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『アキゾラのメモリーズ ─運命の地平線─』 総括感想


☆シナリオ(24/50)

☆キャラ(29/40)

☆その他(4/10)

☆総括(57/100)

 プレイ時間は約4時間。GALEX SOFT様の最新作。その前編。良くも悪くも同人作品としてやりたいことが出来ており、そういった意味では同人作品の入門編には適していると言えます。私は同人作品であることも考慮し、無理だという点は省いて採点しました。一方、肝心のシナリオははっきり言って有名商業作品の焼き直し感がある他、尺の中で描写したいことが完全に描写しきれていないと感じる部分が多々あります。ある意味性急過ぎる作品ですね。キャラクターは相応に良い代物なので、そこに救われています。


〈注意 この先ネタバレを含みます〉




☆作品紹介

 以前から興味を持っていたGALEX SOFT様の完全新作の前編であることを理解してSteam版を購入。本作は、Steam版は全年齢版です。しかし公式が無料配布しているパッチを当てることでR18シーンも拡充できる仕様のようですね。しかし私は敢えてパッチを当てずにプレイを楽しみました。理由は、本作はむしろ18禁要素がない方が、登場人物の儚さ、思春期特有の葛藤を楽しめるだろうと判断したためです。本作においてその判断が正しいかどうかは分かりません。しかし、全力で楽しむためには「楽しみ方」というものが存在すると私は思います。したがって、本レビューは全年齢版のプレイのみの感想であることをご理解下さい。
 私自身、同人作品にはお恥ずかしながらあまり触れていません。勉強不足の点もあるかと思いますが、全力で感想を記していきたいと思います。

☆シナリオ(24/50)

 全体的な尺不足感は否めない。ただし、取り扱っているテーマは極めて興味深い。

〇全体の構成と所感

 本作は宇宙科学部として活動しつつ、文化祭を心待ちにしている学生達がある日、津奈木羽椛という少女に出会い、物語が進行していく。そして、紆余曲折あり、何とか文化祭は成功に終わるも、その直後、羽椛は死亡してしまう。その運命を避けるため、主人公である新太と千早が世界線移動を行い、羽椛が死亡してしまう未来を変えるというのが大筋の流れです。時間にしてプレイ時間約4時間です。
 第一印象としては相当短いなと感じました。というのも、この手の、命を失った仲間を救うタイプの物語は、救う側と救われる側の絆を綿密に描写し、命を救うために諸問題や様々な苦難、危険を覚悟の上で命を救うのだという説得力が必要だと感じます。特に本作のように、主人公側が学生という何の覚悟も持たない一般的な人間であれば、普通に考えて世界線を移動するという極めて覚悟と勇気が必要な行為を可能にするだけの強い意思を持つ「過程」が重要なのですね。その意味で本作は説得力がかなり乏しいと言ってよいでしょう。考えてもみて下さい。約4時間のプレイ時間で、いくら新太達の過去を描写しているとはいえ、主人公(新太と千早)側が羽椛の命を救う覚悟が出来ているかと問われれば、相当怪しいと私は思います。無論、新太にも理由はあります。青春失陥症の再発に伴う精神的な弱さを支えてくれた支柱として、羽椛の存在は大きかったのです。しかし、描写不足甚だしい本作ではその精神的支柱である描写すら相当あやふやであると言わざるを得ません。制作陣にも予算や尺の問題(後述します)が存在することには理解を示します。ですが、であれば、相応の規模感の下に物語の風呂敷を畳みきれる範囲で描写していただきたい。なぜなら物語とは常に説得力との戦いなのだから。そう、強く思います。その意味で、非常に残念ながら本作は違和感の塊でした。
 また、本作で当たり前のように使われている「世界線」という単語も、問題であると考えています。説明なしに使われてよい単語ではないはずなのですよ。本来、複雑なSF用語ですしね。しかし本作は意識的にか、無意識的にかは分かりませんが、『STEINS;GATE』や『CROSS†CHANNEL』といった有名商業作品の良い所取りをしようと、もがいているような印象を強く受けます。その過程で、プレイヤーも「世界線」という単語の意味を知っていて当然だろうという潜在意識の下、詳細なSF的説明をほぼ怠ったと言ってよいです。ここはプレイヤーを信用し過ぎており、かなり驚いたと同時に説明不足感が甚だしかったです。
 結論として、所感としては短い上、その枠の中で収められる物語の構造をしていないと考えました。これはなかなか厳しい問題であると考え、シナリオの点数に相当響きました。

〇閉鎖的な世界観は良し

 続いては世界観、雰囲気ですが、これはかなり良かったです。シナリオの構築としてはある意味、王道です。最初に何気ない日常を描写し、舞台説明を行う。その後、羽椛というキーキャラクターを登場させ、中盤~終盤にいくに従い、「青春失陥症」という独自のキーワードの再発、症状悪化で事態の深刻さについて言及。とどめに世界線移動によって、羽椛を救いに行くという流れです。
 私は本作の閉鎖的な、全寮制学校独自の雰囲気、管理社会感はかなり良くできていたと感じます。病弱な学生が通う学校という設定なので、当然と言えば当然なのですが、食事まで三食完全にコントロールされており、監視社会とも言えるかもしれないほどの厳しさ。その閉鎖空間感を日常シーンでさりげなく描写し、主人公の新太視点で不便さや窮屈さを感じさせる腕はライターさんの技量からくるものです。素直に賞賛ものですし、後編の世界観構築、また設定等細かい部分に至るまで楽しみな箇所ですね。

