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ラブレター



夫の誕生日前日のことである。


夕方、わたしは動悸がしていた。
もし、もしそうだったらどうしよう。わたしは納得できるのか、どんな顔をすればいいのか考えていた。


 夫の誕生日前日といっても、我慢が出来なかったわたしは2週間前に誕生日プレゼントを渡してしまうという所業を行ったため、特段準備することがなかった。
 誕生日当日は出掛ける予定だし、いつも通り過ごそうと朝ごはんの皿を洗い、テレビを見ていた。

そうだ、折角なら掃除機もかけてしまおう!!

最近は強力なコロコロに甘えて怠りがちだったから、誕生日前日こそ掃除機だ!とやる気に溢れていた。


……
………
…………
気になる。
やはり気になる。


使われていないゴミ箱の上に置いたままのものが目につく。そう。
引っ越したときから置きっぱなしの大量のライターだ。


時間があるときに片付けるよ、と袋にまとめて入れておいたライターたちは、見るからに大量すぎて片付ける意欲がわかずに数ヶ月経っていた。
ガスを抜くのが大変だと避けていたけど、この機会に片付けるかと重い腰を上げた。

まったく、なんでこんなに買っちゃうんだよ。
数年前までタバコを吸っていた夫は、大量のライターを隠し持っていた。

後片付けはわたしがやることになるんだから、といらいらしながら、1、2、3、4……と数えてみる。


さんじゅしち、さんじゅはち、さんじゅきゅ


よんじゅう!!!!!



40本あったぞ、おい。

まったくもう!!!
ライターを1本1本袋にもどす。と、1本だけ他とは色柄が違う。


            HOTEL 
            〇〇〇〇〇


ほ、て、る 〇〇〇〇〇……?


心臓がばっくんばっくんしている。ビジネスホテルのものじゃないだろう。
すぐさま検索窓に入力して、上から下までスクロールする。住んでいるところと同じ県にあるホテルのようだ。しかも、そこしか出てこない。

クロか……。


同じ名前のホテルが2つ3つ出てきてもいいだろうに、ここしか出てこないということはもう言い逃れできない。

出会う前のことだからいいのだ。
じゃあ何が悪いのかというと、わたしに嘘をついていたことになるからだ。

心臓がばくばくばくばくする。明日は夫の誕生日なのに、お祝いしてあげられるだろうか。知らないフリをする?聞いてみてクロだったらなんて返す?どういう表情をしたらいい?こうなら、ああならとぐるぐる考えた。



夫が帰ってきた。
我慢ができないわたしは、なんて聞こうかと考えているうちに可笑しくなってきてしまって、ふへへと笑い出しそうになった。


だめだ。はっきり聞いてしまおう。


ねえ、嘘ついてることない?  
〜中略〜
ライターにホテルの名前が書いてあるよ!!

直球で勝負した。



ははははっと夫が笑いだすので、どっちだどっちだ。シロかクロかどっちだと判定しかねた。

夫が言うには自分で買ったライターと、一緒に吸った人のライターもごちゃまぜになっていること、それはおそらく前の職場の同僚のものだと思うとのことだった。



わたしはほっとした。
夫の話し方も表情も目も、本当だったからだ。

なーんだ。誤解させやがって。

夫には、彼女と行ったとかは思わなかったんだねと苦笑いされた。わたしは、夫が風俗に行ったとばかり思っていたのだ。たしかに。彼女だとは1ミリも考えなかったな。少しばかり、夫にわるいと思った。


お風呂に入って、あ〜よかった〜安心した。明日は楽しく出掛けられるわ、と考えていたとき、気づいてしまった。


わたし、結構夫のこと好きだったんだなって。


正直、一緒に暮らし始めて
足音物音が大きいとか、風呂の設定温度が高すぎるとか、些細な違いからイラッとすることがあって、注意したり喧嘩したりした。

新婚 喧嘩 とネットで調べたこともある。


それでも、好きなのは変わらないらしい。
わたしは思いがけず自分の気持ちを再確認できてしまった。




夫、誕生日おめでとう。
いい一年にしていきましょう。
これからも、健やかに、笑いながらやっていきましょう。



嘘ついたら、針千本飲ますからね。





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