「お前が一番かわいいよ」で戦いたい―拝啓 大森靖子様

ゴールデンウィーク終盤、5月5日、埼玉の音楽フェス・ビバラロックに行ってきた。
その日の目当てはユニゾンやクリープハイプだったんだけど、それをぶち抜いてめちゃめちゃいいライブを観てしまった。

大森靖子。

名前は前から知っていた。曲は、友達がカラオケで歌ったのを聴いたことがあったかな、というくらいでほとんど知らない。
でもなんとなく前から気になっていたので、行ってみることにした。
トイレ行って、開始から少し遅れてステージに向かったら、派手な衣装着た女が癖のある金切り声で歌っていた。曲を知らないから当然なんだけど、メロディも掴めないし歌詞も全然聞き取れない。

もっとシティポップみたいなおしゃれな感じかと思っていたのに、なんか思ってたのと違うな……。
まあフェスだし、こういうのもあったよってことで見とくか。
なんとなくキャッチーなメロディの曲もあって、あ、ちょっと楽しいかも、と思い始めたころ、その曲は始まった。

「絶対女の子 絶対女の子がいいな」

変な振り付けと共に繰り返されるそのフレーズを聴いているうちに、どんどん涙があふれて止まらなくなってしまった。

――絶対女の子。
――絶対女の子がいいな。

「女の子」を力強く、でもポップに肯定するその歌に、さっきまで理解できないところにいた「大森靖子」という存在が急に近づいてきてカチっとはまって、彼女が何者なのか、今何を歌って、何を伝えようとしているのか、全部わかった気がした。
そうして、ああ、私はずっとこの言葉がほしかったんだ、と理解した。

*

私は自分のことも、自分の人生も結構好きだ。
でも、色んなことをトータルで考えたとき、女って貧乏くじだなって思ってた。

月に一回生理が来てめんどくさいし体調悪くなるし。
結婚したらなぜか当然のように女のほうが名字変えさせられるし。
頭がよかったり仕事ができたりものすごく優しかったりしても、「顔がかわいくないよな」なんて全然関係ないことで馬鹿にされたりするし。
ガタイのいい男には何も言わないくせに女には威圧的な態度とるやつがいるし。
医大の受験で下駄はかされた男が受かって点数高い女が落とされたりするし。
どう考えてもレイプなのに「同意があったと認められる」とか頭のおかしい判決下るし。
うちの母親だって「仕事ができすぎると男にもてないんじゃない」なんてバカなこと言うし。

こんなにおかしいのに、そこに大して違和感も持たず、自分たちが下駄履かされてることに気づいてない男を見てると、こいつらまじで節穴なんだなって思う。
「女の子って大変だよね」とかわかったふうなこと言う男には「生まれてこの方男のお前に女の気持ちがわかるわけねえだろ安っぽい媚売んな」と思う。
「そういうもんだよね」とか笑って迎合してる女を見ると「お前みたいのがいるからいつまでも何も変わんねえんだよ」と思う。
こういう話になると自分は関係ないみたいな顔する奴がいると「今人間の話をしてんだよ、関係ねえ顔すんな」って思う。

思うよ。
ものすごく思うよ。

でも、これを馬鹿正直に口に出したら、今度は「女のヒステリーが」とか「めんどくさい女」とか言ってバカにして笑って終わらすじゃん。
だから私はヘラヘラするしかなくて、自分もバカ女の一人になっている瞬間があって、こんな世の中地獄だなって思ってるし、こんな思いをさせる男という生き物を、根本的にはめちゃくちゃ憎んでるのかもしれない。
その状況を諦めて受け入れてしまってる女も大嫌いかもしれない。
そう考え始めると、もうこの世のすべてが敵で、バカ女の一人でもある自分も嫌で、もうどこにもいられないような気持になるんだよ。

どうにかしなきゃいけないことがあまりに多くて。
でも、そういう問題と向き合うってことは、世の中とか社会とか、今まで当たり前として受け入れられてきた慣習とか、そこに甘んじてきた人たちと戦わなきゃならない。
そういう戦場に突っ込んでいって戦っている人を見ると、えらいしすごいし、彼女たちのような人が絶対必要だって思うんだけど、
でも社会の理解はあまりに追いついてなさすぎて、その人たちがバカなやつらに叩かれたり炎上してんのを見てしまうと、私にはできないって思う。

私は嫌な目にあいたくない。わけわかんない奴に傷つけられたくない。
だから戦えない。

傷つきたくないってのは当然の感情で、それが悪いことだとは思わない。
思わないけど、でもそれは自分の権利のための戦いを他人に任せてしまってるってことで、私の分の傷を戦ってる人に押しつけてるんじゃないかって、自分のずるさを感じずにはいられなくて、
やっぱり女ってただ生きてるだけで地獄だなって思ってしまう。

好きなものもたくさんあって、好きなように生きてるはずなのに、それでも生きてるだけでむなしくなったりする。
こんな世の中で長生きすんの嫌だから早めに死にてえなって思ったりする。
自分の人生なのに、どこにどうやって立ってたらいいのかわかんないまま生きていて、それがどうしようもなく苦しい。

そうやって楽しいと全部苦しいを行ったり来たりしながらずっと生きていて。
それで大森靖子のこの曲を聴いた。
タイトルもわかんない。サビしか歌詞も聴き取れなくて、これがそういう意図の曲なのか、本当のところも知らないけど。

――絶対女の子。
――絶対女の子がいいな。

私が欲しかったのはこれだったんだって思った。
理由とか根拠とかいらない。
「女っていいじゃん」っていう、ただポジティブな肯定が欲しかった。

ライブ途中のMCでコールアンドレスポンスした。
大森靖子に合わせてみんなで叫んだ。

「私が一番かわいいよ!」「私が一番かわいいよ!」
「お前が一番かわいいよ!」「お前が一番かわいいよ!」

大声で言いたかったけど、泣きすぎてもう声が出なかった。
泣きながら「私が一番かわいいよ」って言いながら、これでいいんだ、って思った。

ライブが終わったあとツイートしたら、全然知らない人がリプライで曲のタイトルを教えてくれた。

『靖子ちゃんの曲を1人でも多く聞いてもらえたら嬉しいな~と思ってつい』

ああ、こんな風に、この曲を聴いてほしいって思ってる人がいっぱいいるんだなって思った。

*

私、やっぱり嫌な思いはしたくない。傷つくのも嫌だ。
代わりに「女の子がいいよ」って言う係やります。
いつも好きな服着て、楽しいこといっぱい見つけて、大声で笑って、「私が一番かわいい」って臆面もなく言う人になります。
そんで、私の目の前にいる人にも、そいつが男だろうが女だろうが「お前が一番かわいいよ」って言ってあげる。
「かっこいい」のほうがいい人には「かっこいいよ」って言ってやる。

そうやって、傷つきもせず傷つけもせず戦う。
そんで最後には、男も女も関係ない、人間全員勝ちのハッピーエンドを目指す。
そういう戦い方でもいいですか。

大森靖子さま。

敬具

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