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電車でパニック

朝のラッシュ時、ホームに溢れる人にまみれながら
都心へ向かう電車に乗り込み人をかき分け居場所を確保。
座席の前を陣取り、荷棚にリュックを置ければ万々歳。
体も軽くあとは読書したり自分の世界に没頭できる。
ほっと一息ついたところで咳が出た。

ここ数日、喉の調子が悪い。
風邪ではなく季節の変わり目、寒暖差の大きい時期は朝夕の空気で刺激され気管支炎が起こりやすい。
マスクは必須、ポケットにのど飴も常備、準備は万全。
喉の違和感を鎮めようと意識していると、
運良く目の前の座席が空いた。
リュックを抱えて座り込み、読書に耽る、
集中したいけれど喉がくすぐったい。
痒みのような違和感が強くなっている。
軽く咳払いをし、マスクの上からハンカチで口元を押さえる。
周囲に目を向けると気にしてる人はいなさそう。
そっとポケットから取り出してのど飴を口に入れる。
こんなとき龍角散のど飴はいつも助けてくれる。
爽やかなハーブの刺激が喉の違和感を鎮めてスッキリ気分も落ち着く。
はずだったのがこの日はその刺激で咽せ返した。
咳が続き息を吸う、止んだのを確認してふぅと息を吐く、喉をかすめる呼気が刺激となり更に咳が出る。動揺で鼓動が早まる、何か飲みたい、何も持っていない、万全じゃなかった、どうしよう治らないムズムズする、また咳が出そう、血の気が引く。
恐る恐る息を吸って吐いてみる。吐きつつコホコホと弱い咳が続く、右隣の人が右側に体を寄せたのがわかった、距離を取られてる。
「嫌がられてる」
緊張が走る、そりゃそうだ、こんなぎゅうぎゅう詰めの車内で咳が止まらなければ嫌悪感を抱く、感染や衛生面も気になるしお隣だけでなく恐らく周囲の人たち皆同じ、どうしたら
思考を遮り咳が出る、治まるどころか大きくなり声も漏れる
正常な呼吸ができず息苦しい、呼気が喉を刺激し咳が酷くなり涙が滲む
車内全ての人に注目され嫌がられてるだろう、羞恥心に飲みこまれる、冷や汗が滲む
逃げ場のない閉差空間、やばいやばいやばいと真っ白になったその時に
これ知ってる、とふと浮かんだ

以前、満員電車に乗れなくなったときのこと。
その時は咳は無く息苦しさと不安と恐怖でパニックになってた。
それをゲシュタルトのワークで取り扱ったこともあるし、また誰かがパニック障害をテーマで取り上げたワークを
オブザーバーとしてその場にいた時の記憶。
そうだこれ知ってる、大丈夫。

身体の状態に意識を向ける。
まずは呼吸、小さく、浅い呼吸だった。喉が詰まっている、胸で止めている、胸に力を入れて緊張させている。
前かがみになって肩や腕にも力を入れて目を瞑っている。

薄っすらと目を開ける、抱えているリュックが目に入る、
喉に手を当てる、喉の触れられている感触に意識を向ける
少し喉の緊張が緩む、ゆっくり息を吸い、先ほどよりは大きく、けれど咳き込まない余裕のある程度で止める。
喉を刺激しないように少しずつ息を吐く。
咳が出ない感触を確認する。
みぞおちに手を当てる。触れられているみぞおち側の感触に意識を向ける。ゆっくり前後に動いている。呼吸していることを感じる。

肩と腕の力も抜いてリラックスした姿勢をとってみる
大丈夫、大丈夫、電車は止まっていない進んでいる、もうすぐ駅に着く、あと少し、あと少し。
ここで、焦りを感じたがあえて意識を向けないよう努める。
目を閉じて居心地の良い森林をイメージする。

無事、駅に停車しホームに降りる。人のいないあたりへ行ってマスクをとり思い切り空気を吸って咳き込んだ。
頬をなでる風に安堵する、ほら大丈夫だったやり過ごした、自分に言い聞かす。
この日は既に遅刻しそうな時刻だったため
会社に連絡すると休みになった。
いや今だけなんですよ、だけど会社もそんた咳払いされてたら気になるか。
負けたようで少し凹む。

翌日、咳が起こった駅を通過し今日は大丈夫と油断した矢先で咳が止まらなくなった。
まずいぞこれは、と思った時がちょうど停車中だったのですぐに降車。
咳が出た直後に降りたから注目浴びてない迷惑かけてない、大丈夫。
またお茶を持ってなかったので自販機で購入、
ベンチに座り水分補給をして体調を整える。
電車を一、二本やり過ごし、ぎゅうぎゅう詰め目ではない
少しスペースのあるあたりに乗り込む。
また咳き込む、一駅で下車し別の車両に乗る。
これで人目は気にならない。お茶を飲みつつ喉を労る。
咳き込んでは停車駅で場所を変えつつこの日は目的地に到着。安心すると咳も治まる。
出勤時間をもう少し早めれば時間も気にしないで大丈夫だ。不安要素を消していく。
成功体験を積んでいく。



対処法がわからないとパニックは更に酷くなる。
対処法は自分を知ること。
身体感覚に意識を向けて、自分に何が起こっているかに気づくこと。

呼吸は深くできているか、止めていないか。
身体のどこに力が入っているか緊張しているか。
緊張を緩めてゆっくり呼吸をしてみる。

ダメだダメだ怖いやばいと感情に飲み込まれないこと
飲み込まれないために身体感覚に意識を向けて呼吸すること。

これだけでも多少の助けにはなる。
それだけで少しホッとする。

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