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ひとさじの勇気が足りなかったから | I didn’t have a little bit courage

<COLUMN vol.4>

(Japanese and English ver. )

 ちょうど一年前、私は暑すぎる日本を飛び出して、ある国にいた。そこは、想像をはるかに超えた極寒の地。オーストラリはメルボルン。

 空港に降り立つと同時にブルっと身震いする。とりあえず飾りだけのコートを羽織って、ポケットに手を突っ込む。

「やっぱりなんにも防寒にならないな、このコート。でも、ないよりマシだよな〜。」なんて、自分の準備不足に呆れてしまうのと同時に、出発前に「コート持ってかないの?」と助言してくれた母にとてつもなく感謝した。

会った友人たちには口を揃えて「わざわざ、こんな時期にここに来るなんて馬鹿だよ。」と言われた。「目的を果たすにはこの時期がベストシーズンなんだからしょうがない。」と、心でボソッと。

 一年半ぶりにわざわざオフシーズンのこの地に足を運んだのは、前回の私には果たせなかったことがあったからだ。

あの憧れの場所。随分と長い間夢に見ていた「ウルル」を見にいくこと。

 当時の私にとっては、メルボルンに行くだけでも大きなチャレンジで、加えてまた違う場所に行くには、さらなる勇気を要した。迷いに迷った挙句、結局、行かずじまいで、オーストラリアを去った。でも、振り返るとやっぱり行きたい気持ちが勝って、決行したのが一年前の夏だった。

 ウルル、それは地球のへそと呼ばれるオーストラリア大陸の中心にある一枚岩。多くの人はエアーズロックとして知っている、あの超がつく有名な世界遺産。

初めてウルルを知ったのは、幼い頃に見た“人生で一度は見たい世界の絶景”を紹介するTV番組だった気がする。

あの巨大な岩が太陽で真っ赤に照らされた姿が整然と砂漠のど真ん中にそそり立つ。そこにあるのは巨大な岩だけ。その様子がとても印象的で、妙に惹きつけられた。そして、地球にこんなにすごいものが存在するのか。いつか絶対に行って、自分の目で見てやると思っていた。

それが、現実になった時は自分の持っている感情の器では収まりきれないほど溢れるものがあった。だって、目の前にはあの巨大な岩がある。頭の中のイメージでしかなかったものが目の前に存在しているのだから。夢が、文字通り、実現したのだ。

なんて自分はちっぽけなんだろう。なんて世界は広いんだろう、なんて地球はこんなにも美しいんだろう、なんて自然はこんなにも力強く、綺麗で、そして、偉大なのだろうと強く、強く、感じた場所で、確かに、幼い頃に見たTV番組のタイトルのように、そこは、人生で一度は見たい世界の絶景だった。

 今でもたまに思い出す。私にはひとさじの勇気が足りなかったことを。そのせいで逃してしまった1回目のチャンスを後悔してても、もったいないとは思っていない。でも、ひとさじの勇気を持つことの大切さは絶対に忘れない。それだけで、世界が広がるんだってことを知ったから。
 あの日、フライトチケットを買ってよかった。


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