粘ったら、勝てるときもあるかもしれない
粘り勝ちという言葉がある。
わたしの持っている国語辞典に意味までは載っていなかったから、ネットで調べる。goo辞典では「粘り抜いて最終的に相手に勝つこと」とある。
例として上げられているのは「説得しつづけて—をおさめる」こと。
わたしにとっての粘り勝ちイメージは、相手にお願いごとをして叶えてもらえるまで、納豆みたいにネバネバとしつこくまとわりついて、相手が「もうお手上げだ……」と降参するようなものだ。
わたしは9月中旬、これって粘り勝ちってこと!?粘ったら、本当に勝てるときもあるんだ…と驚きと少しの興奮を感じる出来事があった。
なにも、告白しては振られ、告白しては振られを繰り返していたある人が諦めなかった結果、想いを遂げられたと聞いて「ヨッシャー!」と思ったとか、そういうものではない。
とあるスマホゲームアプリをやったときの話なのである。
夫はスマホでショート動画をよく見ている。それか、新聞か雑誌を読むかのどれか。スマホを触っていれば(ああ、あれかな)と分かるくらいなのだが、ある日から永遠にスマホ使ってない?と思うほど、スマホをいじっているようになった。
「ねぇ、ずっと何やってるの?」
「ぷよぷよやってる。昔ハマってたんだよね〜」
″ぷよぷよ″
あ〜あれですね。
目がついているグミみたいなのが落ちてきて、それを同じ色同士でくっつけて消していくやつですね!
はいはい!
夫のスマホを貸してもらって遊んでみると、全然違った。
わたしが大昔に遊んだことがあるのはスーパーファミコンのぷよぷよで、落ちてくる2つのぷよを動かして重ねて消していくものだった。
夫がやっていたものは「ぷよぷよクエスト」。四角いスペースの中に既にぷよがいる。タテヨコナナメに指を動かしてぷよを消し、落ちたぷよがまた消えていく。そしてさらに上からぷよが落ちてくる(うまくいけばまた消えていく)というものだった。わたしのやっていたぷよぷよと全然違うじゃん。わたしが知らぬ間に、ぷよぷよには種類があるようだった。これはCMで見るパズ◯ラの遊び方に近いな。
最初こそ戸惑ったものの、連鎖して相手に攻撃、勝てるのがとても楽しい。ま〜ハマる気持ちが分からんでもない。
夫は休みの日にも長時間遊んでいるので
「ハマってるね〜」と話しかけると、「見て!」と画面を見せてくれた。スパイファミリーとのコラボガチャをやっているらしい。
あ〜なるほど!こういう期間限定のものって欲しくなるよね。
イベント期間中は走る!と夫が言うので(はしる…?)と言葉が引っ掛かった。なんとなく意味は分かる気がするけれど、一応聞いてみた。
「え!走るって言わない?言わないのかな〜」
「ゲームで言うかどうかは知らないけど、その言い方してると慣れてるというか、プロっぽくていいね。イベントをやり切るって感じ?」
「大体そんな感じだよ〜」
ほぉー。ゲームイベントは走ると言うのか。頭の中の棒人間が走り出した。またひとつ、知らないことを知れた。走るって使ったら、ゲームに詳しい人みたいでいいかも。
期間限定というだけあって、スパイファミリーのものはレアで強いらしい。夫はアーニャやダミアンはゲットしていたが、中でもヨルが欲しいと言う。
夫が〇〇欲しいって言うのは珍しい気がするし、わたしもいっちょ協力しますか!
夫が帰宅してから、2人でぷよぷよをする日々が続いた。
楽しい。ハマる。勝てると嬉しい。好みが真逆気味のわたしたちなので、共通のもので盛り上がれるのが嬉しい。ただ、ひとつ問題がある。問題というよりも、ミッションに近い。それは、ヨルを無課金でゲットしなくてはならないということだ。
夫もわたしも、スマホゲームをいつかやらなくなるだろう自分に気づいているので、無課金でやるのが通常となっているのだ。
無課金でヨルをゲットするには、ガチャを何度も引かなくてはならない
→ガチャを引くためには、魔導石が必要
→魔導石をもらうためには、プレイし続けなくてはならない
→永遠にプレイ!!!
平日の夜だけではなく、休みの日もできる限り2人でぷよぷよをした。夫が風呂に入っている間はわたしがぷよぷよをやり、わたしが疲れたときは夫と交代してやり続けた。
魔導石が集まり、いざ!!!とガチャを引いてみるが、やはりヨルは出ず……。でるわけないよな〜。そっか〜。無課金だと厳しいものがあるようだ。
何事も、期待して引くと欲しいものが出ないんだよな〜。欲だけでは達成できないというか。世の中うまくできてる(?)。
あっという間にイベント最終日。
最終日にまとめてガチャを引くために、夫は魔導石をさらに集めに集めた。
ガチャが終了するのは23時59分。
たしか、23時30分くらいに最後のガチャを引いたと思う。
四角いカードが画面に浮かび上がる。
虹色のカードだとレア。虹色が出ろっ。
2人でスマホ画面を見つめる。
デデン!!!
「「あ〜〜〜」」
「出るわけないか〜」
夫はもう諦めている。
うん。でもね、わたしはまだ諦められないの。
あと1回くらいはガチャを回せないだろうか?
夫からスマホを独占し、アプリの画面を隅々まで見ていく。
ん?これをクリアするとまた魔導石が貰えるぞ!
適当なクエストをクリアしていたら、もう1回ガチャが引けることになった。
「ねえ、もう1回引けるよ!」
23時45分。本当にこれがラストチャンスだ。2人で固唾を呑んで見守る。
デデン!!!
ヨルは出なかった。代わりに、アーニャの友達のベッキーが出た。
「無理か〜!しょーがない。出るわけないとも思ってたし」
「そうなの!?まあ、ベッキー出てよかったね」「うん。よかった」
声を掛け合った。
スマホ画面にポンポンと表示が出てきて、わたしはよく読まずに進んでいった。
それを見ていた夫が「ちょっと待って!!」と止める。
「どうしたの?」
「ちょっと貸して」
どうしたんだろうと思って見ていると、イベントガチャ限定のチケットが1枚だけ付与されている。
「ん、どういうこと?それなに?」
「これ確実にどっちか貰えるやつだよ!」
画面には、フォージャーとヨルが映っている。どうやら、魔導石である回数までガチャを引くと貰えるチケットみたいだ。てか、そのぐらいゲームしてたってことか。すご。
ヨルが出ろ。ヨルが出ろ。ヨル!ヨル!ヨル!
デデン!!!
画面を見ると、そこには、ヨルがいた。
わたしは思わず「やったー!!!」と声を出し、夜なのにデカい声だしちゃったとすぐ焦った。
夫は「え?まじ?」と戸惑っていて、人間本当のときこそこういう反応なんだろうな〜と思った。
「これって粘り勝ちだよね?スマホゲームだけどさ、最後まで粘ったら勝てるときもあるってことだよね。粘り勝ち粘り勝ち」
「そういうことだよね〜。わ〜すげぇ。びっくりした」
いやー、ヨルさんゲットできてよかった!!!
これで悔いなく寝られるぞ。
うわーでもさ〜本当にこういうこともあるのか〜。
少しふわふわした気持ちがした。
今回はスマホゲームだったけれど、何事も最後まで諦めないのは大事かもしれない。
最後まで粘って粘って、できれば勝ちたいな〜と、何かは分からない何かに対して思った。
そんな夜だった。