記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

『カガミハラ/ジャスティス』 総括感想

☆シナリオ(41/50)

☆キャラ(33/40)

☆その他(2/10)

☆総括(76/100)

 プレイ時間は約35時間。「正義」と「悪」についての二項対立から始まり、果ては○○についてまで、非常にメッセージ性が強い作品。登場キャラクターの行動理由が明確になるまでかなり時間が掛かるが、最後まで読むと、各々が各々の事情で動いていたことが明確に分かるため、読んでいて腑に落ちます。一方、このメッセージを発信するのにここまで物語を長大にする必要性があったのかということに疑問が生まれてしまいました。作者の先生が言いたいことは非常に伝わりやすいです。しかし『イハナシの魔女』のように王道&コンパクトを求めていると期待外れかもしれません。




〈注意 この先ネタバレを含みます〉




☆作品紹介

 2011年からコミックマーケットにて販売(申し訳ありませんが、深く調べきれていません)され、2016年に完結した本シリーズ。完結まで5年という月日が経っているだけあり、超大作です。制作スタッフはフラガリアの強力なスタッフ陣。同人作品の中で、しかも現在(2024年4月)に無料で遊べるのは本当に大きいです。
 私は同じ制作スタッフが制作した『イハナシの魔女』を非常に高く評価しております。そこで、前作である本作『カガミハラ/ジャスティス』もプレイしたい。そう思いました。『イハナシの魔女』は王道のボーイ・ミーツ・ガールを描き切った名作です。私の好みに直結する作品でした。だからこそ、本作『カガミハラ/ジャスティス』も私の好みに合うのではないかと思い、調べている内に「一本道ノベル」というジャンルに興味を引かれました。絵柄も可愛らしいです。一方で前評判はかなり長大な作品とのこと。正直、合わなかったら怖いな、という印象も持っていました。さて、結論から言うと、私は本作のプレイ時間約35時間を約5日で遊び切りました。それだけの熱意を感じた作品です。さて、私が本作から何を感じ取ったのか。存分に語るとしましょう。


☆シナリオ(41/50)

 正義と悪の二項対立。そこで何を得ることが出来るか。「戦争」という大きな事象に抗えるのか。そこに納得感を見出せるかどうかです。

〇大きなテーマに沿って展開するストーリー

 「善悪は結局のところ、見た者によって姿を変える」、「戦争を対話によって止める」。本作の大きなテーマは上記二点です。各キャラクターがそれぞれその主張を随所で挙げています。本作に登場する人物達はあらゆることに対して全力です。ゆえに「本質的な絶対悪はこの世に存在せず、各々の善に向かって行動している」という強いメッセージを感じるのです。本作作中では、遥が、村上が、木ノ下が、他キャラクター達がこの指針によって行動しているのは間違いないのです。
 本作では上記のような大変分かりやすいテーマを、戦隊ヒーロー、正義の味方、ミラーレンジャーと悪の組織、セイトカイザーのやり取りによって、ファンタジー要素を交えて描いています。最初(『-子供と○○と○○の話-』)は。しかし『-子供と○○と○○の話-』(第一部)中盤付近からこの構図が裏返されます。特に木ノ下生徒会長と旭富貴委員長の存在が大きい。この二人を中心に、善悪の関係がひっくり返るのです。そこにファンタジー要素が介在している。その構図が基本です。


 正直、本作はファンタジー要素の扱いについては下手であると考えています。なぜなら、プレイヤーへの情報開示が後から出てくる影響で、ファンタジー要素が出てきた時点ではユーザーの理解が及ばない点があるからです。しかし最初に記した大テーマを描写し切るためにはこのファンタジー要素は必要だったのでしょうね。結局のところ、『-子供と大人と戦争の話-』までプレイして、本作で最も言いたいことは「戦争は対話によって止めることが出来うる」ということです。それは第三部の遥が自ら、全力で証明してくれました。しかし、本作では同時にその対話の機会を作ることがどれだけ難しいか、という副題も主張しています。この副題を扱う上で、ファンタジー要素は必要だった。署名活動という作中の活動を「力」に変えるファンタジーが表現上、必要だった。そのようにシナリオの森先生は判断したのでしょう。ゆえに分かりにくいファンタジー要素も許容出来る作りになっているということです。

〇予想できない展開
 
 本作は三部構成です。最初は本当に意味が分かりませんでした。しかし『-子供と大人と◯◯の話』(二部)に入ったあたりから本格的に、各キャラクターの視点というのが出てきます。これにより一層物語が理解しやすくなります。何よりも重要なのは本作の「予想できない展開」です。意外な人物が主張の一端を見せてくることによって、物語は予想不可能な方向に飛びます。代表的なところですと、まさに木ノ下生徒会長、そして遥、村上の正体です。木ノ下生徒会長は悪の親玉かと思いきや、大変気立てが良く、頭も良い。それでいてサッパリしている、少女愛好家です。一言で言うと好人物です。一方の遥。彼女には強い信念があります。物語の最序盤は典型的な美少女として振舞っています。しかし実際は腹黒系の性格の悪い人物です。目的があるとはいえ、正直、公式サイトにあるように好感が持てる人物ではありません。また最初の主人公と思われていた村上。彼の正体は警察機構のエージェントだったことが『-子供と大人と戦争の話-』(第三部)で判明します。これらはごく一部です。善悪の対立構造を中心に、予想できない展開(=良くも悪くも奇をてらった展開)が続きます。正直、最初の頃は相当退屈でしたが、遥の正体がバレたり、木ノ下が出てきたあたりから私は夢中になりましたね。