〇尺不足が甚だしい

 次に前述した尺不足の点ですね。あまりにも明らかな不満点だったので、個別で記載します。というのも、本作はその世界観が閉鎖的で独特であり、キャラクター設定もよく練られている方だと考えます。しかし、本作をプレイした方はほとんど全員が「(前編であることを考慮しても)書きたいことを半分も書けていないのではないか」と思ったことでしょう。恐らく予算など、作品外の要素によりこれら尺の問題は発生したのでしょうね。話が全体的にお利巧に、ライターさんにとって都合良く進み過ぎているのですよ。そこは気になる点でした。
 特に顕著だったのは後半部分。選択肢が出た後です。具体的には羽椛と新太が付き合うようになってから、羽椛が死亡するまでです。ここはいくら何でも描写不足甚だしいと言えるでしょう。加えて、追い打ちをかけるようにその後、佳純の説明、つまり羽椛を救いうる余地についてがなされます。これも些か以上に急過ぎると感じましたね。そもそも前述した通り、世界観設定の構築段階から「世界線」という単語が非常に不自然でした。青春SFビジュアルノベルとして、それらに関する知識がユーザーの中にあることを前提にしていることには一定の理解を示します。しかし、本作はそのユーザーをあまりに信頼しており、またせっかく巧みに形成した世界観設定を歪めてまでライターさんが書きたいことに誘導しようという意思を強く感じました。ゆえに本作は尺不足感が多分にあるのではないかと推測します。

〇後編に期待できるものはある

 繰り返しになりますが、本作は悪い部分ばかりではありません。光る部分もきちんと持っています。例えば、世界観の設定と雰囲気、そして後述するキャラクターの魅力です。シナリオの項目では閉鎖的な世界観設定について触れました。加えて、本作は雰囲気も良い。SFを名乗るだけあって、終盤では怒涛の展開が待っています。正直、あまりの展開の動きに驚愕した部分も多々あるのですが、そこは流石にご愛嬌でしょう。ライターさんの努力、書きたい要素を描写したいという願いは強く伝わりました。後編を待っています。
 また本作はその設定に期待できるところも大きいです。これに関しては後編に何を用意してくれているのか、ライターさんをはじめ、他スタッフの方がどういう演出を用意してくれているのかに尽きます。そういう意味では本作は全くの未完成で問題はないのです。後編という期待作の制作が現時点で確定しているのですから。期待しながら待たせていただきます。
 一方、逆に言えば、本当に残念ながら本作は所謂「有料体験版」の域を出ていないとも認識しています。理由は物語の核心部分についてが、本当に終盤の一部分にしか描写されておらず、面白くなるのが極めてスロースタートであるからです。そこを軽視してはいけないと私は考えています。よって、はっきり言って、次回作にも若干どころではない不安はあります。きちんと伏線を回収してくれるのか、演出は進化しているのか等です。同時に私は本作の世界観の維持の仕方、描写方法を一定以上評価します。GALEX SOFT様ならできることなのではないか、とも感じております。楽しみに次回作を待たせていただきます。

 総合的に見て、シナリオはかなり惜しいと感じるところではありますが、前編であることを考慮しても尺の関係が仇になり未完成と言えます。厳しいかもしれませんが半分に満たない24点を点けております。

☆キャラ(29/40)

