ルリジサ(誕生花ss)
明日はいよいよ入社式だ。就活では苦戦して、それこそ何十社にも落とされたけれど、なんとか熱意を買ってもらい、最後の最後に内定を勝ち取った。正直言って、特に強みも何もない俺を雇ってくれる会社なんて、ないと思っていた。だからこそ、明日からはその恩を返すつもりで頑張らなくてはいけない。
新品のスーツ、新品の鞄、新品の靴。提出しなくてはいけない書類も揃えたし、挨拶の言葉も頭に入れた。
だけど、まだ何かが足りていない気がする。
どうしても拭えない焦りに頭を抱えているときに、スマホにメッセージが届いた。大学在学中、ずっと続けていた家庭教師のバイトで受け持っていた、特に勉強が苦手だった中学生からだ。簡単な近況報告のあとに、こう続けられていた。
『オレ、勉強全然だめだったけど、先生がいつも励ましてくれたからどうにかやれました。先生のお陰で、高校受験も頑張ろうかなって思えるようになりました。オレ、先生がいなくてもあと一年頑張って、先生と同じ高校を目指そうと思います!』
彼の笑顔が脳裏に浮かぶ。
出会った時は自分に自信が持てず気弱な笑みを浮かべてばかりだった彼は、最近、もっと素直な笑顔を出来る様になってきていた。それはひとえに彼の努力の賜物で、そのひたむきな努力が、教える立場の俺の胸をも熱くしたのを、思い出した。
浮かぶ彼の笑顔につられて、自分の口角も上がっていることを感じながら、俺は画面に指を走らせる。
『ユウト、ありがとう。ユウトの宣言で、俺も勇気をもらえた。明日からも、お互い、頑張ろうな』
胸を占領していた焦りは、どこかに消えた。代わりに、明日からの新しい生活への期待が、ふつふつと湧いてきた。
花言葉「勇気」。明日から新年度なので、時節に合わせました。
いただいたサポートは、私の血となり肉となるでしょう。