でいいじゃないって、それほど投げやりでもなく、子供が泥団子作るみたいな感覚に似ていた。

オーブン➝電子レンジ➝電子レンジ➝オーブン。

完璧と思って型から取り出したら、底の部分がデロデロの半生状態で……。

なんなのこれ、焼けるまでいつまで待たせるのよって、私、フライパンを取り出した。

生の底はフライパンで焼いてしまえば解決じゃない?

って、ジュージュー焼いてあげた。
キッチンは甘い香りが充満して目眩がしそうで、さすがに換気をせざるを得なかった。

寒いけど、とても心地の良い風がキッチンの空気を浄化してくれた。

この甘い香り、集合住宅の敷地内を侵略していくのかもしれないね。この臭いをキャッチした誰もがクリスマスイブにケーキを作る奥様がどこかに住んでいて、
「ああ優雅だね。どんな奥様だろう?」と夢見心地に思うだけで、現実は仕上げにフライパン登場させてる実験中だなんて思いもしないんだろう。

子供が泥団子作るみたいな感覚。
なんだか懐かしくて、楽しいケーキ作り。
結果、波動の重すぎる、胃にもたれそうなケーキが錬成された。
見た目は失敗作だが、意外と食べられる物体だった。
ありがたいことにその物体は、翌日には全て家族の胃の中へと消え去っていた。

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