 キャラクターは全体的に良かったのではないでしょうか。役割のないネームドキャラクターが存在せず(それ自体が良いわけではないです)、キャラクター全員を活かそうという意思を強く感じました。
 ただですね、先に印象が悪かった点をお伝えしておくと、ネームドキャラクター数がいくら何でも少な過ぎます。これは本当に由々しき問題点でした。立ち絵あり5キャラ+主人公で回しきれているのかと言うと、残念ながらかなり怪しいところです。特に羽椛については登場が本作基準で、かなり遅かったです。しかし、(冷やしおしるこ等の日常イベントを含めて)数イベントこなしただけで、宇宙科学部に一定以上馴染んでいます。これは違和感以外の何物でもないでしょう。これは尺の問題にも繋がるのですが、全体的に話とキャラクターの接続が上手くいっていません。せっかく、この手のSF作品にしてはキャラクターの行動動機がかなりはっきりしているのです。こういった要素で物語(シナリオ)とキャラクターの関係が結び付けられていないと感じるのは大変勿体ない事です。
 また、キャラクター個々で見ても残念ながら没個性を感じます。所謂記号的過ぎるという問題です。特に明里と佳純には激しく記号的要素を感じました。明里に関しては委員長、部長という要素に特化し過ぎて、それ以外の個性がまるで見えてきません。また佳純にしても明里よりはマシですが、優秀な先生にして、多くの知識を持ち、新太達を年齢的に成熟した視点から見守るという役割に終始するあまり佳純自身の個性が埋没してしまっているように強く感じます。明里、佳純については各々の個性を好みであったり、趣味趣向であったり、信頼している人間関係等で示してくれていればここまで記号的にならず、キャラクター30点台を目指せたかもしれません。そういった意味ではキャラクター部門においても惜しいと言えるでしょう。
 ただ、個性的なキャラクターも当然存在します。千早と修一です。この2キャラは私の好みでした。まず千早ですが、方言ヒロインでツンデレが可愛いと感じました。新太への好意も明らかで、こういったプレイ時間が短い作品にマッチしたキャラクター構築が出来ているタイプです。これは方言という強烈な個性と、主人公、新太のことが好きだという人間関係的側面によってキャラクターを補完出来ているのですね。プレイ時間が短い本作のような作品では何よりも重要な要素と言えます。何より守ってあげたくなる可愛らしさです。千早については過去が分かっていることもありますが、まだ掘り下げの余地がありそうです。後編に期待します。また新太の腐れ縁の友人、修一も良いキャラをしています。典型的な親友キャラかと思いきや、かつて医師を目指しており、それを挫折している。両親による英才教育を受けた中で自身の中で思春期独特の葛藤があった。そのキャラ付けは主人公の親友キャラにしては背景が練られている。しかもかなり情景が鮮明にイメージ出来たので、大変理解出来ました。やはり男性キャラクターが魅力的な作品は読んでいて安心感があります。本作も例外ではありません。
 以上です。総合的に見て、キャラクター面にも上記不満点もありながら、概ね魅力的なキャラが存在したため、ギリギリ30点の大台に乗らないレベルであると判断しました。ちなみに羽椛に関しては後編で恐らく詳細な掘り下げがあると思いますので、今回はあまり触れていません。前編段階ではまだ明かされている情報も少ないですからね。今後に期待します。

☆その他(4/10)

 本作の弱点でもあるその他項目です。まず音楽ですが、OP曲『超弦理論のシックザイル』は印象に残るタイプの曲ではないのですが、まずまずの曲調で、歌詞も本作に合っているように思います。基本に忠実ですね。BGMも変な箇所は見当たりません。欲を言えば、BGMでもう少し盛り上げて欲しい場面が主に終盤にかけて多く存在していますが、同人作品としてはなかなかの水準ではないでしょうか。音楽については以上です。はっきり言って、印象に残る類のものではないのですが、まあまあの出来であると言えます。一方、個性がないとも言えます。ここは音楽面での明確なマイナス要素です。
 世界観構築はかなり上手いと感じます。シナリオの項目で散々お伝えしましたが、本作の閉鎖的な、思春期独自の視点で繰り広げられる世界観は、過去の商業、同人問わず名作と言われる作品から断片的に設定を参考にしていると思われる箇所が随所に見られます。ゆえに独自性は正直ありません。一方、世界観を上手い具合に作品構築し、活かしきる力はあると感じました。良い点であると素直に賞賛出来るでしょう。
 最後に一番の問題なのですが、システム面です。挙動がいくら何でも古臭いなと強く感じてしましました。私はビジュアルノベルのエンジン面に詳しくはないですが、ゲーム終了の際等に確認メッセージが出て、しかも重い。これはストレスと言わざるを得ないでしょう。しかも例によって、Qセーブ、Qロード機能もありません。セーブスロットは60と普通にプレイする分には全く問題ありません。だからこそ、システムの細かい点にはかなり気が向いてしまうのです。私は一応、10年以上前から同人作品をプレイしていますが、現代においてここまでシステム面で不便を感じたのは久しぶりです。決して軽視できない点かと思います。
 総じて、システムのマイナス、音楽の毒にも薬にもならなさ、世界観の構築のプラス、総合的に判断して、同人作品であることを考慮しても5点には届かないだろうと思います。欲を言えば、音楽面、システム面はさらに頑張って欲しかったです。

☆総括(57/100)

 総合的には凡作(D)認定です。本作はGALEX SOFT様の作品の「前編」です。ゆえに後編の制作が行われているのでしょう。非常に楽しみであるとともに、本作の出来を考えると正直、不安です。と言うのも、残念ながら本作は、同人作品の域を出た点、特出した点が見られず、良くも悪くも既存作品の焼き直し感があるのです。ですが、本作の世界観と雰囲気は思春期独特の価値観形成に強く紐づくものであり、私は高く評価したいです。よって、私は本作を可能性に満ちているという意味で、後編への期待も込めて、現時点では「凡作」と評価しておきます。
 これが後編で「佳作」以上になるか、「駄作」に格下げされるかは分かりません。しかし、本作のキャラクター、シナリオ、音楽に対する制作陣の方々の熱意は強く感じることが出来ました。そういった意味では今後に期待の、強い潜在能力を持った作品であると希望を持っている自分がいます。GALEX SOFT様、本作という素晴らしい作品を制作していただき、心からありがとうございます。また、ここまで長々とした感想に付き合って下さった全ての読者の方々にもお礼申し上げます。ありがとうございました。

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