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MD(ミニディスク)の思い出、鼻歌でわかる人

10年前の今頃、MDをまとめて処分したらしい。
もうその時すでに、MDは靴の保管ボックスにしまったまま、数年が経っていた。(靴の保管ボックス、MDがちょうど二列ぴったり入って便利だったんだよね)

当時、とりあえず「定番」とされている音楽を片っ端から聴いてみよう!と決めて、図書館やTSUTAYAにコツコツ通って、CDからMDへひたすら録音を繰り返す。CDのブックレット(ジャケットと歌詞カード)は、全ページコピーしてファイリング、というルーティーンができていた。

私はバンドを組んでいて、UKロックのカバーをよく演奏していたこともあって(私の担当は、ヴォーカルとキーボードとギターをほんの少しだけ)、Radioheadの「Pablo Honey」からはじまり、The Stone Roses、Primal Scream、Joy Division、New Order、Massive Attackなどなど、バンドメンバーから「とにかくいいから聴け!!」と言われたものを、せっせとダビング(死語?)。

無限に広がる音楽の海に飛び込んで、がむしゃらに水をかき分けて、泳いだり、溺れたり、浮かんだり、そんな毎日だった。

一方で、誰かにおすすめされるわけでもなく、たまたまどこかで耳にした曲が、頭に残って忘れられないことが何度かあった。
その「未知の曲(たち)」は、タイトルもアーティスト名もわからない。
なので、CDをレンタルすることもできない。

でも、いつか「未知の曲(たち)」の正体がわかる日が来るんだろうと、タイムカプセルみたいに大切にとっておいているような、未来にちょっとわくわくするような「自分だけの秘密」、そんな感覚もあった。

ある日、新譜をチェックしに渋谷のタワレコに行った。
(当時は)あまり行かなかいワールドミュージックの階にふらっと立ち寄ったその瞬間、「未知の曲」のとある1曲のことを急に思い出した。(その曲の歌は、明らかに英語ではない外国語だった)
ついにこの時がきた!今しかない!
私は、店員さんにそーっと近づいていく。

「すみません、欲しい曲があるんですがタイトルもアーティスト名もわからなくて・・・」
「そうなんですね、どんな曲ですか?」
「えーっと・・・(一呼吸おいて)どーばぱぁぬるえむん~♪・・・という感じなんですが・・・」
「ああ、それですね!ちょっと待ってくださいね」

店員さんがテキパキと売り場へCDを取りに行き、戻ってきた。
レジのカウンターのCDプレイヤーにCDを入れ再生ボタンを押す。
私にヘッドフォンを手渡してくれて、その場で試聴させていただく。

「これですか?サビまでちょっとありますけど」
「(聴きながら、サビを待つ)」
「(サビが流れる)」
「・・・これです!!・・・す、すごい・・・!」

それではお聴きください。
Elsaで「T’en vas pas」


それから随分と時が経って、お酒も嗜むお年頃。
元DJだった友人に連れられて、恵比寿にあるソウルバーに行ったある日。
2件目だったこともあってほろ酔いの私は、人生初のソウルバーという慣れないシチュエーションでもあまり気を張ることもなく、あたたかみのあるレコードの音に包まれたお店の雰囲気にうっとりして、いい気分だった。

その時ふと、とある「未知の曲」の1曲のことを思い出した。

「あの、ずーっと前から気になってる曲があるんです。ここになら、ある気がして」
「なんて曲ですか?」
「それが・・・タイトルもアーティスト名もわからなくて・・・」
「ほう・・」
「こんな曲です ♪ん~ふふ~ んふふふっふ~・・・」
「ああ!わかった、あれだな」

マスターはそう言って、ずらっと並ぶ大量のレコードの中からすっと1枚取り出して、ターンテーブルに針を落とした。
イントロ2秒で、私はすぐに、その曲とわかった。
「わぁーーー、この曲です!これです!これです!」

それではお聴きください。
Al Greenで「I’m Still in Love with You」


「未知の曲(たち)」は、突然、私たちの元に舞い降りる。
そして私もいつか、鼻歌でわかる人になりたいな。


おまけ:バンド時代にカバーしてた曲のプレイリスト


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