 総合的に見て、「戦争を止める」という大き過ぎる大テーマを良くも悪くも超展開によって上手く表現していると私は認識しています。本作の凄い点は王道とは真逆をいくストーリー展開である種、後述するように冗長に感じながらも、展開の奇異な部分でそこ(冗長さ)を上手く隠している点だと考えます。


〇見えにくいテーマ、しかし説得力がある

 とはいえ、本作にも致命的な弱点があります。それは後半になるまでテーマが分かりにくいという点です。と言うのも、本作は『-子供と○○と○○の話-』、『-子供と大人と◯◯の話-』、『-子供と大人と戦争の話-』の三部構成になっております。したがって、物語後半になるにつれて、真実や構成が明らかになるという形式を取っているのです。しかし本作は「戦争」が本格的にテーマとして表に現れるのが、大体3部に入ってからであり(厳密には2部ではあるのですが)、せっかくの持ち味である、戦争を食い止めるためには対話が必要だという話に辿り着くまで、約25時間掛かるのです。これは正直、由々しき問題だと思います。特に1部序盤のミラーレンジャーとセイトカイザーのやり取りをどう考えるかによって本作の評価は大きく変わってくるでしょうね。実は、私は上記の善悪の二項対立問題については木ノ下が本格的に出てくるまで本当に意味不明で、はっきり言って退屈に感じました。また結局、1部ではほとんど問題の本質に触れておらず、「大人と戦争」の肝心な部分については良く言えば温存された。悪く言えば、作者である森先生が扱いに困ったように私は感じました。そもそも本作は元々1部、2部、3部それぞれ独自に発表され、販売された作品です。当初のテーマから大きく変更を加え垂れた可能性すらあります。以上から分かるようにテーマ自体は一貫しているのですが、そのテーマの扱方には非常に疑問を覚えました。何というか、1部の時点ではどの立ち位置に立って読めば良いのかの正解が提示されず、読んでいて疲れてしまうのです。
 勿論、分割で販売された点は強みもあります。作者自身が読者の反応を研究することで完成度を底上げすることが出来るのです。実際、本作は後半になるにつれて面白さが明らかに増しているように感じます。2部で視点を多角的に扱い、それぞれの「正義」「悪」、そして立場の在り方を説明する。そして、そこから綺麗な流れで短い3部に着地して、物語を完結させる。その流れの中ではタイトル通り、「大人と戦争の話」が深く関わってきます(特に3部の聖、日向をはじめとした大人の活躍は必見です)。そこには確かな説得力が存在します。だからこそ、私は本作の「戦争」に対する向き合い方を高く評価したい。そう考えたのです。
 以上が本作の大きな良かった点。気になった点でした。物語自体が長く、分割もされているのでテーマの説得力は保証されている点が面白いポイントかなと感じます。

〇こんなにも長大なプレイ時間が必要だったのか

 もう一点気になる点です。これを言ってしまうと元も子もないのですが、テーマ、伝えたいことの密度に対して、プレイ時間がいくら何でも長く掛かり過ぎているのではないかとも感じています。特に前述した1部のくだりはかなり冗長さを感じてしまいました。これは何が原因かと言うと、偏にプレイヤーが「登場人物の誰に感情移入したら良いのかが大変分かりにくい」からです。本作は一応、最初に村上視点で物語が始まりますが、すぐに遥、そして他キャラクターに目まぐるしく視点変更が行われます。これは私が読み手として未熟だから起こる事象なのかもしれません。しかし、正直、読んでいて誰が主役なのか、さらに言うと、誰を信用できるのかが分かりませんでした。そういう意味では遥は、性格が悪い分、素はこちらで、強い信念を持つキャラクターであることがかなり初期に分かるので、数少ない信用できるキャラクターとなりました。…愛着が持てるかと言うと微妙ではあるのですが。
 要点としては、感情移入ができるタイミングがかなり後半(2部に入ってからでした)であるため、物語に冗長さを感じる。「戦争を対話によって止める」という大テーマに、早期にメスを入れることが出来なかったのか、ということです。ここも改善の余地は大いにあると私は考えています。例えば、戦争に関する話の根幹(デモ運動程度ではなく、世界規模の戦争)をさらに早期に、欲を言えば1部(『-子供と○○と○○の話-』)のうちに触れて欲しかったと主張したいです。もっとも、これも私の感想に過ぎません。結局、感情移入問題は個々人によって感じ方は異なると思います。しかし、このような過程を経て、冗長に感じたプレイヤーもいるよ、とは言っておきます。

 総じて、シナリオは大テーマが大変しっかりしていたため、私は本作のシナリオを高く評価したいです。一方、同人作品らしく、あるいは元分割作品らしく、完成度にばらつきもあり、瞬間最大風速は凄いが、平均値は微妙と感じたのも事実です。したがって、シナリオは、40点は超えるけど、最上位ではない、という点数にしました。


☆キャラ(33/40)

 キャラクターですが、とても良かったです。各々が各々の信念を持って行動している様がかなりはっきり理解できました。特に乃亜等の飛び級組の描写には光るものを感じました。本作は大人組と子供組(しかも子供と一口にまとめるだけではなく、飛び級組の存在で年齢のばらつきがある)の差異を明確に線引きすることによって、両者の比較をはっきりさせています。上手い描写の仕方だなと感心しました。
 個人的には木ノ下と常葉、旭の恋愛模様が良かったので、好きなキャラクターとしては木ノ下を推したいですね。恐らく、本作を読んだプレイヤーは彼のカリスマにかなり惹かれるのではないでしょうか。年少女子が好き過ぎる。しかしキめるところはキめる。知将キャラです。感情移入も徐々にですが、できてきました。また常葉も好きです。常葉自身のおっとり系、しかし時折見せる冷たい視線が大好物です。しかし私にはやはり木ノ下と常葉、そして旭の恋愛関係を描写している2部以降が大変魅力的に映りました。


 遥も地味に好きです。性格がねじ曲がっていながら、確かに見せる行動力。3部の対話の描写には心惹かれるものがありました。
 一方、キャラクターの描写の仕方については若干以上に疑問があります。ズバリ、誰を主人公に置くべきか問題が解決できていないという事です。シナリオの項目でもお伝えしましたが、本作はプレイヤーの感情移入先がかなり迷子になります。正直、1部の時点では意味が分かりません。これは作者が意図してこのような構造にしたのだとは思います。しかしキャラクターの魅力が1部の時点では伝わり切らない。そこが残念です。また、3部まで読んでいて思ったのですが、本作のキャラクターは前述した大テーマに動かされている感がありました。キャラクターは生きています。行動理由もしっかりしています。しかし作者に動かされている感があると言いますか。主に警察機構キャラクターが良い例と言えるでしょう。目的に沿って行動し過ぎていると感じるのです。フィクションとしては自然なことなのかもしれませんが、キャラクター自身の「葛藤」を感じない。傑作、名作作品はそこを怠っていないように感じるのです。よって、キャラクター全体の造形は良いけれど、描写に違和感が残るという意味でキャラクターは33点です。

☆その他(2/10)

 本作の致命的な部分です。システムについてですが、まずセーブスロットが少な過ぎます。セーブスロットは3部各々、20ずつ。正直、真面目にプレイしていて不足しました。また全体的なシステムが同人作品ということもあり、かなり古いです。贅沢は言いませんが、バックログからのシーンジャンプ機能は欲しかった(特にこういった考察、感想系作品には)です。もっとも、ここは本来、同人作品としては目を瞑るべきなのかもしれません。しかし私は同人、商業、均等に「ビジュアルノベル作品」として感想を述べたい。その時に遊びにくさはどうしても目についてしまう。そう考えた時、その他は弱いなと思いました。
 また音楽、声の面も弱いです。音楽はフリーで、適切な場面で適切に使われていたとは思います。しかし、名作級に上げるには強力な音楽が不足していると言わざるを得ません。同様にキャラクターに声、つまり声優さんがついていないのも他作品と比較して、大変弱い点です。速読できるので良いと言えば良いのかもしれませんが、作品との相性を考えても致命的に感じました。ここが一番大きいかもしれません。声は重要です。
 その分、と言っては失礼かもしれませんが、世界観については概ね良かったと思います。学校を舞台にして、最終的には戦争をテーマに動く。ある意味、少々昔のアニメ映画群を思い出し、懐かしい気分になります。
 総合的に見て、その他は声優さんがいない点、印象的な音楽がない点、しかし世界観はかなりの完成度、という点で2点です。世界観分だけですね。


☆総括(76/100)

 総合的には良作(B)認定です。本作は元々、分割作品でした。しかし私はそれらを一気に、しかも5~6日という短期間のうちに、さらにメモを取りながら読んでいます。ゆえに相当没頭出来た作品でした。それだけで本作には感謝したいです。何より、本作は同人作品です。こんなにも素晴らしい同人作品が世にあるのだなということを教えてくれただけで、フラガリアさんには感謝が必要でしょう。子供、大人、戦争、学校、善と悪という世界観、テーマも同人作品ながらしっくりきており、私の好むところでした。
 正直、シナリオ、システム面ではそれぞれ程度の差はあれど問題があります。ビジュアルノベルを始めたばかりの方に本作をお勧めするのはかなり難しいかもしれません。しかしスタッフ陣の大きな熱意は感じる作品です。このような作品が今(2024年4月時点)では無料で読めるというのだから、これほど素晴らしいことはないと思います。機会があれば、おまけシナリオも読んでみたい。そのように感じる作品でした。
 このような良作を生み出して下さった、フラガリアさんには感謝を。心からありがとうございました。また、ここまで読んで下さった読者の皆様にも心から感謝します。ありがとうございました。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?